2月19日(日)、渋谷WWWXにてD.A.N.の自主企画『TIMELESS#2』が開催された。
ダンスミュージックのグルーヴをバンドサウンドで表現した、今最も注目すべきバンドD.A.N.。
Warpaint、宇多田ヒカル、Taylor Mcferrinなどといった、多彩なアーティストから影響を受けたことで生まれた、独自の冷たさが特徴的である。
チケットがソールドアウトしたこともあり、会場であるWWWXは超満員の熱気に包まれていた。メンバーが若いこともあってか、若い男女が中心である。
開演時間19時。
ここから私は、終演まで時計を見ることを忘れた。
この日唯一の共演者であるMndsgn(マインドデザイン)の来日公演で、イベントは幕を開けた。
Mndsgnはロサンゼルス出身のRinggo Anchetaのソロプロジェクト。LAのヒップホップをはじめ、ファンク、ディスコなど多様な音楽をミックスさせたメランコリックなサウンドが特徴である。
この日はバンドセットでの公演。
ピアノの伴奏から始まり、 Mndsgnが短く挨拶をする。
薄暗い照明のなかだったが、鮮やかなシンセの音はモネの絵画のような彩りを空間にもたらしていた。ファンタジックな展開をみせる楽曲の数々に、D.A.N.目当てで来たと思しき人々も次第に身体を揺らしはじめる。
ふわふわと、またふわふわと、アトモスフェリックなムードに包まれ、あっという間に終わりが近づく。
最後はMndsgnがプロデュースを手がける女性R&BシンガーのJoyce Wriceがゲストとして登場。彼女との共作シングル『Rocket Science』の収録曲2曲を披露 。鋭さを兼ね備えた上品なクリーンボイスで会場を虜にし、終演。
まさにイベント名『TIMELESS』にふさわしい、時の流れを感じさせない前半戦であった。
しばしのブレイクタイムののち、薄暗い照明に彩られD.A.N.が登場。
「D.A.N.です。よろしく」とシンプルな自己紹介を合図に、D.A.N.ワールドが幕を開ける。
一曲目は、無機質な木琴が響く『Zidane』。
天井の青い照明と、足元の白い光が変幻自在に交錯するなかで、アシッドフォークのごときリバーブのかかったボーカルがこだまする。
氷のようでありながら人間的な暖かさをはらむグルーヴに、満員の客はみな魂を奪われたように左右に揺れる。
一曲目だけでも多方向からのアプローチが感じられ、一言で定義するのが難しいバンドだと再認識させられる。
(D.A.N.『Zidane』MV)
「ありがとう」
曲の終わりに一言。
間を置かずして、先のMCのようにミニマルなビートが始まる。『SSWB』。
これも彼らの代表曲の一つである。知っているファンたちの、無言の高揚感が肌に染み渡る。
(D.A.N.『SSWB』MV。柳俊太郎、小山田米呂らが出演している)
彼らは止まらない。導入部分の英語のナレーションが入った瞬間、私も完全に会場の高揚感と同化した。『Ghana』だ。グリーンの光の中で、冷たいシンセとベースのハーモニーが続く。曲が盛り上がりをみせる瞬間、照明が一斉に黄色に変わる。ラテンアメリカの砂漠のように鮮やかでありつつも、派手すぎない。「シティボーイ」なのだ。彼らがどこかのインタビューで「無理しすぎない」と言っていたのを思い出す。若くして圧倒的なパワーで場を掌握しながらも、等身大をキープしている。
(D.A.N.『Ghana』MV)
しばらく流れるように時が過ぎ、細やかなエレクトロノイズとともに『DIVE』がスタート。東欧のエレクトロニカに感じられる綿密に計算しつくされたエレクトロノイズとミニマルビートが重なり、中盤からは中期PiLを彷彿とさせるディスコティックなシンセが入り交じり、めまぐるしく切り替わる白の照明が演奏のパワーに拍車をかける。
曲が終わると、Synth/Vocalを務める櫻井大悟のMC。先日発表されたワンマンツアー『TEMPEST』の開催を再告知。「もうソールドアウトの気持ちなんだけど」とおどけると、客席に笑いが起きる。
それから数曲ののちに、5月のツアータイトルになった新曲『TEMPEST』を披露。「嵐」の名に恥じない力強いベース音が楽曲をリードし、黄色い照明とどことなく荘厳な声音が、スピリチュアルな魅力を溢れさせる。観客全員をそっくり次のツアーまで連れて行ってしまいそうなオーラのみなぎる曲だった。
間髪入れずに『Time Machine』の演奏を駆け抜け、一旦終了。
アンコールが起こると、あまり待たせることなく再登場。
「Mndsgn最高でしたね。僕ちょっと(Ringgoと)顔が似てると思う」
またも櫻井が冗談めかしたMCで観客を湧かせる。「(自主企画は)ホームで試合する感じ」という若者らしい表現から、メンバーはみんなサッカーが好きなのかな? と思いを馳せる。ドラムの川上輝は学生時代にサッカーをやっていたというし、ひょっとして一曲目の『Zidane』もあのジネディーヌ・ジダンから名付けたのかしら……と、想像を膨らます。
アンコールに応え『POOL』が始まる。
深海を這うような広がりのあるシンセとドラムの波に乗るように、ギターに音色が泳ぎだす。もはやこのライブには時間も、空気もなかった。彼らの冷たさと暖かさを共生させた、豊穣なテクノポリスとの同化に酔いしれた。
全ての演目を終え、最後はMndsgnとともに観客へ一礼。
観客の笑顔と余韻に浮つきつつ、私は時計の針を開演から一度も見ていなかったことに気づいた。
彼らのTimelessな空間構築に、まんまとはめられてしまった。
(D.A.N.『POOL』MV)
「日本におけるEDMの流行は聖地イビサ島から5,6年ほど遅れてやってきた」という話を聞いたことがある。グローバル社会をもってしても、それだけのタイムラグが起きてしまうという旨だ。
しかし、D.A.N.が響かせたサウンドには世界から遅れるどころか、日本独自のポップスセンスをブレンドし、今までの歴史とは違う、新しい基軸となる音楽を創造しつつあるのではないか。その速度は今までより明確に、かなり確実に、トップギアへ向かっている。
先ほど、「D.A.N.を一言で定義するのは難しい」と述べた。
それはあくまでジャンルの話であり、垣根を超えて定義するならば答えは単純。
D.A.N.は日本の音楽シーンを加速させるバンドだ。
D.A.N.(だん):
2014年8月に、桜木大悟(Gt,Vo,Syn)、市川仁也(Ba)、川上輝(Dr)の3人で活動開始。様々なアーティストの音楽に対する姿勢や洗練さ れたサウンドを吸収しようと邁進し、 いつの時代でも聴ける、ジャパニーズ・ミニマル・メロウをクラブサウンドで追求したニュージェネレーション。2014年9月に自主制作の音源である、CDと手製のZINEを組み合わせた『D.A.N. ZINE』を発売し100枚限定で既に完売。2015年7月にデビューe.p『EP』を7月8日にリリースし、7月にはFUJI ROCK FESTIVAL ‘15《Rookie A Go Go》に出演。 9月30日に配信限定で新曲『POOL』を発表。2016年4月20日には待望の1sアルバム『D.A.N.』をリリースし、CDショップ大賞2017ノミネート作品に選出される。7月には2年連続でFUJI ROCK FESTIVAL’16の出演を果たす。
(オフィシャルサイトより抜粋)
オフィシャルサイト
Instagram Daigo Sakuragi
Instagram Jinya Ichikawa
Text_Reika Onda
Edit_Sotaro Yamada
Photo_Ray Otabe
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