ヒップホップやR&B、ポップスといった既存のジャンルの向こう側にある、パーソナリティを突き詰めたボーダレスなセンス。枠に捉われずに自分らしくあることを肯定する言葉。新世代のアイコンとしての階段を着実に上ってきたように思えるちゃんみなが、その価値を自ら揺らす。「note-book -Me.-」、「note-book -u.-」と名打たれた2枚1組の作品。一聴すると、前者は自問自答の末に手に入れたカタルシス、後者はダークサイドからの叫びのように思えるが、それらは単純に天使と悪魔に割り切れるものではない。ふだんの自分とは?アーティスト・ちゃんみなとは?ここにきて踏み込んだ、根本的な存在への自問自答の先に生まれた言葉とフロウ/メロディの威力とカオスの渦に、あなたは何を思うだろうか。
Photography_Ryosuke Misawa
Interview&Text_Taishi Iwami
Edit_Mine.k
――今作のタイトルにある“Me.”は”私”だと思いますが、“u.”は単純に誰かを指した”あなた”ではなく、ご自身のことですよね?ちゃんみなさんは、これまでも自らが経験した出来事をベースにリリックを書いてきましたが、今回はもう一歩踏み込んだ、そんな自分が存在する意義そのものにアクセスした作品になった理由を教えていただけますか?
この作品は、もともと出す予定はなかったんです。私はふだんから、10代は10代、20代は20代だからこその感覚を大切にして、“今しか書けない曲”、“今だからこそ作れる作品”をテーマに活動しています。そのなかで2019年の2月に出したシングル「I’m a Pop」から、夏に出したアルバム「Never Grow Up」は、20代になったからこそ直面する問題や感情と向き合った曲を作るために、過去から現在、未来へと向かって、いろいろと探しながら制作していたんですけど、両者の間くらいの時期に、「あ、これヤバいぞ。20代ならではのあれだ」ってなっちゃって。
――何が“ヤバい”のですか?モラトリアムとの対峙とか?
私だけが特化してどうというわけではなく、なんかそういう、人並なことですね。音楽活動をはじめた18歳から、恋愛も仕事も感覚が変わってくるじゃないですか。簡単に言うと、自分自身のことや現実が、よりわかってきたんです。それは決してポジティヴなものではなく、その感情を消化するには、曲を作るしかなくて。
――おっしゃるような感情には、なんとなく蓋をして、メンタルの浮き沈みと付き合うやり方もあると思うんです。そのほうが楽でもある。
なんで私ってこんな人間なんだろうとか、私の想像力って人と違うかもしれないとか、気づき始めて、すごくめんどくさくて放っておきたかったんですけど、気持ち悪さが勝ったんですよね。それで、心理学とか一人っ子の属性とか、いろんな本を読み漁って。辿りついた結論は、自分の言葉でしか自分は救えないんだってこと。自分が共感する音楽を自分で作ることでしか解決しないんですよね。私はアーティストなんだって、思いました。
――ちゃんみなさんは、人と違っても構うことなく自分らしく日々を過ごすことの大切さを言葉にし、それがメッセージとなって多くの人々を鼓舞してきたと思うんです。でも実は、人と違うことを怖れていたのですか?
そういう言葉を、世の中の風潮に対するアンチテーゼとして発していたわけじゃなかったんです。みんながそういう考え方だと思っていて。でも、そこで他人とベクトルが合わないことが出てきて、もしかしたら私がズレてるんじゃないかと。だから、改めて自分を分析しようと思いました。
――分析してみてどうでしたか?
結論そのものは同じなんですけど、より深い部分で、自分のことも他人のことも許せるようになりました。
――「note-book -Me.-」はふだんの自分、「note-book -u.-」はふだんの自分から見たアーティストとしての自分、とも取れると思いますがどうでしょうか。
大きく言えばそういうことですね。私は思ったことをノートに書く習慣があって、それを読み返した時に、少なくとも2つの人格があるのかもしれないと思いました。そこで、両視点を軸に4曲ずつ、計8つの感情をひとつずつ尖らせていく作業だったんですけど、結果的には“Me.”も”u.”もあまり変わらないと思いました。明確な線ではなくグラデーションのような感じで。
――確かに、どちらにあってもおかしくない表現は多く含まれていると思います。
両者の違いを言葉にするなら、“Me.”は希望的で“u.”は絶望的な自分であるような気がします。
――とはいえ、“u.”で、アーティストとして圧倒的に絶望していたらここにはいらっしゃらない。
例えば、“u.”の「Baby」は「別に、クレイジーって言われてもいいし」とか、「Picky」も「私はピッキーだけど何か?」みたいな投げやりな感じですね。それに対して“Me.”は、いろんな葛藤があったけど信じてみようって、やっぱり希望は見ていたい自分。どっちの感情も大切なんですよね。でも、”Me.”の「ルーシー」は相手の裏切りに対して呪いチックに終わってるし、「ボイスメモ No. 5」はあなたも私も変だけど、それで完璧、みたいな曲。オチをつけに向かったかそうでないかくらいのことで、どっちの精神にも境界線はそんなにないんですよね。
――「Picky」について、実際に独特の思考やこだわりをお持ちなんですか?
私は今まで自分がそういう人間だって自覚してなかったんですけど、スタッフがある人に私を紹介するときに、「She’s so picky」って言ったんですよ。そこで「たしかにそうかもしれない」って。玄関を出るときは右足からじゃないと気持ち悪いとか、右足と左足、均等に踏まなきゃいけないとか、小さいこだわりが多いんですよ。友達に聞き直しても「それちょっと変わってるよ」て。じゃあもう私はピッキーだって、堂々と名乗った曲です。
――わかります。私も靴は左から履かないと嫌で、どっちから履いたか自覚がないときは、戻ってやり直すんで。
近い(笑)。私も、歩いていると人に話しかけられたから右足で止まって、次も右から出ちゃったらやりなおしますもん。“カフェラテ1つ氷は無しで 周りの水も拭いて持ってこいよ”っていうラインとか、めちゃくちゃ気に入ってます。
――同じく「note-book -u.-」から「KING」の目線も似たような雰囲気があって、まさに王様のような圧倒的スター感を味わったことはあるんですか?
これは、デビュー当時の「未成年」という曲で“そろそろ始まるからね席替え”というフレーズがあるんですが、その席替えはもう終わったという気持ちを表現しました。裏を返せば、周りなんて気にしないで自分をしっかり見つめたほうがいいよって、自分へのメッセージもあったかもしれません。
――「note-book- Me.-」の「ルーシー」は“呪い”とおっしゃいましたが、“u.”と重なる強さを感じます。
私が憧れを抱いていた偉大なミュージシャンって、みんな不幸な結末を迎えていて。それを人々は美しいと言う。ほかにも、実力で上ってきたと評価されているあるミュージシャンが、結婚して売り上げが落ちたとか、それって幸せな表現者にはあまり共感が持てないってことなのかと悩んだんです。今まではそういうことを考えずに走ってきたんですけど、よくよく考えたら、私を音楽人間に後押ししたのはあなたたちなのに、どうしてこんなに大変なところだと教えてくれなかったのかって、怒りをぶつけるところがなくて。これって、ふだん私が好きな人のことを書いた、すなわち“Me.”のコンセプトの曲なんですけど、結局アーティストとしての私、“u.”にも繋がりますし……話してると、ますます2つの境界線がわからなくなってきました(笑)。
――それこそがちゃんみなさんの音楽の魅力、リアリティだと思うんです。表現するうえで、無理に整合性を取りにいかないから、ライフスタイルとの誤差がない。なおかつしっかりエンタテインメントにしている。そんなご自身の作品が、受け取った人におよぼす影響については、どう考えていますか。
ほぼゼロと言っていいほど考えてないですね。とはいえ、今まではいろんなカードがあるなかで、いつどれをどう出すか、みたいなゲームをしている感覚はありました。でも今回はそれすらなくて。
――“ゼロ・オブ・ゼロ”な作品だと思いました。
まさに。今回は完全に無視してます。誰も踏み込めない一人の世界で、好きな色を使って自由に塗りました。だから私としてはすごく満足しています。
――それによって、ちゃんみなさんの根底にあるアーティストシップがよりはっきりと浮かび上がってきたとも思うんです。
もうリスナーに合わせるのは止めるべきだという意志はありますね。ある意味押しつけでいい。今作がスタンダードとして、世の中に受け入れられるようになってほしいし、大衆的なシーンにおいても、もっともっと、アーティスト先行でクリエイトしていくべきだと私は思います。
――どんな意図の作品にせよ、出してしまえば評価にさらされることになります。そういう軸で、タイムリーな音楽界の話題についても、意見を聞かせてください。今年のグラミーの主要4部門受賞を含む5冠を10代にして獲ったBillie Eilishについては、どう思いますか?
私の推測ですけど、Billie Eilishさんもリスナーに合わせたつもりはないと思うんです。
――そこに、今のティーンならではの新しい感覚や斬新なサウンドがあった?
「え?なにこれ?」みたいな。それをメディアやほかのミュージシャンもカッコいいって言い出して広がっていった。そこには、私がここで言う押しつけに近い部分があると思っていて。それが今の日本にはもっと必要。日本って、ジャンルも内容も、チャートの雰囲気がぜんぜん変わらないじゃないですか。ずっと変わらずウケるものがあることは素晴らしいけど、もっと幅広い受け皿があっていいし、いろんな音楽が出入りしていい。
――はい、そう思います。
それって、私たちミュージシャンとしては怖いことでもある。なぜなら当たりを狙うことが難しくなるから。でも、それでこそ面白いし文化が発展していくと思います。私自身、出自としてはヒップホップにいると、「これはちょっとハードかな」とか「ジャンル的にちょっと」とか「世の中に合わないかな」とか、そういう意見を聞くことも少なくない。それって、前例からくる個人の感覚でしかなくて、そういう話は求めてません。そもそも、今売れている曲の傾向も、もともとは誰かがヒットする環境を作ったわけで、そう考えたら、その線上にはいない、私の曲ベースで言うと、「Picky」とかもヒットにできるパワーがあると思うんですよね。
――確かに。
いつまで前例の話してるんだって。それに対して変なものを、どんどん取り込んでいくべきフェーズはもうとっくにきてる。そういう意味ではKing Gnuさんのサウンド感とか、すごく面白いし希望が持てます。カッコいい方はたくさんいるので、みんなが同じフィールドで戦えるようになってほしい。若い世代の意見はすでにみんな一緒だし、あとは正直、大人やメディアもしかり、伝える人たちの力も必要なんです。
――今作を経て、この先の作品へのヴィジョンは持てましたか?
今はこの作品の満足感に浸っているところで、明確なヴィジョンは特にないんですけど、とにかく惑わされずに、先陣を切ること。どのジャンルでもない自分の色を出していくことからブレずに、自信満々にやっていきたいです。そこに人がついてくるのを楽しむくらいに。
<EP「note-book -Me.-」>
1.ボイスメモ No.5
2.ルーシー
3.I cannot go back to you
4.note-book
EP「note-book -u.-」
1.In The Flames
2.KING
3.Picky
4.Baby
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