2017年6月25日、avengers in sci-fi(アヴェンジャーズ・イン・サイファイ)の結成15年を祝うライブが行われた。会場となった「下北沢ERA」も奇しくも今年で15周年。そして彼らが出会った15年前、私はアベンズのスタッフとして活動を共にしていた。15年。さまざまな思いが交錯したアベンズの夜をレポートする。
Photography_Hiroaki Kuwabara
Text_白石晃士
Edit_ADO ISHINO(E inc.), 司馬ゆいか
【avengers in sci-fi】と【下北沢ERA】
本題に入る前に、アベンズと下北沢ERAの特別な関係について書き記そうと思う。
今でこそ、シンセサイザーや電子音を取り入れているバンドはメインストリームの一端を担っていると思うが、アベンズは早くからそのスタイルを確立していた。しかし当時(15年前)のアベンズは「不遇な時」を強いられていたように思う。
彼らが拠点にしていた下北沢や渋谷のライブハウスで当時流行していたのは「青春パンク」といわれる音楽。爆音をかき鳴らし、シャウトする。シーンはそんな音楽性を持つバンドや、それを好むフォロワーたちが圧倒的な数を占めていた。
アベンズは、どのライブイベントに出演しても常に浮いた存在だった。ライブを重ねてもファンが付かない状況。今思えば、バンドをやりながらの日々のバイト代は、すべてライブハウスが課すノルマの支払いで消えたんじゃないか……。それでもアベンズは自分たちのスタイルを崩すことなく月に3〜4本のペースでライブし続けた。なりふり構わずに。
「青春パンク」ではない彼らに対する風当たりは強く、ライブ後のアンケートにはこんなことを書かれたこともあった。 「バンド名が読めない」「前向いてライブしろ」「歌が日本語なのか英語なのかわからない」「へたくそだからボーカルは歌うな」。
この状況からアベンズを救ったのが「下北沢ERA」である。
下北沢ERAとavengers in sci-fiの相性は抜群だった。ERAは当時のバンドシーンから浮いていた存在のアベンズに相応しいPAと照明を与え、志を共にするバンド仲間を与え、音楽を理解するファンを与えた。
そして、みるみる力を付けたアベンズが十分に集客できるくらいの力がついたころ、
ERAが運営するレーベル 「blue green」から彼らの1stアルバム「avengers in sci-fi」がリリースされたのだ。下北沢ERAとの出会いこそが、今のアベンズの道を開いたのだ。
あれから15年。『avengers in sci-fi ×下北沢ERA presents ‘NEW ERA’』
ERAの代名詞でもある長い階段を上ってフロアに入ると、岩下の新生姜とのコラボドリンクの発売やCA4LAとのコラボキャップ販売といったナウい物販もあってか、お客さんの出足が早く、開演前から非常に良い雰囲気である。
『アベンズには華がない』とはよく言われる言葉。さらには「イケメンはいない」「MCもうまくない」「カリスマ性がない」こんな感じだ。だからこそ純粋に「アベンズの音楽」を楽しみにしているオーディエンスで場内は溢れていた。ステージが暗転しても歓声一つ上がらない。それで良いのだ。
自作のSE(ライブスタート前の効果音)で3人が登場。流れているSEに被せるように木幡太郎(Gt.&Vo.)の「NEW ERA!HUMAN!」という掛け声でアベンズの音は転がり始めた。
1曲目は? 緊迫感が場内を包む。そんな空気を切り裂くように炸裂した「NAYUTANIZED」のリフ。湧き上がるファンの熱量に呼応するようにERAが持つ独特のベースの低音が唸りを上げている。NAYUTANIZEDは初めてお披露目されてから何度アレンジされたかわからないほどに進化を続けているが、この日はDAFT PUNKの楽曲フレーズを取り入れたアレンジを聴かせてくれた。
続いて「NO PAIN NO YOUTH」。いまのアベンズで最もアガる曲といえばこれだろう。ロック、ダンス、クラブ。どのジャンルのハコに持っていっても間違いなく盛り上がるだろう。曲の展開、ダンスサウンドとしてのクオリティなど褒めるべきポイントはたくさんあるが、最も注目すべきは、シンセサイザーが鳴らす音だろう。どこか人懐っこく、胸に焼きつく音色。気がつけばカラダが揺れている。彼らの代表作である「Yang2」は演歌だと思っているが、この曲もそれに近い人肌を感じるのだ。ここぞとばかりに、ハンドマイクを片手に歌い煽る木幡太郎のテツandトモのような手の動きに少々苦笑い。
MCをはさみ、「DUNE」が始まる。結成から15年、メンバーですらまさかこんなど直球な縦ノリのRockをやると想像していただろうか。この日は木幡太郎と稲見喜彦(Ba.&Vo.)のボーカルの響きに神々しさすら感じた。巨大な化け物の如くうねる楽曲。ほんの一瞬で飲み込まれてしまいそうになる。ステージとオーディエンスを照らす真っ赤な照明が化け物の体内にいるかのような錯覚を起こさせた。
「Vapor Trail」では長谷川正法(Dr.)が打ち抜くビート、疾走感と熱量が最高に気持ちよく、ただただ頭を振っていた。
木幡太郎(Gt.&Vo.)
最新作の「Light Years Apart」。“牧歌的×avengers in sci-fi=哀愁感”。 最近はこの方程式がよくハマる。アベンズらしいメロディで、実はこういう泣きのメロディを歌わせたら稲見喜彦の右に出るものはいないんじゃないかと個人的に思っている。その昔「へたくそだから歌うな!」とアンケートに書いたヤツに聴かせてやりたいよ。
稲見喜彦(Ba.&Vo.)
続く「不時着」この曲のおもしろさは前半のDUBな感じから、後半にガラリとROCKな曲調へと変わっていく意外性メリハリのスリルにあるのだが、本楽曲以降でもこのアベンズの黄金律を感じることができる楽曲が多数存在するので、あらためて過去作から順を追って聴いてほしいと思う。
長谷川正法(Dr.)
この日の ERAのエントランスにはファンの有志一同から届いた、綺麗な青で彩られたフラワースタンドが飾ってあったんだけど、彼らの代表曲のひとつでもある「Sonic Fireworks」を聴きながら、あのブルーのフラワースタンドはこの曲を象徴していると思った。綺麗でいて青い炎のように静かに高温に燃えている、そんな曲なのだ。
「Sonic Fireworks」からつづくドラムのテンポで、次の曲が個人的に大好きな「Pearl pool」だとわかってニヤニヤしてしまう。
曲のBPMの切り替えの完璧さ、三人のアンサンブルはとにかく圧倒的で、この日一番のように思えた。「ここは少し肌寒い春の新木場のプールの前か?」なんつって。
「Tokyo Techtonix」で披露される木幡太郎の熟練したギタースクラッチはさしずめタロ・モレロ。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン信者の私としてはもっともっとタロ・モレロ化して欲しいと思った次第。渋谷系なムードの楽曲にギタースクラッチを取り入れ、ベースはイナチョッパー、サンプリングはDJ KAGAMI この組み合わせの妙が現代最先端なのかもしれない、セットリストの常連である理由がわかる。
続く「EZ FUNK」。ライブではいつでも全力投球!に見えるアベンズだが、実は肩の力を抜いた曲も上手く使い分けているように思う。レイドバックしたメロウさを残しつつも強烈なグルーヴを持つ楽曲をつくってしまうアベンズだからこそ 15年も続けられてきたのだと思う。
もうバンド解散しちゃうんじゃないか。彼らのスタッフを経て15年、今でもこうして私はアベンズの近くにいるんだけど、そう思った場面にもたくさん遭遇してきた。それが今じゃ肩を抱いて歌うんだからさ、こっちが見ていて恥ずかしくてしょうがない。タロウ3(愛称)の肩を抱き歌う稲見3(愛称) 気持ち悪かったよ。
「20XX」から「CITIZEN SONG」へ、アベンズでは定番である、不動のクローザー的な流れ。
どんなに名曲であっても、飽きることがある。でもこの2曲の連続した流れは永遠に飽きずに聴くことができる自信がある。
2曲間で繰り広げられる頻繁なアナログとデジタルの音の往来。「20XX」の緊迫感と 「CITIZEN SONG」の開放感はとにかく最高なのだ。
「HAL THE SHOEGAZER」はリミックスVer.で披露された。ギターもベースも持たず、シンセを鳴らし歌うフロントの2人。美しい音像とエフェクトを掛けたボーカルの響きが、アベンズの15周年ををセレブレイトしているようだった。この1曲にアベンズの繊細さと美しさが凝縮されていた。
すべての楽曲の演奏が終わり頭上を見上げれば、下北沢ERAの屋根は吹っ飛び、外にいるような開放感。曇り空は消え、綺麗な星空が広がって見えた。
avengers in sci-fi 15周年 おめでとう
継続は力であり、継続こそが成果だ。
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