ライミング講座:吉本新喜劇もびっくり
さて、KREVAによるスペクタクル・ショーはここからギアが変わる。
転換の間、スクリーンに映し出されていた三日月はゆっくりとふくらみ、やがて満月になる。するとステージには教室風のセットが組まれている。KREVA先生による「ライミング講座」の始まりである。
ヘビ革のロングコートを白衣風に着こなしたDr. KことKREVA先生。この日は9月8日、つまりクレバの日だというのに、生徒が遅刻していることにご立腹。
ガリ勉牛乳瓶メガネの風紀委員・三浦大知君、不良留学生のAKLO君、そして留学生に間違われがちの大阪人JAY’ED君がそれぞれ学ラン姿で現れ(「ガ(雅)」ことMIYAVI君は世界で活躍中のため欠席とのこと)、吉本新喜劇もびっくりのコメディで武道館に爆笑の渦を巻き起こす。
照れ屋な転校生・絢香ちゃんと、OBで今は学校の用務員をしている久保田利伸先輩も入り、KREVA先生から楽曲『ビコーズ』を通して韻の基本を学ぶライミング講座は、普通にライミングの基礎知識を知る上で役に立つし、かなり完成度の高い演劇として成立している。脚本、演出、リアルタイムで映される映像、そしてKREVAの演技自体も素晴らしい。
KREVAは近年、自身の楽曲で構成される舞台『最高はひとつじゃない』などの音楽劇も手がけており、その成果がこうしてライブにも還元されているように思える。ライミング講座だけでも2時間くらい見ていたくなるほどの面白さ。誰かがひとつセリフを言ったりアクションしたりするたびに笑いが起き、これだけのシンガー・ラッパーを贅沢使いした音楽も楽しめる。オチも素晴らしく、演劇関係者が嫉妬するレベルのミュージカル・コメディだった。
(ちなみに、KREVAの演技はかなりうまいが、三浦大知のコミカルな風紀委員ぶりも相当なものだった)
三浦大知:超絶技巧ダンスにKREVAのカバーに、908FESの準主役的な働き
その後、最新MIDIを使ってKREVAが弾き語りならぬ「押し語り」で三浦大知の曲をカバーすると、三浦大知のライブパートへと続く。
『(RE)PLAY』ではダンサーたちと超絶技巧ダンスを披露し、『EXCITE』ではオーディエンスを文字通りエキサイトさせる。タオルを振り回し踊るオーディエンスに武道館が揺れた。さらにはKREVAとコラボした『MAGIC』のリミックスではアコースティックver.でぐっと雰囲気を変えると、KREVAの名曲『瞬間speechless』をカバー。三浦大知らしくビブラートを効かせたスムースでゴージャスな『瞬間speechless』は、そのままシングルカットしても良さそうな仕上がりだった。
そして再び『U』ではダンサーたちを呼び込み、シンクロ率がスゴいと話題のダンスを披露。しかもスクリーンに映し出されたMVともぴったりシンクロさせるというスゴ技にオーディエンスは湧き上がった。
最後は『Cry & Fight』で自身のパートを締めたが、KREVAに次ぐ準主役的な役割を任された『908 FESTIVAL 2017』において、三浦大知の出番はまだまだ続く。
KREVA:王者の風格
トリはもちろん主役のKREVA。
色彩鮮やかな柄があしらわれた白いガウンで登場する様にはまさに王者の風格が感じられる。
『基準』では気合いじゅうぶんのキレある高速ラップを披露し、『王者の休日』では絢香と三浦大知を加えて贅沢なコーラスを披露。
また、改めてメンバーを紹介し、ファンにお礼を述べると、新たな代表曲である『居場所』を熱唱。この『908 FES』が自分たちで作り上げたみんなの居場所であることや、他に居場所がない人を積極的に受け入れる懐の深さも見せ、フロアからは大きな拍手が起きる。
『音色』では、途中で久保田利伸が舞台下よりポップアップで登場。最終部を久保田利伸に預けて、グルーブ利かせまくりのこの日だけの特別な音色を響かせた。
ラストの『Na Na Na』では銀テープが発射され、乱反射されるまばゆい光の中、オーディエンスによる大合唱が武道館に響き渡る。この曲の締めの部分、「Na Na Na」のところを完全にオーディエンスに任せて歌わせて本編を終えるあたりが、いかにも王者の余裕という感じがした。
時間が押してしまい、準備もままならないままアンコールに突入。
MIYAVIと三浦大知を呼び込み、自身の声が打ち込まれたMIDIを演奏しながら『Your Love』を歌い、さらにAKLOとJAY’EDを加えて『全速力』を、そこに絢香と久保田利伸も参加することに。
KREVA、三浦大知、MIYAVI、AKLO、JAY’ED、絢香、久保田利伸の7人が一堂に会する超豪華ステージで幕を閉じた。
演奏終了後、「全速力で帰るよー!」とお茶目に言いながら慌てて捌けて行ったKREVAの姿はなかなかレアだったのではないか。
オーディエンスもその場で余韻に浸ることなく、みな「全速力」で武道館を後にした。王者のファンはマナーが良いのだ。
KREVAの全盛期はいつか?ーー夏フェス終われど夢さめず
こうして『908 FESTIVAL 2017』は幕を閉じた。
今年も様々な夏フェスが各地で開催されたが、時期的に、『908 FES』が今年最後の夏フェス参加だという人も多かったろう。そして『908 FES』に参加した多くの人が、今でもさめないその余韻を味わっているだろう。筆者も『908 FES』の余韻がさめず、つい、当日にAKLOがアドリブで踏んだ見事なライミング(「908FES」と「夢さめず」)をレポートのタイトルにサンプリングしてしまった。
さて、冒頭でKREVAの略歴を紹介する際、「日本の音楽シーンに多大な影響を与えた。」だの、「2002年にNHK紅白歌合戦出場」だのと色々書いたが、KREVAの全盛期は、もしかしたら今なのではないかという気がする。
2017年のKREVAは、ソロとしてアルバム『嘘と煩悩』をリリースした上に、KICK THE CAN CREWを完全復活させてアルバム『KICK』もリリースした。この短期間にこれほどクオリティの高いアルバムを2枚出すことは簡単ではない。
また、夏フェスにも多数出演し(『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017』にはKREVAとして初日に、KICK THE CAN CREWとして三日目に、計二回出演。なお両日とも収容人数約7万人のGLASS STAGEに出演)、2日間連続で武道館公演を開催。すでにSNSなどでは今回の『908 FESTIVAL 2017』のついて、これまでの『908 FES』と比べても特に素晴らしかったとの声が多数見受けられる。
充実という言葉が陳腐に思えるほど、今年のKREVAの活動は充実している。
たしかにKREVAは、ヒップホップを日本の音楽シーンに定着させた第一人者の一人であり、多くの人が憧れた「国民的」ミュージシャンであった。
しかし、「であった」と過去形にして語ることは、今のKREVAにはふさわしくない気がする。正確に言えば、「昔も良かったが、今はさらに良い」だ。
KREVAは、今が一番カッコ良い。
(セットリスト)
KREVA
1. 全速力(feat. 三浦大知)
MIYAVI
2. What’s My Name? Day 2 mix
3. STRONG(MIYAVI vs KREVA)
4. Dancing With My Fingers(feat. 三浦大知)
久保田利伸
5. M☆A☆G☆I☆C(久保田利伸 meets KREVA)
6. BETWEEN THE SHEETS(with KREVA)
AKLO
7. McLaren
8. Catch Me If You Can(feat. KREVA)
9. Different Man(AKLO×JAY’ED)
10. 想い出の向こう側(AKLO×JAY’ED)KREVA
絢香
11. くればいいのに(feat. 絢香)
12. Glory(feat. KREVA)
13. 三日月
ライミング講座
14. ビコーズ(KREVA、三浦大知、AKLO、JAY’ED、絢香、久保田利伸)
KREVA
15. Delete My Memory
三浦大知
16. (RE)PLAY
17. EXCITE
18. Magic Remix(Acoustic Session with KREVA)
19. 瞬間speechless
20. U
21. Cry & Fight
KREVA
22. 基準
23. トランキライザー
24. 王者の休日(feat. 絢香、三浦大知)
25. 蜃気楼(feat. 三浦大知)
26. 居場所
27. スタート
28. 音色(feat. 久保田利伸)
29. Na Na Na
en1. Your Love(feat. KREVA、MIYAVI)
en2. 全速力 REMIX(feat. 三浦大知、AKLO、MIYAVI、JAY’ED、絢香、久保田利伸)
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