夜の感覚
面白いカルチャーは、夜にその発芽が見られる。クラブイベントなんかがそれに当たるわけで、例えばドイツのベルグハインは、政府に重要文化財として認定されるほど存在感がある。変な意味でなく、朝まで一緒に過ごした人というのは、その後自分の中で結構大切な存在になったりする。そこで流れている音楽もまたしかり。クラブに行かない人は、修学旅行を思い出して欲しい。寝る前のおしゃべりが一番楽しかった、なんて人もいるはずだ。好きな子の話だったり、ちょっぴり卑猥な話だったり、実は嫌いな奴への愚痴だったり。普段言えないような話も、この時間なら許される気がする。今話題のアーティストの多くは、この「夜の感覚」を持っているように思うのだ。
金曜日の夜に、『Song For Future Generation』。
そんな彼らが集結するイベントがある。5月12日に恵比寿のリキッドルームで開催される、『Song For Future Generation』。本イベントはリキッドルームがスタートしたもので、今回は3回目にあたる。以前までとは違い、今度はオールナイト公演だ。これまでもD.A.N.やyahyel、ミツメなどがステージを彩ってきた。今回のラインナップも、odol、PAELLAS、向井太一、WONK、DATSといった、フレッシュかつエッジの効いた面々が名を連ねる。本稿では、さきほどの「夜の感覚」に基づき、僕の願望と偏見による仮想タイムテーブル上で各アーティストについて触れてみたい。
夜への誘い。オープニングDJにTOMMY(BOY)
服と音楽の御店『BOY』から、DJのTOMMY(BOY)が登場。彼は今年でDJ活動10周年を迎え、ますます精力的でボーダレスなプレイを展開しているところだ。ハコや時間帯によって曲のジャンルを変えることもできるが、果たしてこの日はどんなミックスを聴かせてくれるのか。今から大変楽しみである。また、彼が運営する『BOY』だが、赴くライブ会場で出店することもあるので、本イベントの当日も何かしらの動きがあるかもしれない。
夜が深まる前に。odolが彩る22時。
odolの曲はこの時間帯に聴きたい。時に激しく、時にミニマルに響く彼らの音楽は、まだ街の喧騒を感じられる22時ぐらいがよく似合う。ミゾベリョウ(Vo.Gt.)の透き通った歌声と、それに相反するようなシューゲイザーサウンド。そこへ流麗なピアノの旋律も入ってくるので、オーセンティックな印象も受ける。つまり、大変聴きやすい。一曲目に『退屈』を持ってこられたら一瞬でスイッチが入りそうだ。静謐なイントロから、冷えた空気を引き裂くような轟音に繋がる『飾りすぎていた』も良い。
odol – 『飾りすぎていた』
odolの秀逸さは展開の豊かさにあって、彼らは曲によってさまざまな表情を見せてくれる。上の『飾りすぎていた』に見られるような緩急のある展開もあれば、ずっと平熱のまま、けれどもしっかり人の温もりを感じさせてくれる曲もある。それが『夜を抜ければ』だ。この曲はライブが始まって少し経ってから聴きたい。真夜中への入り口にピッタリだと思う。
odol – 『夜を抜ければ』
23時の向井太一。夜の気配が濃くなるころのメロウネス。
日本からのインディーR&Bへの回答。ザ・ウィークエンドやアンダーソン・パークの音楽へ直接リンクしたようなサウンドに、日本語を乗せて歌い上げる。向井太一の音楽は、閉店間際の繊細な慌ただしさが似合う。例えば『ZEN』。BPM120前後のテンポで展開されるメロウなグルーヴが耳を引く。
向井太一 – 『ZEN』
これはこの世代の感性かもしれないが、彼は音楽に対して大変柔軟なスタンスをとっている。と言うのも、この世代は「ジャンル」というものにプライオリティーを置いていないのだ。様々なジャンルの音を積極的に吸収してゆく。『SIN』はトロピカル・ハウスにトライバルな要素を足したような内容だし、『TOUCH』は無機質に連続するスネアの音が印象的なトラップ仕様。この大らかさも、「夜の感覚」と言って良い気がする。
向井太一 – 『TOUCH』
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