「イヤミス」とは?
後味の悪い終わり方で、読むとイヤ〜な気持ちになるミステリーを指す言葉、「イヤミス」。
ミステリ書評家の霜月蒼が、「本の雑誌」2007年1月号開始の連載「このイヤミスに震えろ!」に使われたことから広まったとされています。
4/1に公開される清水富美加主演の映画『暗黒女子』は、お嬢様学校を舞台に起こる奇妙な自殺と、その周りの生徒たちの告白を描いた女子校ミステリー。少女×イヤミスという、抜群の相性の題材に期待が高まります。
(映画『暗黒女子』予告)
そこで今回は、「イヤミス」映画の中から、「女性」「少女」を題材にしたおすすめの作品を5作選んでみました。
告白(2010,中島哲也)
娘を生徒に殺されたシングルマザーの女教師の復讐を、役者陣の冴え渡る演技と、静謐な画面作りで、ミュージックビデオのようにテンポよく、キレよく描く。
松たか子さんの演じる冷徹な教師もいいけれど、北原美月を演じる、当時まだ14歳だった橋本愛が素晴らしい。
細くて小さい体と、刺すような眼、人形のように薄い唇。その口からは次々と「死」のにおいのする考え方や言葉が飛び出します。彼女の危ない魅力は、正直言って女の子なら目が離せません。
ゴーン・ガール(2014,デヴィッド・フィンチャー)
郊外の美しい主婦がある日突然失踪する。「私は夫に殺される」と殴り書いた日記を残してーー。
「完璧な少女」であることを求められ続けて大人になった女性が、夫に冷められ、とんでもないやり方で「あのころの夫」を取り戻すまでの話。
夫婦という特殊な関係ならば、エイミーしたことが、ほぼ実現可能なだけに余計に怖いです。
最も怖いのは、エイミーの動機が、夫婦なら誰もが相手に「させている覚え」があること。
「ただ、夫からの敬意がほしい!」……。
能面のように顔の変わらない役者、ロザムンド・パイクが抜擢された理由は、監督曰く「何歳だかわからないから」だとか!
『ゴーン・ガール』公式サイト
マジカル・ガール(2014,カルロス・ベルムト)
無垢な願いを持つ2人の”少女”たちと、それを叶えようと奔走する2人のおじさんたちの話。
グロもビックリも一切なしの静かな作品にも関わらず、それぞれの倒錯した想い、暴力や性を含んだ「超気持ち悪い」ストーリーが進行します。
白血病の少女・アリシアちゃんと、謎めいた美女・バルバラの対照的な魅力に、翻弄されるおじさんたちが萌えドコロ。
『マジカル・ガール』公式サイト
ヴァージン・スーサイズ(1999,ソフィア・コッポラ)
美しく可愛い10代の5人姉妹が、何の理由もなく突然全員自殺。
周囲の大人たちが全く理解できない彼女たちのことが、向かいに住む少年の視点で、ロマンティックに語られます。
本作がデビュー作だった稀代の”女の子映画”監督、ソフィア・コッポラの才能が光ります。
普通に撮ったら恐ろしいサスペンスになっていたはずの題材を、見事に美しく、ロマンティックな映画に仕上げたのですから。
渇き。(2014,中島哲也)
高校生の娘、加奈子が何の手がかりも残さず突然失踪した。父親の昭和は、娘の行方を追ううちに、次第に知らなかった娘の顔を知っていく。
「妻や娘を所有しなければ気が済まない父親」と、とんでもない根性と頭の良さで、暴力団とすら互角に闘う「誰も所有できない娘」。
終わり方の後味の悪さもさることながら、本作はあらゆる大人たちが女子高生を所有しようとすることと、「ここまで常識を逸脱していないと所有の手からは逃れられない」ことを突きつけられるようで、観賞後もいつまでも「イヤ〜な気分」が終わりません。
『渇き。』公式サイト
番外編:プリティ・リトル・ライアーズ(2010〜,ワーナーホライズンテレビジョン)
クラスのカーストの頂点の美しい5人組。そのボスであるアリソンが、忽然と失踪した。ある日、”A”と名乗る人物から、残された四人の秘密を書いたメールが送られてくる。仲良しに見えたグループは、全員がボスに秘密を握られていたのだ。なぜ? アリソンは誰に殺されたの? 本当は生きてるの? 残された四人による、腹の読み合い探り合いが始まった……。
小説のベストセラー作家サラ・シェパードの同名シリーズを原作とした、アメリカの女の子たちに大ヒットしたドラマシリーズ。可愛いくて腹黒い、スリリングな展開に、『暗黒女子』を気に入る人なら楽しめること間違いなしです。
ところで、「少女」と「ミステリー」とは、映画の歴史の中で古くから描かれ続きてきたモチーフではないでしょうか。
スタンリー・キューブリックが1962年に映画化した『ロリータ』は、一種のクライム・サスペンスとも言えるし、『ミツバチのささやき』(1973,ビクトル・エリセ)の主人公の姉・イザベルは、幼い少女が自らの死を弄ぶ、危ない魅力を振りまいていました。オーストラリアで実際に起こった事件を元にした『乙女の祈り』(1994,ピーター・ジャクソン)では、二人の少女が引き離されるのを怖れ母親を殺そうとするし、フランク・ヴェネキントの小説『ミネハハ』は、深い森の中でひっそりと運営される不思議な女子校をホラーテイストに描き、二度映画化されています。
時を経て、「イヤミス」というジャンルに親和するようになった「少女ミステリー」。
「イヤミス」という、観賞後も怖ろしさがいつまでも終わらないタイプの作品が、多感で不安定な内面を持つ「少女」たちを描くのに適しているのでしょうか。
「少女×イヤミス」という組み合わせから、これから映画史に残るような名作が生まれる期待に、目が離せません。
映画『暗黒女子』
【出演】
清水富美加 飯豊まりえ
清野菜名 玉城ティナ 小島梨里杏/平 祐奈
【原作】
秋吉理香子『暗黒女子』(双葉文庫)
【監督】耶雲哉治
【脚本】岡田麿里
【主題歌】Charisma.com『#hashdark』
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Text_Bega Hoshino
Edit_Sotaro Yamada
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