グロくてエグいのにやめられない映画『グリーンルーム』
(公式サイトより)
開けるな、開けるな、開けるな・・・あー!
このワンシーンを皮切りに、映画『グリーンルーム』は血みどろスリラーの本領を発揮する。
「パンクスvsネオナチ」というセンセーショナルな構図に引かれ、あまり予備知識のないまま映画館に行ってしまった私は(しまったー)と座席で固まった。その間にもスクリーンには観るのも痛い光景が次々と映し出されていく。
ちなみにちょっと耳慣れない「ネオナチ」とは、ヒトラーを崇拝しナチスの復興を主張する人や組織のことで、その特徴はスキンヘッド。
グロいのは得意じゃないし心の準備もできていないのでかなりキツい。なのにもうストーリーに引き込まれてしまっているので目をそらせない。結局最後の最後まで、どんなグロいシーンも1つも見落とすことなく釘づけになってしまった。
血みどろスリラーのくせに(そんなグロいもの映さないでー)と心の中で叫ぶ観客にさえ、観終えた後に「いやはや、おもしろかった!」と思わせる。そんなパワフルな映画『グリーンルーム』をご紹介。
楽屋を出たら死ぬ!?恐怖のサバイバルスリラー
(公式サイトより)
パンクスvsネオナチの勝負!
スリラー映画には“サスペンス寄り”と“ホラー寄り”がある。私が勝手にサスペンス寄りの方だろうと思い込んでいた本作は、完全に“ホラー寄り”スリラーだ。
舞台は田舎の外れの山中の、ネオナチが集まるライブハウス。報酬につられてそのステージを引き受けた売れないパンクバンド〈エイント・ライツ〉だったが、偶然にもネオナチによる殺人事件を目撃してしまう。
やばい、消される。パンクスたちはとっさの機転で楽屋に立てこもる。察しの通り目撃者を始末しようとくわだてていたネオナチも、これには手をこまねく。しかし生き延びるためには楽屋から出てネオナチ集団を強行突破するしかない。
パンクスたちは手に手に武器をとり脱出を試みるが、「扉を開ければ、死が待っている」のキャッチコピー通り、楽屋から出るたび1人、また1人と、仲間がネオナチに血祭りにあげられていく。そのやり方がもう本当にグロいのだ。
このまま全員殺されてしまうのか? サスペンスならともかくホラーならその結末もありえそうだが果たして?
ここが怖い!
グロさだけでも十分怖い本作だが、心理的な怖さもある。
籠城をきめこむパンクスたちがおそるおそる、「あれ、大丈夫・・・?大丈夫・・・かな?」と行動をおこすと、観客はシーンとしたスクリーンの中を見つめながら(ああ、来るんだろうな、来るんだろうな・・・)と、ハラハラドキドキを高めていく。そしてやっぱり、ネオナチが来るのである。
この『静か→驚く』のパターンが、閉ざされた空間の中で繰り返し展開するのだ。パンクスたちにとってたまらない状況なのはもちろんだが、観客たちも急勾配がいくつもある長い長いジェットコースターに乗ってる気分だ。
エンタメとしてだけじゃない、もう1つのみどころ
全米初登場1位を記録し、映画評論家の宇多丸氏から「『立てこもり攻防もの』の新たな大傑作!」とコメントされるなど、エンターテインメントとしてのおもしろさはお墨付きの本作だが、それだけの映画ではないらしい。
というのも、本作のメガホンをとったジェレミー・ソルニエ監督はVICEのインタビューで、ずっとパンクのエネルギー・思想・価値についての作品を撮りたかったと明かしているのだ。
それも、それらを映画の中で解説するのではなく、映画の世界観の中で観客が自然に感じとれるように気を付けたという。
『グリーンルーム』は優れたエンタメ作品であるのと同時に、「パンクとは何か」に接せられる作品でもあるのだ。
(公式サイトより)
音楽に疎い私がつい最近ネットで仕入れた知識をもとに「パンクとは」なんて語っても失笑ものだと思うので、この点については本作のとあるワンシーンに触れるだけに留めておきたい。ネオナチのライブハウスで、パンクスたちがステージに立つシーンだ。
強面のネオナチ集団に本当はビビっているくせに、そこは若者、ネオナチどもに見せつけてやろうぜ!とばかりに演奏したのは、有名なパンクバンドデッド・ケネディーズの『ナチ・パンクス・ファック・オフ』。
『ナチ』『ファック・オフ』と物騒な単語が並ぶが、反ナチの歌ではない。この曲が発表された当時めずらしくなかった、体育会系でカルト的なパンクのスタイルを批判する歌である。そんなのパンクじゃねえ、まるでナチじゃねえか、と。
実はジェレミー・ソルニエ監督がネオナチを敵役にした理由も、ナチス=悪だからではなく、ただ組織がしっかりした戦闘的な集団だからだそうだ。
デッド・ケネディーズが自分たちの主張をわかりやすくするためにナチを用いたように、ジェレミー・ソルニエ監督も彼にとっての「パンクとは」を伝えるために「パンクvsネオナチ」の構図を用意した。
ならば、ネオナチに立ち向かっていくパンクスたちの姿勢こそが、監督の考える「パンクとは」なのではないだろうか。と、しったかぶりはこの辺にしておこう。
ともあれ、作中音楽ネタがちょいちょいはさまれていることからも、音楽好きな人にとっては単なるおもしろいエンタメ作品以上の映画であることは間違いなさそうだ。
映画『グリーンルーム』公式サイトはこちら
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