映画出演とバンドとしてのスタンスについて
(miwa、坂口健太郎主演の映画『君と100回目の恋』予告編。二人が行くライブデートにて、憧れのバンドとしてSUPER BEAVERは出演。)
――今度、映画に出演されるそうですね。しかも、憧れのバンド役として出る……?
渋谷:そうです。主人公が僕らを観に来てくれるという設定で。
――そういう役で映画に出演されるというのが象徴的ですけど、SUPER BEAVERは若手バンドから憧れられる対象になってきてるわけじゃないですか。そうなると、自分たちの音楽観やシーンに対する意識って、変わりますか?
渋谷:あんまりですね。必然的な部分、年齢とともに感じる、年齢的なことでいう大人っていうことの責任感とか、自然に増えてくる後輩とか……いや、まったく変わらないかな。先輩は居続けてくれてますし、強いし。いつでも若手筆頭でいるつもりではいるんですよね、年取っても。そのスタンスではいたいと思ってるから。あぐらをかきたくないと思ってるし。もしも憧れてるって言ってくれる人が増えてくるのなら、それはそれでその時々の対応があるだろうし。自分たちでこうだって位置づけたりとかっていうのは、そこに対する俯瞰視はあんまりしてないかな。
――他のみなさんもあんまり変わらないですか?
藤原:僕はですけど、全く意識したことないですね。
――憧れのバンド役ってオファーが来た時はどう思いました?
藤原:いや、なんか、SUPER BEAVERって役ですよって話だったんですよ。だからそのまま普通にいつも通りでいればよかったっていう。
柳沢:まあ、若手の気持ちでいるっていうことは今後も続けていきたいなとは思うんですよ。スタンスは変わらないです。結果として「格好良い」って思ってもらえるんだったら良いことだと思うけど、そういうスタンスで先輩にも食らいついていきたいなと思いますし。それはたぶん今後も変わることのない根本的スタンスな気がします。
SUPER BEAVERの言葉について
――DVD『未来の続けかた』には、渋谷さんの書き下ろし小説『都会のラクダ』が封入されていました。ブログでその0章が読めますが、渋谷さんがこれまでどういう言葉や文学を読んできたのか、気になるんですよね。
渋谷:全然特殊なことはないですよ。
――0章のあの始まり方は夏目漱石っぽい。『夢十夜』って作品があるんですけど。
渋谷:本当ですか? ……でも俺それ読んだことないですね。
――始まり方も結構似てるし、言葉の選び方も通ずるところがある気がしました。渋谷さんの場合は語尾をカタカナにして柔らかくしてますけど、古典文学をたくさん読んでた人が自分の今の言葉に変えて書いているような感じがします。
渋谷:古典文学に精通はしてないですね、全然。義務的に読んだことはありますけど、好きで読んでるものの中に古典はそんなにないです。現代の作家さんももちろん読みますし、あとは、それより少し前くらいの、宮本輝さんとか浅田次郎さんとか。
――特別、夏目漱石が好きというわけではない?
渋谷:そうですね。夏目漱石も超ベタなのしか読んでないですから。『坊っちゃん』とか、『吾輩は猫である』とか。あとはカミュの『異邦人』とか、カフカの『変身』とか、通ったほうがいいんだろうなっていうものは通ったんですけど、理解には及んでないので。母ちゃんが本の編集やってるんですよ。一応読んでおけばっていうのを聞いて、母ちゃんに「これ分からなかった」って言ったら「いいんじゃん?」って言われて(笑)。
上杉:読むことに意味がある、と。
――じゃあ小さい頃からたくさん読書をしてきたんですね。
渋谷:いや、中学3年生からですね。それまでは本は読んでなかったです。
――何があったんですか? 中3のとき。
渋谷:風邪を引いたんです。
一同:(笑)
渋谷:風邪を引いて、やることがなかったんです。そしたら母ちゃんが本買ってきて。そのときは確か宮本輝さんの『青が散る』だったかなあ、『春の夢』だったか、忘れたけど、それを買ってきてくれて。「やることないんだったら読んでみ」って言われて、渡されて読んで。それからですね。角川書籍にやたらはまったり、三島由紀夫チルドレンみたいな現代作家さんの本をいっぱい読むようになったり。それでメフィスト賞獲ってる人とか三島由紀夫賞獲ってる人の本をいっぱい読むようになって、三島由紀夫を何冊か読んでみたりとか。で、村上春樹読んでみようとか。なんで流行ってるんだろう?とか考えて。そうやって読んでいってるので、かなり雑多だと思います。
――めちゃくちゃ読書家じゃないですか。三島由紀夫賞って結構マイナーな賞ですからね……。
渋谷:そうですね。でもあれを獲る人はなぜかメフィスト賞を獲ってて、「こういう作家さんにはどういう共通項があるんだろう」とか、「ああ、この書き方ってそういうことなのか」という読み方をする。「何故こんな改行しない?」とか。
――それって、舞城王太郎ですか?
渋谷:そうです! 舞城王太郎さんはとりあえず全部読んだかなあ。それから町田康さん読んだり。だんだん芥川賞と直木賞の違いとかわかるようになって。
――もはや文学研究者ですね。
渋谷:でもそれはただ貪欲だっただけですね。なんでこうなんだろうっていう。レコードをディグるのと一緒で。
上杉:興味だよね。
渋谷:そう。なんでヒロト(甲本ヒロト)がブルースハープ吹くんだろう、とか。そういうのから掘り下げていって、「ああ、ここにブラックミュージックがこう来るのか」ってわかるのが楽しい。エイティーズ、セブンティーズのパンクスがどう影響していて、ピストルズ、クラッシュがいて、「ああ、ヒロトはクラッシュ派なんだな」みたいな。そういうのと変わらなかったですね。でも自発的に動いて夢中になれたのは音楽と文章くらいかなあ。
――柳沢さんはたくさん読書しますか? 柳沢さんはSUPER BEAVERの作詞の多くを手がけてますけど、渋谷さんが言いそうな歌詞を書くのがうまいですよね。渋谷さんと言葉の感覚が近くないと、あんなふうに書けないと思うんですが。
柳沢:僕も好きで読みますけど、(渋谷の)隣にいると、好きですっていう度合いがね……。(渋谷に)5冊くらいいつもストックしてないと不安なんでしょ?
渋谷:今は10冊以上。毎回本屋さんに行くと6冊買うって決めてるんですよ。
柳沢:しかもジャンルを分けて買ってますからね、この人(渋谷)は。僕も文章は好きですけど、ちょっと読み方は違うし、じっくり読み込んで裏側を読み解こうっていう気概では読んでないですね。分からないものは分からないって思っちゃうんで。そういう意味では、ちゃんと馬鹿が読んでもわかる文で、かつテンポが良くて、っていうのが好きです。
渋谷:でも向き合い方が近いなって思うのは、映画とか本とか、音楽もそうですけど、結構、「ね!」ってなることは多いですね。柳沢から「絶対観てみて」って言われた映画が、あれなんだっけな。香港か、中国?
柳沢:ああ、『あの頃、君を追いかけた』?
渋谷:なにその映画、聞いたこともねえよと思って(笑)。で、TSUTAYAで探して、観たら、僕も結局2回か3回観ました。「確かにいい、これ!」みたいな。
(『あの頃、君を追いかけた』は2011年に台湾で大ヒットした映画。監督は作家のギデンズ・コー)
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