今もっとも波に乗っているロックバンド、SUPER BEAVER(スーパービーバー)が、2017年一発目に、両A面シングル『美しい日/全部』をリリースする。ミーティアではこのタイミングでメンバー全員にインタビューを敢行。シングルについて、過去と未来の活動について、さらには文学の話や運命の出会いまで、幅広く語ってもらった。
今回のインタビューは、「幸せとは何か?」という誰もが抱く普遍的な問いについて、様々なヒントをもたらしてくれるだろう。
Interview_Sotaro Yamada
Edit_Sotaro Yamada、Michiro Fukuda
Photo_Hiroyuki Dozono
インタビュー直後のSUPER BEAVERによるミーティア独占コメント! 左から、上杉研太(Ba.)、藤原”28才”広明(Dr.)、渋谷龍太(Vo.)、柳沢亮太(Gt.)
SUPER BEAVER『美しい日/全部』
――今日は新曲『美しい日/全部』について主に聞いていきますが、その前に、みなさん一人ずつに、ざっくりと2016年を振り返ってもらいたいと思います。というのも、やはりSUPER BEAVERにとって2016年って、飛躍の年だったんじゃないかと思うんですね。年始から3ヶ月連続でシングルを出したり、ワンマンツアーがあったり、アルバムを出したり、DVDと小説が発売されたり。まずは上杉さん、2016年はどんな一年でしたか?
上杉研太(Ba.):まず、全国ツアーのチケットが即完売したことが大きかったです。売り切れたのは、10年以上バンドをやってきて初めてのことだったんですよ。そういう「初めて」のことが、10年続けて増えてきた。どんどん楽しみとか、やりたいこととかが増えて、それをやれるようになってきたっていう。自分達のやってることが多くの人に届いてきたのは、やっぱり嬉しかったですね。
――精神的にもすごく充実してるんじゃないですか?
上杉:そうですね。ちゃんとライブと作品にそれを反映させて、もっともっと返していかないといけないなっていうプレッシャーは逆に感じてますけど。
――柳沢さんはどうですか?
柳沢亮太(Gt.):たぶん、みんなほぼ同じようなこと言うと思いますけど、やっぱり自分達の楽曲がようやく届き始めているってことが素直に嬉しいです。今までもずっと自信作を作ってはきたけど、実際にどこまで届いているかっていうのは目の前にいてくれる人たちでしかわからないじゃないですか。でもそれが、ワンマンライブの会場の規模が大きくなっている事とか含め、いろんな側面から見て、どんどん増えている。僕らの作品というか、SUPER BEAVERという活動とその意思みたいなものがどんどん浸透し始めてるのかなっていう手応えを感じられた一年でした。
――渋谷さんはどうでしょう?
渋谷龍太(Vo.):ちょうど12年目に入ったんですよね、SUPER BEAVERの活動は。正直、3年目にしてこれくらいのことを達成する人もたくさんいると思います。でも、僕らが12年掛けてこういう形にできたこと――全国ツアーを売り切ったりとか、Zepp Diversity(TOKYO)でライブをやったりとか、LIVE DVD出したりとか、本を出させてもらったりとか――、そういうことが、対人関係とか人間関係っていう点で、その分厚さを発揮した1年だったかなって思うんですよね。もちろん、ポッとやってパコーンって火が点くような、ある種のムーブメントを作り出すっていうことは、僕はすごく素晴らしい、物凄いことだと思ってるんですけど。でも僕らは、実感として、人間の層の厚さでそれを体現できたなっていう感じが強くありました。だから毎年友達が増えていくんですよね。2016年も人と人とのあり方をすごく密に実感できて、それが一個の形となって表れたというような感じ。そういうことが少しずつ体現できてきた、それがすごく嬉しかった1年です。
――周りの人っていうのは、スタッフやファンのことですか?
渋谷:そうですね。僕ら4人から始まるちっちゃな円が、スタッフ陣や一緒にやってくださるチームという一個の輪になって、そこからバンドの友達含めたさらに大きな円に広がって、それが一個になって、聴いてくださる人の耳に届いて、もっとでかい円になる。聴いてくださる方も含めチームです。その円がどんどん大きくなってきていることです。僕らを中心とした波紋みたいなもんだと思ってるんで。
――円というのは分かりやすいですね。イメージとして入ってきやすい。では藤原さんはどうでしたか?
藤原”28才”広明(Dr.):なんだろう、もうみんな全部言ってる(笑)。SUPER BEAVERとして活動して12年目に入ったんですけど、初めて経験することがたくさんあったんですよね。今みんなが言ったこととか、あとはオリコン1位になったとか(※DVD『未来の続けかた』がオリコンDVD音楽ランキングで1位を獲得)、トップ10入ったとか(※アルバム『27』がアルバムランキングでトップ10入り)。数字だけじゃなくて、初めて行くライブハウスもあったし、初めて出会うバンドもいたし、やっと一緒にやれた先輩のバンドもいたし。そういう「初めて」がたくさん経験できた。1年間目標を持ちつつ、本当に音楽を楽しんでやれた一年だったんで、すごい充実してましたね。前に進めてるっていうか。自分たちのペースで、着実に、楽しみながらやれてるんで。
『美しい日』
――1月25日にはシングル『美しい日/全部』がリリースされます。まず、『美しい日』について伺います。作詞として渋谷さんの名前がクレジットされてますが、この曲はどういう経緯で作られた曲なんでしょうか?
柳沢:2016年の4月に、11年目にして10周年イヤーというのをやってたんですけど、その最後を締めくくるワンマンということで、過去最大規模のZepp Divercity(TOKYO)に挑戦したんです。その日の様子がDVDになって秋に発売されたんですけど、改めて振り返って見てるときに、渋谷が「いやー、今日は美しい日でした。美しかったですね」って言ってたのがすごく印象的だったんですよね。さっき渋谷が言ったように、僕らが落とした点から波紋のように広がっていった「人間と人間の付き合い」や「繋がり」で成り立っている今日というものの素晴らしさを、一言で「美しい」って言ったのが、すごく的を得ているように感じられて。それで、そういうことを歌にしたいと思って、『美しい日』というタイトルにしました。僕、タイトル付けるの苦手なんですけど、この曲に限っては『美しい日』というタイトルから作り始めた。さらにDVDを出した時に渋谷が小説を書いたんですけど、その小説のラスト1ページがすごくいろんな歴史を踏まえた上でのラストで。それが「美しい日」というところに密に繋がっているような気がしたんですよね。そこからワードを引っ張ってきたりもしています。だから、「原案:渋谷、作:柳沢」みたいな感じです。作り方としてはいつもこういうようなもんなんですけど、この曲は特に如実に、SUPER BEAVERというバンドが何を思っているのか素直に書けた。
――サビの歌詞が特に素晴らしいんですよね。「幸せは唯一つ掴み取るようなものじゃなくて/幾つでも 何度でも 気がつくもの」。この、「幾つでも 何度でも 気がつく」っていうのはすごく強いメッセージだと思います。なぜかというと、「幸せ」って、往々にして「唯一つ掴み取るもの」だと思いがちじゃないですか? 「あの人と一緒になりたい」とか「売れたい」とか、「このインタビューがバズってほしい」とか(笑)、そういうものを「幸せ」だと思ってしまう。でもこの曲はそうじゃないと。「幸せ」は、「幾つでも何度でも」あるもので、しかもそれらは「気がつく」ものなんだと。これがセットになってるのが素晴らしい。
柳沢:「幸せは訪れるものでも 待ってるものでもなく」、「気がつくものなんじゃないかな」っていうのは、やっぱり10周年イヤーの日のことに代表されるように、SUPER BEAVERをやってる上ですごく思うことなんですよね。今おっしゃったように、「幸せ」は「掴むもの」っていうイメージがあると思うんです。でも12年やってきて、最近、幸せっていうのはいろんなものと天秤にかけられるものではないなってすごく思うんですよね。たとえば、バンドをやるのは幸せだし大事だけど、家族はどうなんだって。バンドと家族なんて、そんなの比べられるのかっていう。どれもこれも掴み取るというより、その瞬間その瞬間で気づくことが喜ばしいことで、素敵なことなんじゃないかって。そう思えた時、このバンドがすごく強くなったような気がしたんです。これは「気づき」でしたね。この先にもいっぱい「気づき」は落ちてると思うし、気づけるか気づけないか次第で、嬉しいと思えるか思えないかは変わってくる。考えてみれば、僕らはそういう瞬間瞬間の「気づき」を大事にしてるバンドだなあって。で、さらに、そこには必ず「人」がいる。そういうことを考えた時に、今のSUPER BEAVERのスタンスをシンプルに歌詞に表したら、こうなりました。
――でも、なぜ、気づけるんでしょう?
柳沢:それはきっと、4人だけじゃ成り立たないってことを圧倒的に分かっているからじゃないですかね。自主レーベルも経験したし、その上で、やっぱ4人だけじゃ何も動かねー、動かせない、という経験をした。表現しきれない、動かしきれない、伝えきれない、4人だけじゃどうしようもない、っていうことを痛感したし。だからこそ1人また1人って仲間が増えていくことに対する感謝が強いです。そしてその先に、何か一つでも成し遂げてそれを共有できたら、それは本当に嬉しい。だから、僕らが見落としているものとか気付けてない部分とか、まだまだいっぱいあると思うんですけど、できるだけ気づきたい、気づいていたいなと思います。
――メジャーを離れて自主レーベルを経験したこともあるし、SUPER BEAVERのこれまでの10年って、天国と地獄みたいな10年だったと思うんですよ。で、色々うまくいかないことを経験すると、逆恨みや暴力の方向に矢印が向くことってあると思うんです。特に現代は、言葉の暴力含め、暴力へのハードルが下がっている時代だと思います。でも、SUPER BEAVERの表現は、まったくそっちの方向に行かない。すべてが感謝や喜びといったポジティブな方向へ向かいますよね。これは、どうしてだと思いますか? 少し大きな話になるかもしれませんが、この答えって、今の社会に対してのヒントになるのではないかと思います。
渋谷:ヘイトがあるからじゃないですか?
――ヘイトがあるから?
渋谷:要は、ヘイトの変換の仕方だと思うんですよね。自分が何か気に入らないことがあって、どういう風な表現をしたいかって思った時に、それをそのままヘイトで表現するか、ピースで表現するか。その差なんじゃないかと思います。ヘイトで表現し続けるっていうことは割と簡単なことですよね。SNSの時代で、誰もが発信者になれて、誰もが何の努力もしないで中心にいられるような錯覚を覚えちゃうような時代で、いろんなツールがあって、誰かが見ていて、誰かを簡単に攻撃することもできる中で、自分が気に食わないものとか自分の意志に反するものとかっていうものを見つけた時に、それを「嫌い」って表現するのか、違う方法で表現するのか。それを嫌いな理由っていうのは、たぶん、反する好きなものがあるからだとは思うんですよね。なにか自分の中で好きなもの、これだって思うものがあるからこそ、嫌いなものっていうのは存在する。だから両極だと思うんです。
――なるほど。
渋谷:めちゃくちゃ好きなものがあるっていうことは、ともすれば、めちゃくちゃ嫌いなものがあるっていうことで。許せないものにフォーカスを当て過ぎているから言葉の暴力になる。気に食わないんだったらもっと好きな方にエネルギーを持っていけばいいと思うんですよね。これが許せないって思うんだったら、大事にしているものをもっと大事にするべきだと思うし。これが嫌いと思うなら好きなものをもっと愛すればいいことだと思うし。っていう、そのベクトルの持って行き方だと思うんですよね。感受性によって振り幅は変わると思うんですけど、それがおっきくなればおっきくなるほど、力を持ってくると思う。その力を僕らはそっちの方に還元しているという自覚はかなりあります。
――その自覚というのは、初期の頃からあったものなんですか?
渋谷:違いますね。メジャーから落っこちて、自主レーベルを始めて、対人っていうのを意識し始めてからですね。それから徐々にです。自分達で色々やるようになって、日々感謝したり幸せを感じている中で、嫌いな人も出てくるわけですよ。で、なぜそう感じるのか考えて、原点に立ち返った時に、なんとなく自分の中で気づいたことなんで。多くの人と触れ合わせてもらったからこそ出せる答えなんじゃないかなと思います。
――仮に「SUPER BEAVERがめっちゃ嫌いなんです」って言ってくる人がいたらどう思いますか?
上杉:それは逆に、「嫌いなんです」ってなぜ言おうと思ったの? ってその気持ちの方が気になります。
一同:(頷く)
『全部』
――『全部』という曲についても聞かせてください。
柳沢:これは、もともとはサビが2回くらいあったんです。でも、メロの部分がすごく口ずさみやすくてキャッチーだなっていうことに気づいて、スタジオで「ここを何度も歌いたい」っていう話になったんです。それで思い切って、普通にAメロ→Bメロ→サビ、みたいになってたものを、サビをなくして、Aメロ→Bメロ→Aメロ→Bメロ→大きいサビ→またAメロに戻る、という風に変えました。作り方を意識的にアレンジとして考えた曲ではありますね。
――『全部』もやはり歌詞が素敵です。「楽しいことがしたい 哀しいことをわかっていたい」って、これも両方あるのが大事だと思うんですよね。往々にして、片方だけに寄りがちじゃないですか? 「楽しければそれでいい」か、「哀しい」だけを深めていくか。『全部』には、根底に痛みがありつつも、楽しさとポップさを感じます。
柳沢:一番言いたかったのはその先のことなんですよね。つまり、「楽しかった」のはなんでなのかと。それを考えれば、いろんなことを大切にできるんじゃないかという。たとえばライブを観に行ってすごい楽しかったとして、じゃあなんで「楽しかった」のか。その「楽しかった」をひも解いたら、そこには理由がきっとある。それを後から振り返ったり思い返したりすることって、すごく良いことだと思うんです。そこには日々の、もやっとした理由とか、嬉しいと思った理由とか、本当に大事にしたいなって思えるものが潜んでいる。それを歌にしたいと思ったんですよね。だから、「楽しいことがしたい 哀しいことをわかっていたい」っていうのは、そういう色んな一個一個を大事に見ていたいというか、丁寧にすくい上げたいな、って気持ちから来てます。
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