――お答え頂ける範囲でかまわないのですが、今回の撮影に使った機材はどのようなものでしょうか?
渡邊:計5台のカメラを運用しました。GoPro6台を1つに組んだものと、Gear360を3台、Kodak SP360を1台ですね。テストやロケハン時はTHETA Sも利用しました。
――VRの機材は、ライブ会場で撮影を行う通常のカメラスタッフやその他のスタッフの方にとっても、まだ馴染みが薄いものであるかと思います。当日は様々な苦労があったと思いますが、搬入や設置などはどのように進めていったのでしょうか。
渡邊:搬入に関してはカメラのサイズが小さく、手持ちでいくことが多いので苦労はしていません。が、設置は毎回非常に苦労しています。
ステージの演出担当の方、スティルや通常のカメラ録画の方と毎回交渉しています。おいしい画を撮るには目線で見て近くて楽しい場所、つまり現地の客にもかぶるような場所だったりするんですね。こういった場合、その場で交渉や説明をしながら置き位置を獲得するしかありません。我々ですと、過去の制作した映像をお見せしながらイメージしてもらい、体験の価値を理解してもらって、ここじゃないと確かにだめだよね、となるまで交渉して置くのを許可してもらうような進め方をしています。
また、モニタリングが難しいカメラなので、事前に何回もカメラ位置を確認します。
――VRのライブシューティングの肝となるのは、カメラ位置であると思います。今回のライブの撮影のポイントとなったのは、どのような部分でしたか?
渡邊:前述したように、演出が非常に凝っていて。会場全体がステージというのを地で行くような複数のステージが用意されていて。高さや照明もライブハウスのステージとは全てが異なりました。はじめの曲が救急車の中から始まり、高所作業車に乗りながらダンスをするなど、ほんとうに見どころたくさんで…。
その見どころをどうおさえるかというところでカメラの台数や位置、事前の調整がポイントとなりました。
最終的には、編集で会場を立体的に体感できるようなことを意識して制作しています。例えば「シャクシャイン」でコールアンドレスポンスがあるシーンなどは客席で声援を送れるようにしています。
―――渡邊さんはライブの冒頭、コムアイさんと一緒に救急車に乗り、Gear360で撮影をされたそうですね。具体的にどのようなシチュエーションだったのか、改めて教えていただけますか?
またライブ直前のコムアイさんを間近で見られていたかと思います。本番前のコムアイさんの様子はいかがでしたか。
渡邊:ライブのはじめに救急車に乗って本人が登場するというシーンでした。その特殊な状況とライブ会場の空気を同時に撮りたかったので、実際に乗り、映り込まないように美味しいカメラポジションを諦める(注:VRでは360度全方位がカメラに映るため、撮影者が映り込むことがある)のではなく、映っても成立する撮影にしようと考えました。
そこで救急車に乗るのは患者と医師(厳密には救急隊員かもしれませんが笑)ということで、白衣を着て映りました。特殊ですね。
本番中もそうですが、リハの段階からコムアイさんはとてもアイデアにあふれる人だなーと思いました。演出に対して自分の考えもしっかり乗せていく感じでした。コムアイさんが頭の中でイメージしたことと、現場でのパフォーマンスがどんどん合致して(会場を)盛り上げていくというのを目の前で見ていたのですが素晴らしいなと。
――渡邊さん、越後さんは相当コムアイさんと近い距離でVR撮影を行われたものと思います。撮影にあたり、コムアイさん、水曜日のカンパネラ側にお話されたことや、具体的に「こういう体験を作りたい」と伝えていたことなどはありますか?
渡邊:総合演出の監督とも話してたのですが、コムアイさんを自由にすることでパフォーマンスを最大化していくということが今回の演出方針だったので。実際はあまり具体的なことは何も伝えておらず。今回の撮影は必死でくっついていってこっちが体験を作っていったというイメージです。(笑)
――個人としてライブで印象に残った水曜日のカンパネラの楽曲や演出などがあれば教えてください。
渡邊:「メデューサ」の演出で、会場全員のスマホのライトがコムアイちゃんを照らし出すという演出がとても全天球と相性がいいなと思いました。引き目のカメラのシーンで見るとわかるのですが、会場全体で有機的に光が変化していくことで、コムアイちゃんの位置がわかるという、ライブならではの演出ですごく綺麗でした。会場に実際にいた人にも楽しんでもらえる映像になったかなと思います。
越後:「ラー」という曲は「カレーメシ」のタイアップ楽曲だったのですが、カレーメシのマスコットが(パフォーマンスに)参加してきて。とても小さなステージで彼らと歌い踊るパフォーマンスが圧倒的でした。強い照明と、黄色をテーマにした演出が同曲で描かれるMusicVideoで描かれた黄金感とあいまって、ファンも含めてものすごい熱量を感じました。
――以前、渡邊さん、越後さんはインタビューにてVRに「実際のライブ体験とは異なる付加価値」を与えることの重要性を述べていらしたと思います。今回の撮影はまさに「異なる付加価値」を如何に作り出せるか、実践の場でもあったのでは?と感じました。
今回の撮影での収穫、また逆に反省点があれば教えてください。
越後:ライブごとに毎回考えることは違うのですが、今回は客席全体がステージという演出で。ファンが見る位置によっておいしい、遠い(もしくは見えない)こともあった実体験をしたと思います。
普段ライブでチケットの値段は同じなのに、後ろだったり前で見ることが多い中、(水曜日のカンパネラは)意欲的な取り組みをしていました。ですので、ライブといえば1つの場所でずっと見るものということを変えてよりさまざまな位置で立って見られる視点の提案が今回の挑戦でした。
逆に、キリのなさや撮影リスクの高さも強く感じています。
渡邊: 会場で実際にライブを体験した人は、その地点での熱感を持って帰ったと思うのですが。VRの映像はマクロとミクロを行ったり来たりという体験にしました。そういう意味で“ライブの演出側が、どういった意図でこういう演出をしたのか”というのを、映像の方は最大化してお届けしているかなと思います。何度でも楽しんでもらえる映像になったかなと思っています。
反省点というか、VRライブ撮影の難しい部分だなーと思うのですが。リアルタイム性(の高い演出)にどれだけついていけるか・・・ということ(が反省点)かな〜と思います。
走って(被写体を)追いかけたい思いがありつつ、そこまで早く動いてしまうと(映像を見る人が)酔ってしまうので・・・という。そこは何か別の方法で解決していきたいなーと考えています。
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