約3年5ヶ月ぶりの5thアルバム『Cubic』をリリースしたLITE。
日本のポスト・ロック・シーンを代表するバンドである彼らは、久々の新作で「原点回帰」を打ち出した。エンジニアに三浦カオル、ミックスにはBATTLESのプロデューサーであるKeith Souzaを起用し、4人の演奏の生々しさを伝えるアルバムを完成させている。
新作の方向性の背景にあったものは何か。武田信幸(G)、楠本構造(G, Syn)の二人に語ってもらった。
Text_Tomonori Shiba
――実は、僕がLITEにインタビューさせていただくのは10年ぶりのことで。『Filmlets』の時以来です。
二人 : へえー!?
武田 : まじですか。
――当時の『ロッキング・オンJAPAN』という雑誌で「ポストロック特集」というものをやって、その時のことなんですけど。
武田 : ああ、ありましたね。
――そういうこともあって、新作を聴かせて頂いて感じたのは、原点回帰の感じだったんです。10年前の頃に慣らしていたサウンドの感触に近い。そういう意識はありますか?
武田 : そうですね。前作『Installation』を出した時は、ラップトップで曲を作ることがメインだったんです。ギターを2本重ねた後、もう1本重ねたり、シンセも入れたりして作って。そこからどんどんマイナスしていく過程だったんですね。けど、それを作ってツアーを廻って、主に海外がメインだったんですけど、海外だと音環境の問題もあるし、日本はじっくり観てくれますけど、アメリカはもっと直接的に受け止めてくれるお客さんが多くて。そういう人の前でずっとやってると、シンセを入れた楽曲だけでは、直接繋がれない感じがしたんですね。であれば、次作に向けて、自分たちで、自分たちの楽器から鳴っている音でお客さんと繋がっていこうと。僕らの強味である、よりタイトで、攻撃的なイメージをもうちょっと出して。原点回帰というか、もともと僕らそういうことをやっていたよねっていう話になって、今作の方向性に至りました。
楠本 : アルバムをライヴで表現しきれないんですよね。もちろんライヴ用にアレンジするんですけど、どうしてもシンセが二つ鳴ってると、どっちも重要なフレーズで削れなくなる。そうすると、曲として成立しなくなるので。それで今言ったみたいに、ジャムセッションから昔みたいな曲の作り方でやっていこうって流れになって。
――前作から3年半ぶりになったというのは、主にライヴが続いていたからですか?
武田 : ライヴも多かったです。海外ツアーの引き合いも増えてきていて。日本のツアーだけで完結せず、アメリカやヨーロッパや中国に行ってみたりする機会が単純に増えたんですね。ただ、3年半前にアルバムをリリースした直後、曲作りも始めてたんです。すぐに合宿に入って、ネタ作りからやろうと。それが、今かたちになってる「Balloon」や「D」の原型になっていて。曲作りもライヴも同時進行していたんです。
――最近思うことがあって、いろんなアートの分野で、タイミングをコンピューターが握ってるかどうかって、すごく重要なんですよね。シンセと演奏が同期していても、事前にプログラミングされていたものに人間が合わせるのか、それとも人間がタイム感をコントロールしているのかの違いは、とても大きい。
武田 : 僕もそれを感じます。特にDJ主体のイベントを見て、残念な気持ちになってしまう自分がいて。それは自分がバンドやってるからなんですけど、かたちだけでもドラムセットがあったり、人が叩いてたらめちゃめちゃアガってたと思うんです。どこにリアリティがあるかって、観てるお客さんが一番感じると思う。そこはバンドでもシンセを使う上で一番大切にしてる部分です。
楠本 : 同期を使い始めたのは6年前くらいで、その時は僕らも新鮮だったんです。それはそれで新しいことでよかったですけど、時代は巡って、やりたいことってこうじゃないのかなって戻ってきたっていう。やったことは大事で、今も武器になってるし、無駄ではなかったし、今後も使えるけど。
――それを経てきたがゆえに4つの楽器で勝負するというところに行き着いた。
武田 :
――せっかくなんで10年前のインタビューでのお二人が言っていたことをコピーして持ってきたんですけれど。楠本さんは「ベースとギターとドラムが同じ線で同じ音を鳴らして一つのフレーズになる、それがバンドの核になる」と言っている。武田さんは「演奏はしてるけど、表現したいのは人間味とか感情だ」って言っている。
武田 : 間違ってないですね。
楠本 : 変わってないですね。最近言ったんじゃないかな(笑)。
武田 : 成長してないのかな(笑)。
――ブレてない、ってことですよね。そして、単にシンセから楽器に戻ったという方法論じゃなくて、マインド的に原点回帰したという。そういう意味での新作の手応えってどうですか?
武田 : 僕らのモチベーションって、前にやったことより新しいことを改善してやっていこうっていうモチベーションで常にやってるので、全く同じものは当然できてこないし、全く同じレベルで作りたくないし、って考えると、どこが成長したかっていうよりは、今回も自分たちが納得出来る新しいものを作れたなっていう充実感があります。
楠本 : 個人的には、みんなパーソナルな部分が出るようになったなって。前はLITEっていうバンドにみんな寄せてたというか、LITEはこうあるべきだって考えていて。今は自分ならこういうプレイって、それはLITEの幅が広がったというか、パーソナルな色が出ても、自分たちを出せるようになったっていう、それは成長と呼ぶのかはわからないですけど、そういう部分はあるなって思います。
武田 : 確かに、それは今回のテーマでもあったんです。
――パーソナルな面を出そうとした。
武田 : 前作はラップトップで完結するような曲もあって、そうなると、個々のフレーズが落とし込めてなくて。それでライヴをやろうとしてもなかなか成立しない。だからお客さんとも繋がれない、っていうこともあったんです。でも今回は早めに曲を作って、それをツアーでどんどんやっていこうというやり方で。やっていくうちに細かいフレーズも洗練されて、個々のキャラクターが出る。
楠本 : 自分のフレーズになっていくんですよね。
武田 : そこまで今回は落とし込んでやりたいなっていうのは事前に話してました。
――じゃあ、収録曲の多くはツアーでやっていて、かなり体に馴染んだ状態でレコーディングした。
武田 : そうですね。
楠本 : ライヴでも半分以上やってますね。
――今作のミックスはBATTLES のプロデューサーのKeith Souzaが入っています。これはどういう経緯で?
武田 : レコーディングエンジニア自体は三浦カオルさんで変わりないんですけど。今回のアルバムって、個々の音が重要になってるんですよ。それを、より太くて、より良い音質で録りたいと思って。参考になる音源を探したら、それがやっぱりBATTLESで。じゃあ海外で、ツアーも重なってるし、ミックスをお願いしようと。
楠本 : 録音の段階ではまだ決まってなかったんですけど、奇跡的にスケジュールが合って。この時期にアメリカにいるなら、ツアー終わったら一緒にやろうよって言ってくれて。とんとん拍子で話が進んで。正直ダメ元だったんです。
武田 : 今回はある種の荒々しさを残したかったというのがあって。4人のキャラクターを出したかったので、多少のズレも許容すべきところだなってジャッジが多かったです。
楠本 : 多少ズレてたりしても、格好いいほうがいいな、と。
武田 : そういう意味でも、今回は人間味を出したというのはあると思います。
――LITEの言う“人間味”って、ポイントとしては大きいですよね。突拍子のなさとか、面白さとか、格好つけてないところというか。それが4人のキャラクターでもあるのかもしれないと思います。
武田 : そうだと思います。要はお客さんが聴いて驚くというか「こう来たの!?」っていうことをずっとやってきたんです。一筋縄ではいかないもの。それを追求してきたというのがポイントになっていると思います。
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