アルバムの起伏をイメージしてから、曲の雰囲気を決めていった
ーーアルバム全体の尺自体はわりとあるのに、聴き入ってたら8曲目あたりまで進んでて、「もう30分も経ったんだ」っていう感じなんですよね。
畳野:それはよく言われますね。めちゃくちゃ嬉しいです。自分でもわかります、その「あぁ、もうここか」感は。全部で1時間くらいあるんだけど。
福富:名盤の証かな(笑)。バラバラのモデルから1曲ずつ作っていったとはいえ、トータルのバランスは考えてたしね。
畳野:うん。「HURTS」を前半のポイントにして、後半に盛り上がりがあって終わりたかったんで。まずアルバムの起伏をそうやってイメージした上で、曲の雰囲気は決めていきました。
福富:真ん中くらいに弾き語り(「MAYBE SOME OTHER TIME」)を入れるのも、先に決めてたな。
畳野:前半・後半のいい具合の区切りというか、1回バンドサウンドから外して、また戻って上がっていく流れにしたくて。
ーーそのあたりの妙がまた聴きどころですよね。歌詞の魅力もしかり、そっちも着目されてほしいと思います。ジャンルや元ネタの話ばかりだと、画一的になるし。たとえば、「BLINDFOLD RIDE」でラウドになる部分がヴァンパイア・ウィークエンドを彷彿とさせるみたいな視点って、そこまで重要ではないんじゃないかなと感じてたりして。
畳野:はは〜、なるほど。まぁ、ヴァンパイア・ウィークエンドなんですけどね(笑)。
福富:実はインタビューでそういうのあまり指摘されないんですよ。
ーーあ、そうなんですね! 傍から見たら、てっきり言われ飽きてるのかと。
福富:ジャンルの括りみたいなのは多少ありますけどね。いつもわかりやすい引用をこっちから仕掛けてるのに、ほとんど気付かれないので(笑)。前作にも、ストロークスのフレーズを急に丸ごと出したりしてるんですが。
畳野:ちょっとは言われたい、かもね。でも、そこばかりじゃ確かに嫌です。今回はトータルで見てほしい。
平熱感と、その中にある寂しさ
ーー反芻できる感じで言葉がちりばめられてるのも面白いです。“トンネル”とか“マフラー”とか、繰り返し出てくることで頭に残るので。
福富:ひとつの街で生活してるっていう世界観ですよね。それはうまく描けてると思います。
ーー「BASEBALL SUNSET」をはじめ、“野球”に関連した描写が多いのはどうしてなんですか?
福富:このアルバムって、僕が好きなアメリカの文学に影響を受けてもいて、ポール・オースターとかの作品に野球がよく出てくるんですよ。たぶん、当時のアメリカ人が野球好きやから。その感じをやってみたかったのと、ひとつの街を想像するにあたって、みんなが集まって何かが終わると離れていく場所を作りたくて。そこで映画館やショッピングモールよりも、野球場がしっくりきたんですね。日曜日のデーゲームがあって、終わるとみんな帰っていくっていうところで物語の幕が下りたら、美しいなと思った。
ーー最初の段階で街に野球場を作って、イメージを広げていったんですね。美しさもありますけど、スポーツでアクセントをつけるのは、カジュアルでいいなって。
福富:街、生活がテーマだから、合ってますよね。アーティスト写真もそういうテイストにしました。平熱感と、その中にある寂しさがベースになってるアルバムなんです。「PERFECT SOUNDS FOREVER」はすごく楽しい瞬間だけど、そこで感じる寂しさを歌ってたりして。
ーーいろんな解釈ができる一枚だと思います。落ち込んでる人が徐々に立ち直っていくようにも取れたり、中盤で心地よく煙に巻かれる感じもあったり。
畳野:朝起きて、昼は仕事して、夜に帰って寝る、みたいな生活のイメージはあって、夢の中も出てくる。感情的な上がり下がりで、時間帯を意識するというか。
福富:朝で始まって夕方で終わるんですけど、間には夜があったり、別の朝があったりしますね。
畳野:登場人物もバラバラでたくさんいて、それぞれの一日の流れを書いてるんです。
福富:群像劇というかね。映画で言うなら、『セント・エルモス・ファイアー』的な。
福田:(畳野か福富か)どっちが書いた歌詞かは、前よりもわからなくなったね。
福富:2人ともフィクションにしてるし、ええことやと思うよ。
SHARE
Written by