「生活とか、ただ生きてる、ただ暮らしをしてるっていうことと、自分がやってる表現活動の関係性がより強くなった」
ーー三曲目の『リトルクライベイビー』について、wowakaさんは「今回のアルバムの心臓みたいな曲」とコメントしていますね。
wowaka:この曲を書いたのは8月だったんですけど、お昼ぐらいから作り始めて、12時間でぶわーって書き上げたんですね。今までの自分が急に全部凝縮されたような感じがあって、今まで開けられなかった扉をやっと開けることができたというか、一番納得できた曲なんです。俺が20歳ぐらいのときにこの曲がパッとできたとしても、この感じは絶対に出てこなかっただろうなと思ってて。それも含めて、バンドをやめなくてよかったなと思いました。
イガラシ:アルバムレコーディングの終盤で「新しく作りたい」って言い始めたんですよ。それで待ってたら、すごく解放感のある曲が上がってきて。
シノダ:ちょうど「アルバムの中にこういう曲があったらいいのに」って思ってたんですよ。そこにこの曲が来たからすごく驚きましたね。
――四曲目の『イヴステッパー』という曲には、「東京」という地名が出て来ます。ヒトリエの過去の作品に、地名が出て来たことってないですよね。「世界」とか「此処」とかが多くて。全部の作品もう一度調べてみたんですけど、やっぱり地名が出たことはなかったです。
イガラシ:ああ、そういうの嬉しいですね。
――だから「東京」はすごく意味のある言葉なんじゃないかと思ったんですが。
wowaka:「生活」なんですよね。音楽をやっているっていう意識もなく音楽で暮らしている状態だし、ずっと頑張ってるし。それと住んでる場所とか家とかが結びついて来る、そういうのがぽっと出たんじゃないですかね。東京だからどうっていうことではないんです。単純に俺が(東京に)いるからっていう。
イガラシ:仮の段階からもう「東京」って歌ってたもんね。
wowaka:歌ってた歌ってた。『TOKYOSTEP』っていう仮タイトルだったしね。
シノダ:今だから言うけど、あのタイトル結構好きだったんだよ俺(笑)。
ゆーまお:俺も好きだった(笑)。
wowaka:いやね、『TOKYOSTEP』だと、東京の東京としての意味が強くなるじゃん。でもそうじゃないんだよね。ここで言いたいのは、あくまで「自分の生活」だから。
というのも、たぶん俺、「世界作り」みたいなのがそもそもあんまり得意じゃなくて。やろうとしても、どうやってもその瞬間瞬間の自分の強い感情が出て来ちゃう。
『イヴステッパー』のデモができた時も、そこでぽろっと出て来た言葉や仮タイトルが「東京」だったんで、自分の生活――東京に10年住んでるんですけど――10年目にしてようやく、そこが自分の中にスッと溶け込んでぽろっと出て来るまでになったのかなって気はしてて。
そういう生活とか、ただ生きてる、ただ暮らしをしてるっていうことと、自分がやってる表現活動の関係性がより強くなったというか、もはや一緒なんだな、っていうところを実感できたから『IKI』なんです。
――おお! そこでアルバムのタイトルに話が戻ってくるわけですね! じゃあ、東京に出て来て10年、生活や暮らしや、ただ生きてること、それらと音楽活動がイコールになったことを実感できてからの地元への初凱旋(※2017年4月に、ワンマンとしては初めてwowakaの地元・鹿児島にツアーを行うことが決定している)は、感慨深いものがありますね。
wowaka:そうですね、それは結構大きいかもしれないですね。今まで自分らのツアーとか、自分たち主導のワンマンとかで地元に行ったことはなかったんで。そういった中で、生まれた場所にこのアルバムで行くっていうことは、やっぱ縁を感じますね。
「このアルバムでゆーまおの1番のファインプレーはそこですよ(笑)」
――『doppel』は、ピアノであっぱ・the Hiatusの伊澤一葉さんが参加されています。ゲストミュージシャンを迎えるのは初めてだと思いますが、これはどういったきっかけで実現したものなんでしょうか?
wowaka:これは、まず単純に、この曲をアルバムに入れるか入れないかみたいなとこから議論がありました。もともと個人的な意向としては、アルバムの中のイメージには入ってなかったんですよ。というか、忘れてたんですよね、この曲のこと(笑)。
忘れてたところを、ゆーまおが「この曲がめっちゃ好きだから」ってデモを引っ張り出してスタジオで聞かせてくれて。
で、今聴くと「良いな」って思って。
ちょうどアルバムの全体像が見えかけてきたタイミングだったんで、この曲ならハマる場所があるんじゃないか、じゃあアレンジ詰めようと。元々自分で鍵盤は打ち込んでたんですけど、これもゆーまおが「ピアノでゲストミュージシャン呼んで弾いてもらうのはどう?」って提案してくれたんですよ。
その提案が自分の中ですごく自然に腑に落ちて。幸運なことに伊澤さんのタイミングも合って、参加してもらったっていう。決定までスピード感ありましたね。
――ゆーまおさんが提案しなかったら『doppel』はこのアルバムの中に入らなかったと、我々はこの曲を聴くことができなかったわけですね。
イガラシ:このアルバムでゆーまおの1番のファインプレーはそこですよ(笑)。
ゆーまお:演奏よりも何よりも、曲選びで一番仕事しました!
――それ自分で言いますか(笑)。
ゆーまお:や、でもホントみんな忘れちゃってたんで、この曲のこと。俺以外誰もこの曲に注目してなかったっていう、俺にとっては謎の状態でした。
wowaka:先行視聴でも人気って聞きました。ありがたいです。
イガラシ:俺にとっても一番好きな曲だよ。
wowaka:考えてみると、苦しみながら楽しみながらずっと曲を作って来た中で、今回はいろんな状態全部がうまいことハマったんじゃないかなという気がしますね。葛藤も、辿り着いた肯定も。『リトルクライベイビー』なんかは、「喜びだ、喜びだ!」って言いながらレコーディングしてて。「歓喜! 歓喜!」みたいな(笑)。
「俺はこれを歌うために頑張って来た」
――イガラシさんが『doppel』を一番好きだとおっしゃいましたが、みなさんイチオシの曲ってありますか? もし一曲だけ選べと言われたら、どの曲を選びますか?
wowaka:これ、ケンカが起きるやつですね(笑)。
僕は、10曲目の『目眩』って曲が一番好きですね。好きだし、これが最後にレコーディングして、最後に歌詞を書いて歌入れをした曲で。『IKI』のテーマからしたら一番好きでも当然なんですけど、やっぱり最新の状態の自分なんで、すごい思い入れがありますね。歌詞も直前まで書いてて、レコーディングの日の夜までかかって、そっから歌録りしたっていう。
で、書き上げて、歌を入れて、この曲になって、聴いてみたら「ああ、俺はこれを歌うために頑張って来たんだな」って、綺麗事じゃなくそういう気持ちになって。自分で聴いても涙出て来そうな曲になった。
それまで言いたかったこと――本当は言いたかったはずなんだけど言えなかったこと、いろんな苦しみとか、もがきとか、いらない美意識とか、そういうフィルターを通った状態の自分とは違うもの――が言えたんじゃないかなと思ってて。
シノダ:僕も『目眩』好きなんですけど、言われちゃったんで(笑)。ギターを弾いてる人間として一番手応え感じてるのは『心呼吸』です。オーバーダビングって、ギターを重ねて録っていく作業があるんですけど、そん時に人生で一番ハイになったんですよ。アイディアがどんどん出て来て。(メンバーに)結果的に結構入ってるよね、ギターが?
wowaka:入ってるね。
――Twitterでは「神が憑依した」と表現されてましたけど。
wowaka:あのツイート面白かった。
心呼吸の試聴が上がりました。この曲のギターを録っている時は何か神に近いものが私に憑依しており、私は「アッアアッ」などと言いながら黙々とギターを重ね録りし、みんな「まだ録るの?」みたいな空気になりました。その時の自分のどうかしてる感じが完全に音に乗っていてカッコイイです。 https://t.co/XB6oyMb07M
— shinoda (@sho_do_teki) 2016年11月16日
シノダ:いやほんと、何か降りて来たなって感じありました。出てくるアイディアがどれも良い方向に作用して。メインとなるリフが一本あるんですけど、実はその裏でもう一本、すごいちっちゃい音でリフが鳴ってるんですよ。そんなアイディアが出てくることもたぶんなかったし、出てきたとしても、自分の中で勝手に「それはないな」っていう風に間引いてたというか。そういうのも迷いなくブッ込めるようになったし、そういう感じで自分の中で革命が起きた曲ですね、『心呼吸』は。その結果スゲーかっこいいもんができたと思います。
ゆーまお:俺やっぱり『doppel』なんすよね。『目眩』も好きなんだけど。『ハグレノカラー』とかも結構面白いんですよね。……というか、面白いことはどの曲も全部説明できるんですよ。でも「好き」って聞かれるとね……やっぱり『doppel』じゃないですかね。
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