耳の早いバンドリスナーなら、DATSというバンドの存在を既に知っているだろう。今年2月にエレクトロなサウンドの『Mobile』を発売した時点で、yahyelのメンバー2人が在籍すること、METAFIVEの砂原良徳がマスタリングを手がけたことから各方面から注目を集めていた。しかし実はこのバンドの歴史は長く、ギターサウンドを主体としたバンドとして活動していた時期があったのだ。3月になり、新体制となって初のLetting up despite great faults来日時のライブやWWWXで行われた自主企画の手応えから自信を深め、堂々たる発言に終始した4人に話を聞いた。6月7日に発売された『Application』の制作を通じて、バンドに見えた光明とは。
Photography_TAKUMA TOYONAGA
Text_HIROYOSHI TOMITE
Edit_司馬ゆいか
――『Application』の制作はいつ頃からはじまったのでしょうか?
杉本 : 去年の秋に制作をしていましたね。ベースの伊原卓哉と今回ミックスを担当してくれている荘子itというラッパーと3人で僕の地元久が原に喜多方ラーメンを食べにいったんです。
――喜多方ラーメン? 唐突に何のお話でしょうか?
杉本 : 今回のアルバムの話につながっている話ですよ、大丈夫です。話を続けさせてもらうと、『喜多方ラーメンを食べにいこうよ』と2人を誘ったんです。荘子itは何度かその店に足を運んでいるから『今日は食いたくねえ』っていったんですけど、伊原は食ったこともないのに、雰囲気で『食いたくねえ、まずそうだし』って言ったんです。それってちょっと違うんじゃないかと思ったんですよね。自分が食ったこともないのに雰囲気で『食いたくない』というのは周りに流されているぞ、みたいな。
伊原 : 説得されて食べにいったら、結果美味しかったんです。
杉本 : 味もまろやかで体にしみるし、10代の頃だったらインパクトにかける味だなと思ったのかもしれないけど、いい味だなってみんなで話して。俺たちはこういうことをちゃんと世の中に訴えかけていかないといけないんじゃないかみたいに盛り上がった。その次の日くらいには、このアルバムに先駆けてリリースしていた『Mobile』ができていましたね。
伊原 : 食べてなかったら、『Mobile』はできてなかったかもね。
早川 : まあ、喜多方ラーメンの話はおいといて…(笑)
伊原 : もう少しちゃんとお話をさせてもらうと、僕らの世代って自分が経験していないのに知ったつもりになっていることがあまりに多すぎると思うんですよね。『目の前にある水を飲んで自分が美味しいと思える気持ちを忘れていないかい?』と。そういう自分たちに向けた批判の目みたいなものがアルバムのテーマになってるんですよ。
大井 : まとまった(笑)
批判ではなく僕らの世代の感覚をただ歌詞に乗せて
――既に公開になっているいくつかのインタビューで『SNS世代におけるリアル・日常・生活』を楽曲に落とし込んだと聞いています。そして今回の作詞は楽曲ごとにメンバーそれぞれが担当したそうですね。楽曲タイトルのその狙いはなんだったのでしょう?
杉本 : 『Mobile』ができたことで次のアルバムの軸や方向性が自ずと『SNS世代におけるリアル・日常・生活』というものに定まったんです。それぞれがアプリに対して思うことを歌詞にしたらいいなと思ったんですよね。 SNSという一つのテーマに対して、いろんな角度からの視点があったほうがテーマに対して広がりが生まれると思ったんです。一人が書くのはナンセンスだなと。
杉本亘(ヴォーカル)
大井 : そのテーマで出てくるアプリを出し合って、ワンセンテンスのものができた感じですね。
伊原 : ある意味狙ったと言えば狙った形ですが、結果的に説得力を持たせられるキーワードは何かを突き詰めて考えたら『Application』でしたね。
早川 : 当時杉本が大量にトラックを作っていたので、歌詞をトラックに当てはめるケースもあれば、歌詞が先になったものもありましたね。密にコミュニケーションをとって、言語化しないでも共通認識があった記憶があります。
――すべて英詞ですが、それぞれの楽曲で印象的なフレーズがあるなと思いました。例えば、Queenは<<いいね!の数はステータスにならないよ、ナーバスになる必要はないよ>>といった趣旨の歌詞が出てきます。
早川 : 『Queen』は僕が書いた歌詞ですね。今になって思うとインスタやFacebookをあんまりやっていないからこそ出る言葉だなって思います。
早川知輝(ギター)
――Amazonではレビューで5つ星の評価に対する揶揄する言葉を言っていたり。
大井 : 『Amazon』は僕が書いていますね。prime minister と、mini starというフレーズを使いたかっただけなんですけど(笑)
――出会い系アプリのTinder(アルバムではTinnder表記)もタイトルになっています。
杉本 : この歌詞もかずくん(ドラム)ですね。Frank Oceanの『Blonde』に『Facebook Story』という曲があるように、自分たちも『Tinnder』という自分たち自身に対する皮肉というか、何かに対して少なからず中指をたてているという姿勢は示したいなと思って書いてるんです。
伊原 : だけど批判しているつもりはないんですよね。こういう歌詞って僕らより上の人たちが言ったら社会批判になっちゃうかもしれないけど、ガラケー時代も知ってるし、デバイスと共に進化してきた僕らの世代全体に対して『こんなもんだよね』と自分たち自体もおちょくってる部分が少なからずあるんですよ。あんまり真に受けず、楽しんでもらえたらいいなと思うくらいですね。
編成や音像は変われど、自分たちはロックバンドであり続けられる
――アルバムのどの曲もトライバルなビートで高揚感を感じさせる展開をしているように思えました。トラック制作では、どんなことを意識したのでしょうか?
杉本 : 展開やサビの回数も抑えて、コンパクトな要素のなかで楽曲をどう盛り上げるかを考えていました。音楽的に参照したのは、当時ビルボードのヒットチャートに出ていたThe Chainsmokersなどのグループもだし、個人的に好きなBonoboなどのトラックにも影響受けているし、サウンドクラウド上で拡散されていく音楽にも目配せしていました。というのも今の時代性に合致する音楽を作らないと、時代性を表現する歌詞を書いても説得力を持たせられないと思ったからです。だからそういった音楽のギミックは取り入れつつ、メンバーそれぞれの趣向も意識的に取り入れるみたいなバランスをとっていました。
――楽曲のテイストもレーベル移籍以前のDATSから様変わりして、難しさを感じなかったですか?
伊原 : yahyelでモンジョー(杉本)と大井がやってるのはみていたので、エレクトロの音楽のやり方は知っていたんです。とはいえ僕と早川は普通のギターロックバンドしかやったことないから、最初は戦々恐々としていたというのは正直なところですね、でも、3月4日に新体制ではじめてLetting up despite great faultsと対バンしたときに、今までより楽しいことに気づいて(笑)
伊原卓哉(ベース)
早川 : 自分もサンプラー叩いてるけど、前の体制よりロックバンド然としてると感じたくらいですね。
伊原 : これも『Mobile』や喜多方ラーメンの話に戻るんですけど、自分で想像以上にロックバンドの定型スタイルみたいなものに変なこだわりをもっていたんだなと思って。何が自分たちが作った楽曲に対していいアプローチができるのかを突き詰めて考えた結果をライブで示せたら、以前よりロックバンド然としていた。だったらそれでOKじゃんとなったんですよ。
大井 : ギターロックが好きだったらその定型スタイルから離れられない人は多い。早川に至っては最初ベーシストだったのにDATSに入るためにギターを担当することを決めた。そして今サンプラーを叩いてる。それぞれがDATSに必要なものは何かっていうのを見極めてそれに必要な楽器を使う。メンバー全員がDATSの楽曲のために何をすべきかを考えているから、新しいスタイルになってもうまくいったんだなと思います。
大井一彌(ドラム)
伊原 : むしろ今はこのスタイル以外は考えられないくらいです。
――これからはFUJI ROCKをはじめ各地で夏フェスの出演も控えていますね。今作を引っさげてのライブはどんなものになりそうですか?
杉本 : 楽しみでしかないですね。僕の場合、30分以上ライブで立っているとどんだけ好きなアーティストでも飽きてしまうことがあるのですが、僕らのライヴは人を飽きさせない自信がありますね。きちんと踊らせるし、視覚的にも楽しませられる仕掛けがあると思っているので。自分たちの持ってるもので突き破りたいなと。
早川 : バッキバキになるでしょうね。
大井 : 漫画の『BECK』的熱い展開を期待していますね。
杉本 : 野外は音が広がっていってしまうので、自分たちの音の魅力をどこまで後ろまで届けられるかが課題になるかなと。楽しみながらも次のステージにいくためのステップとして意識を持ってやってやりたいですね。
伊原 : 僕は元来ロックキッズなんで、こういう音像でも頭振る。そういうパフォーマンス自体が多様性を示しているというか。自由に楽しんでもらいたいなと思いますね。
杉本 : いろんな情報は置いといて、まずは汁吸ってみて俺らのことを判断してもらえたらと。絶対うまい自信があるから!
伊原 : 喜多方ラーメンの話に終始してるじゃん(笑)。
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