拡張現実的なファンタジーとしてのシティ・ポップ
――「架空の街のサウンドトラック」という一つのコンセプトでこれまで4枚のアルバムを作って来て、率直な今の感想を聞かせていただけますか?
PORIN:いろんな可能性を見つけるために、これまで、ストックがない状態でどんどん出していったんですけど、ようやく自分たちの「おいしいところ」がわかったなっていう感じがしますね。だからこの4枚を頑張って作った甲斐があったなっていう。
マツザカ:ちなみに、架空の街っていうテーマで聴いた時に、どんな街を想像します? アルバムごとで違ったりしますか?
――たとえば1stだと、『上海ナイト』っていう曲があるくらいなので、個人的には『未来世紀ブラジル』を思い浮かべちゃいますね。未来なんだけど懐かしい、みたいな。
atagi:ちょっとスチームパンクみたいな(笑)?
――そうですそうです! そういう感覚がすごい好きです。あとはやっぱり、キラキラしてるんだけど完全なるファンタジーではないというか。現実とどこかで繋がっている。しかし、いったい何がこういうキラキラしたものを生み出させたのか? そのことにすごく興味があります。
atagi:本当にいろんなことを知ってる人の言葉って、リアルすぎて夢がないじゃないですか? いろんなことを知らない人の方が、無鉄砲に大きなこと言える強さがありますよね。たとえばACCがシティポップだとして、その街にもたらす音楽って何だ?と考えた時に、僕はメンバーの中で唯一東京生まれじゃなくて関西出身で、しかも結構田舎の方なんですけど、子供の頃に描いてた都市のイメージがACCの音に滲み出てるような気はしますね。東京なのかシンガポールなのか香港なのかよくわかんないけど、とにかく都市っていう、おっきな意味合いでのデフォルメされたイメージが。
マツザカ:atagiが作る曲は、冷たいんだかあったかいんだか、温度感のよくわからないものが多いんですよね。それはatagiが今言ったようなデフォルメされた都市のイメージがあって、そこから架空の街を作り上げてるからかもしれません。1stの時からそうなんですけど、聴いてくれた人には「ファンタジーだよね」ってよく言われます。でも、作ってる時はあんまりそういう意識はないんですよね。
――確かにファンタジックではあると思うんですけど、虚構を作り出しているというより、もう少し拡張現実的という方が近いかもしれません。自分の日常の延長線上に突然ファンタジックなものが降って来るような。そういった感覚は4枚のアルバムに共通してあるような気がします。
マツザカ:ああ、なるほど。そういうことか。僕らとしては、ACCとして描くべきものとか、「ここはおいしいぞ」っていうラインはだんだん見えてきたと思ってるんです。ACCとしてはやっぱり、四畳半の団地のリアルとか、そういうことではないよねっていう。よく言うのは、「それってオーサムじゃなくない?」っていう。「それってロックじゃなくない?」っていうのと似てるんですけど、なんとなくみんなの中のイメージがあって。ナイスでスムースなものがオーサム。それに準じて曲を作っていくという意識はメンバーに共通してあると思います。
Awesome City Clubと音楽の未来
――ACCの特徴の一つには、ペースが早いということがあると思います。2年で4枚のアルバムはすごく早いですよね。なので、今の時点ですでに次の構想があるのかなと予想しているんですが、いかがでしょう?
PORIN:引き続き、今回の大テーマだった「Awesome Revolution」は続けてやろうって話してます。あとは架空の街からいったん離れるので――もしかしたらまた戻るのかもしれないですけど――こういうコンセプトが1回取り払われる状態になると、これからは同じシーンに立つアーティストさんがいっぱい増えると思うんですよ。そういう人たちと真っ向勝負していく形になるので、強い曲を作りたいなとは思ってますね。
atagi:今までペースを早くリリースしてきたことで、図らずも得られた良かったものってすごいたくさんあるんですよね。仮に、普通のアーティストが年に1回アルバムを出すとしたら、アルバムのワンマンツアーを1回打ちます。でも僕らはアルバムを2枚出すことで、ワンマンツアーが年に2回打てるわけですよ。そのおかげでいろんなところにライブで行けるし。今ってすごく流動的な時代で、いろんなアーティストがどんどん毎年出て来てますよね。アーティスト側も名前を忘れられないためにいろんなことをトライしていると思うし、日々そういうことに情熱を持っていると思うんですけど、僕たちはありがたいことに、音楽をリリースするっていうこと、本来アーティストがやるべきこと/やりたいことをやらせてもらえてるおかげで、年に2回、そういうおっきな露出がある。これは若手バンドとしてはめちゃくちゃありがたいことです。今、ようやくACCっていうバンドが世間に少しずつ認知されてきているところだと思うので、こうやって培った部分をいかに大事にして、そしていかにおっきなバネにして、また次のフェーズにジャンプできるか、それが大事かなと思ってます。
マツザカ:あとは7曲入りっていうのも自分たちの特徴でした。僕がアルバムを聴くとしたら、14曲入りっていうのは少し重いなっていうのが最初の感覚としてあったんですよね。7曲で「ああ終わっちゃった」って言ってもう1回リピートして聴くくらいがちょうど良いじゃん、っていうところで始まって。でも活動していく上で、ワンマンライブをたくさんやるようになると、その後に30分のライブをした時に、「この表現も本当はしたい」とか、「初めて行った場所でこの部分を見てもらえないのはすごいもったいないな」っていうのを強く感じたんですよ。そうなった時に、アルバムに置き換えると、やっぱり7曲じゃなくてもう少しボリュームがあった方が、ACCの魅力を面的に見せられるんじゃないかなと思って。1曲だけで緩急をつけるよりも、「今はこういうゾーンなんだよ」っていうのがしっかり見えてきた方が、丁寧にその世界観を伝えられるのかなと。だから、次は7曲入りじゃないものを作る予定でいます。
――昨年は日本にSpotifyが上陸するなど、音楽業界に大きな変化があった年でした。みなさんの活動のもう一つの特徴として、Campfireを使ったりSoundCloudで曲を公開したり、そういったネットカルチャーやストリーミングへのコミットがあると思います。2017年の音楽業界はどんなふうに変わっていくと思いますか?
atagi:俺は、おっきな流れが変わるっていうことは特にないなと思ってるんですけど、たとえばバンド単位みたいなすごくちっちゃなところから新しい試みを持ち出して来る人っていうのは、どんどん出て来るだろうなと思ってます。そこから何年後かには主流になるような流通のフォーマットを作るバンドが生まれたりっていうことが、現場レベルでたくさん起こる年になるんじゃないかなと。っていうのは、2015年と2016年って、明らかに、バンドが悪い意味でのDIYっていう概念を捨てて、もっとクリエイティブな良い意味でDIYに対して取り組み始めたんじゃないかなと思っていて。もっとその流れは加速していきそうな気がします。「CDが売れない」ってずーっと言われてますけど、たぶん、CDリリースしないでメジャーデビューして、そのままCD出さない、みたいな人も出て来るかもしれないし。
――アメリカだと、チャンス・ザ・ラッパーがまさにそうですね。
atagi:そう。そういう流れが日本にも来そうな気がしますよね。
マツザカ:マネタイズの方法はもっと進化するんだろうなと思ってて、そう考えると、もっとバンドマンがお金の話をしっかりするようになるのかなあと思います。お金の話をするからこそ、自由に使えるお金の行き場がよりクリエイティブでコアなものになっていったりする。そこからまた新しいカルチャーが生まれたりするだろうし。というのも、やっぱりクラウドファンディングを早めの時期にやらせてもらって、「ぶっちゃけそれってどうなの?」って意見を結構もらったんですよね。自分たちとしては面白いし、合理的だなと思ってたんですけど、やっぱり「ロックのくせに」みたいなのがちょっとあって。でも最近はすごいいろんな人がクラウドファンディングを使っているし、ほとんどのプロジェクトが成功している。それってなぜかというと、お客さんが単純に見たいからなんだろうなと思うんですよ。そのゴールを見て、その作品が欲しいだとか、〇〇して欲しいだとか。だから、搾取するされる云々とかっていうことじゃなくて、もう少し単純に「こんなことやりたい」って言った時に、それを聞ける人の範囲が増えただけで素晴らしいことですよね。その辺りが自由になってるからこそ、お金はもっと手に入りやすくなるんだろうし、その結果クオリティが高いものもできやすくなるんだろうなって思ってます。
(クラウドファンディングリターン特典のDVDトレイラー。Awesome City Clubは『アウトサイダー』『Don’t Think, Feel』などをクラウドファンディングでリリースしている。)
――先ほどアルバムの曲順について、リスナーとしてはあまり気にしなかったという話がありましたが、ストリーミングだと、アルバム単位では聴かずに一曲単位で聴くことが増えますよね。Spotifyが上陸したことでその傾向は強まるんじゃないかと思うんです。そういったことって、アーティスト側にはどんな感触があるんでしょうか?
atagi:あ、でも、アルバムっていうのはすごくコアで、ファンだからこそな領域もあると思ってて。本来、1曲単位で好きな曲を聴くっていうのは、実はそんなに悪いことじゃないと思っていて、結構自然な流れかなと思いますね。
PORIN:わたしも基本的には1曲単位で聴くタイプで、まず1曲聴いてめっちゃ良いってなったらもう1曲聴いて、2曲良ければアルバム買うようにするんですけど、そういう人が多いんじゃないかな。今回のアルバムも『今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる』を推してますけど、他にも良い曲があるので、そこから流れてきてくれれば良いかなと思ってます!
マツザカ:1曲単位よりもむしろもっと意識の低いことになってる気がしてて、YouTubeにアップされてるものしか聴かない人も多いですよね。そんなふうに本当に1曲しか聴いてもらえないんだったら、サブスクリプションが浸透することで他の曲も聴いてもらえるチャンスが増えるようになれば、それだけでずいぶんそっちの方が良いんじゃないかなっていうのは、アーティストにとってはあると思いますね。もちろん、アルバムで全部聴いてくれた方が良いですけど、常にリード曲だけを聴いてもらうのは、アーティストとしては不本意だなとは思います。やっぱり、リード曲にはリード曲の役割っていうものがあると思うんですよ。またその逆も然りで。そういうものがあるからこそ、ミュージシャンとしてのモチベーションを保ててる部分もあるんで。特に僕らの場合は曲が多様化してるんで、1曲でも多く知ってもらった方が、好きになってもらうチャンスは増えるんじゃないかなって思います。
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