Awesome City Club(以下ACC)が、デビュー2年にして早くも4枚目のアルバム『Awesome City Tracks4』をリリースする。リード曲『今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる』に代表されるように、ACCらしい、オーサムな仕上がりとなった。これまで「架空の街のサウンドトラック」をテーマに、新しい時代のシティ・ポップをRISOKYOからTOKYOへと響かせて来たACCだが、そのコンセプトは、今回のアルバムでいったん完結するという。今回、ミーティアでは、メンバーのマツザカタクミ(Ba.)、atagi(Vo. & Gt.)、PORIN(Vo. & Syn.)の三人にインタビューを行い、その意図や心情の変化、アルバムのコンセプト、さらには2017年の音楽業界の展望などを根掘り葉掘り聞いてみた。
インタビュー後半ではPORINからドキッとする発言が飛び出すなど、実り多いインタビューになった。
Interview_Sotaro Yamada、Arato Kuju
Edit_Sotaro Yamada
Photo_Hiroyuki Dozono
(インタビュー直後のAwesome City Clubによるミーティア独占コメント!)
『Awesome City Tracks4』とAwesome City Clubによる「Awesome Revolution」
――ニューアルバム『Awesome City Tracks4』について主にお聞きしますが、「架空の街のサウンドトラック」というコンセプトが今回でラストだそうですね。コンセプトを完結させようと思った契機や、心情の変化があればお聞きしたいです。
マツザカ:今回のアルバムの大テーマは、「Awesome Revolution」というものなんです。Awesomeって、「いいね」とか「素晴らしい」って意味なんですけど、世の中がより良くなっていったらいいなっていう思いがすごいあって。普段生活してると、息苦しくなる瞬間って結構あるじゃないですか。そういうのをより良くしていきたくて、「世の中オーサムにしていこうよ!」っていうのをテーマにしています。それをもとに『今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる』をはじめとした今回のアルバムの収録曲を作っていきました。これまでは「架空の街のサウンドトラック」というコンセプトにすることで、ある種、ACCをパッケージ化するようなところがありました。そうすると、いろんなメッセージがバラバラに詰まったアルバムになりがちですよね。今回「Awesome Revolution」っていうテーマでアルバムを作った後に、次はもう少しコンセプチュアルでフルボリュームなものを作れるんじゃないか、と思えるようになったんです。「こういうテーマでものを作りました」っていうのをもうひとつ世の中に提示していけるんじゃないかと。これまで2年間で4枚のアルバムを作り上げたことだし、次のフェーズに入ってもいいんじゃないだろうかと。それで「架空の街のサウンドトラック」を最終章にしよう、という話になりましたね。
――atagiさんとPORINさんはどうでしょう? 今回の制作の過程で変化したこと、苦労したことなどありますか?
atagi:このアルバムの大きなテーマが「Awesome Revolution」ということで、世の中をもっと良くしたい、もっとみんなで「あ、いいね」「そうそう、こういう気持ち感じたことあるよね」というような共感覚を得られる作品を作りたい、という思いはあったんですけど、それとは別に、自分たちの裏テーマ的なもので「人間賛歌」というテーマがありました。今回はいろんなメンバーが作詞をしていて、それぞれのメンバーが自分の立場から切り取った様々な歌詞があるんですけど、着地点は同じです。話の導入がネガティヴで始まる曲もありますけど、最終的に行き着くものは、人として清くポジティヴな気持ちで、エネルギーを感じられるもの。もしくは聴いてもらった人にエネルギーを与えられるもの。そういうのを意識して作ってましたね。
PORIN:わたしは今回の作品がいままでで一番スムーズにできたと思っていて。今回、プロデューサーさんが今までより少なめなので、自分たちで仕上げることも多かったんですけど、これまでいろんな方と一緒にやってきて学んだことだったり感じ取ったものを、そのまんまアウトプットした形になったなって思います。
『今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる』
――「人間賛歌」という言葉が出てきましたが、たとえば今回のアルバムのリード曲『今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる』の中に「遊び足りない僕らは」というフレーズがあったり、『Sunriseまで』という曲には「オプティミスト」という言葉があります。このように「人生を肯定する」とか「楽しさ」というような言葉は、ACCの曲によく見受けられるものだと思うんですが、これらの言葉にはどういった意味合いがあるのでしょうか?
(リード曲『今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる』MV。ダンス、チャイナドレス、空手、アニメなど、様々な要素が詰まっている。)
atagi:今って、たぶん、いろんな人がいろんな分野でいろんな好みをそれぞれ持ってる時代ですよね。音楽の好みひとつでも、音楽詳しい者同士2人が集まったとして、お互い聴いてる音楽がそれぞれ深い部分まで離れたりして。おんなじ共通の話題を持って話せる人って、実はそんなに多くなかったりする。そういうのが、音楽だけはなくていろんな部分であると思ってます。それはそれで確かに素晴らしいことだと思います。でも、たとえばスポーツがそうであるように、みんながみんなでおんなじ共感覚を持って、「あ、これ良いな」って思えるもの、一つのことに対してみんなで熱くなれてる状態っていうのも、実はそんなに悪くないよね、っていうことを提案したい気持ちがあります。今回のリード曲『今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる』は、まさにそういう意図で作った曲で、「みんな許されたい瞬間ってあるよね」っていう曲です。
PORIN:ただ楽しいことしようよ、遊び足りないから遊ぼうよっていう歌じゃなくて、若者が持ってる、いま特有なさみしさだったり、孤独とか、認められたいっていう気持ち、そういうのを表現した曲が今回は多かったなっていうのはすごい思いますね。
マツザカ:「遊び足りない」っていう言葉の裏には「寂しさ」があるんですよ。『今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる』のモチーフって、クラブとかパーティーですよね。時間帯はもちろん夜中から朝。クラブとかパーティーって、ハイになりたくて来てる人もいるけど、誰かと繋がりたいとか、1人でいるのが寂しい人もいる。SNSで繋がってるはずなのにどこかやっぱり寂しいし、SNSでいろんなことを発信してるんだけど、逆に人が見てるからこそ、自分の中に言葉とかモヤモヤが溜まってどこに吐き出していいかわかんないみたいな状態になる。で、遊んで何か発散したいっていうところで、「今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる」って言われた方が、「頑張って」とか「君は大丈夫だよ」とかって言われるよりも、自分だったらしっくりくるなあって思って。その方が共鳴しちゃう部分があるのかなと思います。
――確かにリード曲の『今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる』には、キラキラした部分やオシャレで都会的なグルーヴだけではなく、そこはかとない寂しさも感じます。この曲についてもう少し詳しく聞きたいんですが、今回のMVはモチーフが中国的ですよね。中国繋がりで、1stアルバム収録の『涙の上海ナイト』を連想したんですが、「中国」というモチーフに何かこだわりがあるんでしょうか?
(『涙の上海ナイト』MV。若いイケイケダンサーたちの練習風景?と思いきや……)
マツザカ:オリエンタルなものが好きだなっていうのはすごいありますね。『今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる』には、ギターフレーズにもちょっと中国的なフレーズが入ってたりする。この曲は、とにかくエネルギッシュな曲なんですよね。ライブで演奏してみて、お客さんと一緒にすごいエネルギッシュに演奏できる曲だなっていうことがわかりました。MVは『アウトサイダー』と『Don’t Think, Feel』でお世話になった東市篤憲(とうしあつのり:映像作家)さんに監督してもらったんですけど、これだけエネルギッシュなら、クラブで云々っていうストーリーに準じたものよりも、なんかよくわかんないけどすごいパワーを持ってる謎な感じで良いんじゃないのって話になって。それで中国とか、無国籍なものとか、外国から見た日本っぽい感じとか、変なギャップがあるものが僕らは好きなので、そういう要素を入れました。
――無国籍感というと、ACCは「シティポップ」の流れに位置付けられることが多いですが、日本からは少し距離がある感じ、この独特の感覚が面白いと感じます。これは意識的にやっているものなんでしょうか? それとも、自分たちが好きなものを追求した結果としてそういう感覚が生まれたんでしょうか?
atagi:それは両方あると思います。僕たちに似合うものがそういうシティポップ的なものだったのかなって、聴いてくれる人たちの反応で後から気付かされた部分も多々あります。そういういろんな反応が集まって、今の僕たちに繋がってるっていう感じですかね。
――今の質問の、日本から少し距離がある感じという部分に関連して、日本の現代社会から微妙に距離を置きたい、というような気持ちはありますか?
atagi:いや、それは全然ないですね。むしろもっと密接になりたいからこそ、こういう歌詞や音が出てきたんじゃないかなと思ってます。
リアクションから『Action!』へ
――今回のアルバムで興味深かったのがラストの曲『Action!』です。ACCのアルバムは、ラスト曲の変遷が面白いですよね。1stのラストは『上海ナイト』、2ndのラストは『Lullaby for TOKYO CITY』、3rdのラストは『Around The World』。上海→東京→世界、と来て、今回の4thで初めて、地名や空間ではない言葉がタイトルの曲になりました。この変化に込めた狙いはどういったものですか?
(2ndアルバムより『Lullaby for TOKYO CITY』MV。360度動画なので、ぜひスマホで見て欲しいMVです!)
マツザカ:このアルバムって、夜をテーマにしてる曲が多いんですよね。『Sunriseまで』からどんどん夜が深くなっていって『Movin’ on』で夜が明け、『青春の胸騒ぎ』でさらに時間が進んで。ある意味、『Action!』のひとつ前の『青春の胸騒ぎ』で締めくくってはいるんですけど、今回の4thアルバムでAwesome City Tracksを完結させると考えた時に、次に自分たちが向かって行きたいフェーズへの布石みたいなものを示したいなと思いました。なので、さっき言った「Awesome Revolution」、世の中をオーサムにしていこうよっていう、そういうメッセージを一番凝縮できた曲を最後に置いて、次に向かいたい。そういう意味を込めて『Action!』を最後に置きました。
――『Action!』という曲は、ACCの今までの曲とは少し感触が違うものに聴こえます。元々、架空の街というコンセプトから来るファンタジー感みたいなものがACCにはありますが、『Action!』は、明確に自己言及的だと思うんですよ。「本当の気持ちを押し殺していたとしたら」とか「芽が出なくても」という言葉も歌詞の中にあります。こうした曲を、そもそもACCとして作るべきなのか、アルバムに入れるべきなのか、ラストに置くべきなのか。これはとても重い決断で、議論があったと推測しますが、どうでしょう?
atagi:曲順に関しては議論はめっちゃあったよね。
PORIN:うん、あったね。
atagi:まあ、俺は人のアルバム聴いてる時に曲順ってそんなに気にしないタイプなんやけど、やっぱ、作り手になるとね、すごい気になっちゃうんですよ。
マツザカ:やっぱり毎回、アルバムのラストの曲はすごい大事なんですよね。『Action!』は結構アッパーだし、どちらかといえば締めくくり的には『青春の胸騒ぎ』の方が「ああ、なんか良い感じで終わったな」みたいな感じがする。でもやっぱり、「何か変わりたい」という思いを語るには、それこそファンタジックなところからリアルなところに降りなければいけないですよね。『Action!』の歌詞って、小さい頃の自分に向けて書いてるところがあるんですよ。実は、リオ五輪の閉会式を見た時に、すごく思うところがあったんです。それがちょうどアルバムの制作中で。僕は結構物事を斜に構えて見てしまうんですけど、そういう見方をしてても、あの閉会式はやっぱり無条件にアガっちゃった。2020年がすごい楽しみになるようなものだった。こういうのはあんまりないことで、普通は、こういう突き抜けたことをやると誰かが怒るから、もう少し丸まった平均的なものになってしまう。でもあの閉会式はそうじゃなかった。それが単純にすごいポジティヴに感じられた。
ーー確かにあれはすごかったですよね。
マツザカ:それで、何か自分もアクション起こしていかなきゃいけないと思って、こういうテーマが出てきたんです。たとえば、リプライやら何やらはするし批判はするけど、それってあくまでも「リアクション」じゃないですか。もう少し自分たちから「アクション」を起こしたら、それこそ2020年東京オリンピックじゃないですけど、もっとワクワクできると思う。『Action!』では「未来は百花繚乱」という言葉を使ってるんですけど、そのムードっていうもの自体がオーサムなムードなんじゃないかなと思って。そういうものを提供できるようなバンドになりたいので、最後に『Action!』を置きました。
PORIN:アルバムの最後の曲って、そのバンドが今後どうなるかをすごい表してるじゃないですか? で、わたしたちがいまこういう心境で、次のフェーズはこういうふうに行きますよっていう提示でもあるし、あとやっぱり、未来って言葉にみんながワクワクすると思うから、そういう前向きなメッセージのあるもので終わりたかったっていうのはあります。
――じゃあ『Action!』を最後に置くということに関しては、メンバー間でそんなにブレはなかったということですか?
マツザカ:……まあ、やっぱりみんなそれぞれ曲の好みはあるので(笑)、普通に『青春の胸騒ぎ』で終わった方が良いっていう意見はありましたし、当初から『Action!』をラストに置きたいって言ってる人もいました。ただ、曲順もそうだけど、どういう曲が収録されてるかっていうことの方がより重要なのかなという気はしますね。
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