土岐麻子、街とそこに生きる人への愛を込めた『PASSION BLUE』

私の音楽が、誰かの人生の支えになれたら

――12月からはツアーも開催されますね。“冷静寄りの情熱ツアー”と題されていますが、どんな思いを込めたのでしょう？

土岐 : 特に深い意味はないんですけど……（笑）。いつも来てくださる方が自分と同世代の40代の方が多いので、彼ら彼女らの「傍目には静かに聴いているけど、実はすごく情熱的に盛り上がっている」という心象を想像しました。この年齢になるともう騒いだりはしないから一見大人しいけど、すごく情熱的に楽しんでいるんですよね。

あと、今回は若い人にも来てほしいと思っています。東京以外では24歳以下の方に2000円キャッシュバックがありますし、東京でも少しリーズナブルな立ち見席を用意していますよ。

――2000円は大きいですね。こうした取り組みの背景には、『PINK』以降若いリスナーも増えていることもあるのでしょうか？

土岐 : そうですね。いつも特にターゲット層を決めているわけではないのですが、『PINK』は10〜20代の方にもよく聴いてもらえた作品でした。「大人の音楽だと思っていたけど、聴いたらハマッた」という感想もあったりして、世代を飛び越えられた気がしてうれしかったです。

今作にも自分が10代の頃を振り返った「RADIO」という楽曲が入っています。学校と部活と家という狭い世界で息苦しさを感じていた15歳の自分が、電気グルーヴや大槻ケンヂさんの深夜ラジオを聴いて、大人たちが楽しそうに話している姿に救われたことを思い出して書きました。

外の世界はどこまでも広がっていて、今ここでうまくいかなくても生きていける。そのことに気づかせてくれる大人や音楽に、私自身励まされてきました。『PASSION BLUE』の制作時には、私の音楽もそんな風に誰かの人生の支えになってほしいという気持ちが強くあったんです。それには若いリスナーが増えたことも関係しているのかもしれないですね。

――最後に、この「シティポップ三部作」を経て、今後の土岐さんの音楽はどこへ向かうのでしょう？

土岐 : まったく想像がつかないですね……リリースの予定も決まってないですし（笑）。この延長線でもまだ新しいことができる気がするけど、これで一区切りでも悔いはないです。今はゼロに戻ったようなフラットな気持ちで、自分でも次にどんな音楽が生まれるか楽しみですね。『PASSION BLUE』で色んなサウンドに挑戦できたので、次もなんでもできるような、そんな気持ちになっています。