「声と言葉を取り去り、アコギ3本で新たな楽曲の魅力を生み出している」ー小倉博和(ギタリスト/サウンドプロデューサー/コンポーザー)
続けて、桑田佳祐・サザンオールスターズ・福山雅治・槇原敬之・Bank Band・kokuaをはじめ、数多くの作品に関わる日本屈指のギタリスト、小倉博和氏からはトップギタリストだからこそ語ることのできる楽曲解説が届きました。DVDなどの特典にしたほうが良いのでは…といえるほどの内容です。ぜひご堪能ください!
押尾コータロー、DEPAPEPEの衝撃
押尾コータロー、2002年メジャーデビュー。そしてDEPAPEPEは3年後の2005年にメジャーデビューしている。
当時のアコギインストシーンにはゴンチチ、BAHO、山弦などのギターデュオ。中川イサト、内田十紀夫、吉川忠英と言ったソロギタリストをはじめ、多くのギタリストが活動していた。演奏スタイルや世代を超えてなかなか層の厚いシーンであったように記憶している。
そんな中、押尾コータローとDEPAPEPEのデビューは衝撃的だった。
押尾コータロー 『Together!!!』(Music Video / Short Version)
ウィンダムヒル・レーベルからデビューし、アコースティックギター奏法に多くの革命を起こしたマイケル・ヘッジス。彼の特殊奏法(タッピング、ボディヒット、ハーモニクス、スラップ、等)を大胆に取り入れ、右手の爪をコーティングしたフィンガーピッキングスタイルで、変奏チューニングのギターを驚異的なテクニックで操りデビューした押尾コータロー。
リズム、コード、メロディが同時にPAシステムから大音量でアウトプットされるそのライブでの演奏スタイルは、アコギインストのイメージを覆し、彼の活動の場はライブハウスから1万人規模の野外フェスへと瞬く間に広がっていった。
押尾コータロー “15th Anniversary LIVE” Digest
一方、DEPAPEPEはエレキギターで培ったテクニック、正確なフラットピッキングを主体に、レギュラーチューニングのギターを用いたブライトなサウンドと、持ち前のリズム感の良さで2人のタイミングがピッタリと合った、タイトで小気味の良いサウンドが印象的だった。
何より彼らのデビューアルバムはアコギインスト界において異例の大ヒット。
インストゥルメンタルのアーティストのデビュー曲としては、日本音楽史上初のオリコン7位にランクインと言う驚異的な記録を打ち立て、多くのアコギファンを生んだ。
DEPAPEPE『START』
2組ともに言えるのは、そのオリジナル楽曲のポップさであろう。
口ずさめるメロディ、曲の構成の仕方、キャッチーなサビ、グルーブあるリズム。J-POPの歌ものを製作するのと同じように、届ける相手を見据えての作品作りがされている。特にDEPAPEPEの作品にはそれが見て取れる。J-POP界の名うてプロデューサー達を起用した、スタジオミュージシャンとのレコーディングセッションなどもその表れだろう。
DEPAPEPE 『Charge&Go.』Short Ver.
ライブにおいても両者はJ-POPアーティストのステージ運びを取り入れている。客席と一体となった振付け、ウェイブなど。そして言葉によってのコミュニケーション(これは歌詞のないこのジャンルにとっては自分達を伝える大切なツールでもある)。2組ともMCがとても上手だ。
何より一度でも彼らと接した者なら誰もが感じるであろうポジティブさと、関西生まれのいい意味での茶目っ気を交えた明るさが、インストと言うジャンルを超えてこの2組に新しいファンを生み出し続けている大きな理由であろう。
デビューから現在に至るまで2組はこのシーンのトップを走り続けている。
言葉を取り去ることで、新しく生まれるもの
そんな2組がガップリ組んだ初めてのアルバムがJ-POP(K-POPも交えて)のカバーアルバムと言うのは、なるほどな、と思えるのではなかろうか。
このアルバムを聞いてまず思ったのは、どの曲もカバーとしてしっかり成り立っていながら全く別の魅力を持って楽曲が立ち上がってくることである。
“声”という歌曲の主人公と、“意味”(メッセージ)である言葉を取り去り、Ba、Dr、Key、Syn、SQ等の楽器もいっさい使用せず、潔くアコギ3本のみで再構成された楽曲の数々。
だからこその新鮮さがあるのだが、そこには数々の工夫が見てとれる。
“チョコレイト・ディスコ”の付点ディレイをかけたイントロに始まり、随所に見られる適切なエフェクト処理。“ひとり”のサビのディレイリバーブの広がりは、まるでシンセパッドが同時に鳴っているかのようだ。
“TECHNOPOLIS”の冒頭YMOオリジナルバージョンでは「トキオ」と言うデジタルボイスで始まるのだが、この部分はダウンチューニングしたギターをスラップダウンする事で表現している。「ドゥーン」と。これがなかなかに「トキオ」と聞こえて笑ってしまった。
また“Dragon Night”の途中から出てくるスネアドラムとバリトンレンジでのベースランニングはどのような手法が使われているのだろうか。本人達に会ったら是非聞いてみたいものだ。(※編集部註:DEPAPEKOの3人が表紙&巻頭インタビューを飾った『アコースティック・ギターマガジン』vol.78 P22にスネアドラムのような音を出す“タバレト奏法”についての解説が掲載されています。興味のある方はぜひご一読を!)
また“恋”の2Aの部分の速いパッセージの駆け上がりや“Dragon Night”の間奏のクロマチックフレーズのハモなど、細かい部分にもテクニカルなこだわりが見てとれる。その後、原曲アレンジでは、エフェクティブなハープのグリッサンドが、おちサビへのチェンジに使われているのだが、この部分をバリトンレンジのランニングダウンフレーズに置き換え、そのままのグルーブを保ったまま、おちサビに繋げるセンスも洒落ている。
卓越したテクニックと、歌心溢れるプレイ。3人だからこそできること
どの楽曲も誰もが口ずさめる選曲であり、曲によっては社会現象にもなったパワフルなナンバーである。誰もの記憶の中にあるメロディー、リフ、アレンジだからこそ、それを少し変化させる事でのおもしろみが、誰もに伝わるのであろう。
その事を十分に分かっているからこそ、大切なメロディーはデフォルメしすぎず、曲全体に渡って印象的なリフ、コード、キメ、ハモ、カウンターメロ、原曲のアレンジを決め細かく再現することに、全曲を通じてこだわったのであろう。
また、“チョコレイト・ディスコ”を除いて全ての曲は原曲と同じkeyで演奏されている事も特筆すべき。“チョコレイト・ディスコ”はイントロリフで1弦の開放を使う事と、レギュラーチューニングのテンション感を大事にしたからであろうか、半音上のkeyが選択されている。
このような細かいこだわりの数々にリスナーのアンテナが、心地よい錯覚を引き起こされることで、楽曲が新しい魅力を持って立ち上がってくるのだ。
そしてこの細かな再現を可能にしている大切な要素が、押尾コータローのクリエイティブな奏法における卓偉したテクニックと、DEPAPEPEのタイトで正確にコントロールされた、歌心溢れるプレイなのである。
「DEPAPEKO」のファーストアルバム「PICK POP!」
この「アコギ・スーパーカバー集」はシリーズになると、嬉しいなぁ。
シンガーズアンリミテッドのアカペラシリーズのように「in クリスマス」や「in ビートルズ」など、この素敵なアンサンブルで数々の名曲を、違った味のご馳走に仕上げたアルバムを期待するファンは多いだろう。是非、シリーズにして欲しい企画である。
もちろんDEPAPEKOオリジナル作品も素敵だろうが2組においてはお互いの活動もあるだろうし、そう考えると今回つつましく1曲だけ新曲が入っている意味も分かる気がする。
“For you”この新曲は、新しいコードチェンジ、アドリブに取り組む姿勢が見え隠れしているようで、実験的な取り組みの香りもあり、興味深かった。こんな風なDEPAPEKOだから出来る挑戦もこの先多くあるであろう。
また、多くの名曲を読み解く事は、オリジナルを作る上での大切なこやしになる。そう考えるとDEPAPEKOは、実り多い修行の場、ともいえる。
トリオの魅力
DEPAPEKOを一言で言うと何だろう。ここからは少し砕けた話になりますが、押尾君を長男とすると、徳岡君が次男、三浦君が三男、と年の離れた兄弟のような関係でもある。
3人の役割分担がはっきりしているのも、このユニットの強みでもあり魅力でもある。可能性を秘めて、全方位に開き、見る人を笑顔にする運命のトリオDEPAPEKO。
彼らのスタッフとも親しく話をさせて頂く機会が何度かありました。愛情に溢れた、まさに「ファミリー」と言ってよい人達とのコミュニケーションに温かい気持ちにさせてもらった事を憶えています。
今回の作品で、またステップアップした3人のギタリスト。アルバムは勿論、11月に予定されているDEPAPEKOツアーも必見、楽しみだ。
Text by 小倉博和
小倉博和/HIROKAZU OGURA
1994年 桑田佳祐ソロアルバム「孤独の太陽」を全編にわたりサポート。
シングル「月」は日本レコード大賞・優秀賞を受賞。「孤独の太陽」はアルバム大賞を受賞し高く評価される。桑田佳祐・サザンオールスターズ・福山雅治・槇原敬之・森山良子・大貫妙子・JUJU・Bank Band・kokuaをはじめ、数多くの作品に関わる。ギターデュオ・山弦・を結成。5枚のアルバムをリリース2014年には「GOLDEN TIME」、2016年「Summer Guitars」とソロアルバムをリリース。高いテクニックと幅広い音楽性に裏付けされた、そのギタープレイ&楽曲はジャンルを越えて多くの支持を受けている。
近年ではFM COCOLOでMARTIN CLUB JAPAN Presents「小倉博和のFRIDAY,Sound of Strings」でラジオDJも努める。
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