夏限定の非日常、フェス会場では経験値の差がモロに出る。誰だって最初は素人……なんて言いつつも、できることなら恥はかきたくないし、ライブと自然を謳歌したい。
そんな、フェス慣れしてないけどワガママな僕らの相談に乗ってくれたのが中目黒の名店、「バンブーシュート」の店主、甲斐一彦さんだ。
公私にわたり、かれこれ20年近くフジロックへ足を運んで、アウトドアにも精通したこの人のアドバイスとくれば、きっと間違いない。
便利で洒落たアイテムに、思わず周りが関心しちゃうような、フェスで生きる知恵。
野営、連泊、ドンとこい。いよいよ目前に迫ったフジロックで、最高の初参加を果たすための備忘録。
Photography_SHINJI SERIZAWA
Text_RUI KONNO
Edit_ADO ISHINO(E inc.)
中目黒の名店、バンブーシュートへ
「あのバンドが何年ぶりに来日決定!」、「今年のヘッドライナーは?」、「最終日のチケット、早めに押さえとこ」。また今年も春頃から、夏フェスの常連たちが嬉々としてそんなことを話している。
マズいぞ、今回も出遅れた。今年こそは!と思いつつ、なにかと理由をつけては参加を見送って早何年……。行きたいけど、古参組にナメられたらヤだな、とか思ってはいないだろうか。いや、思ってるはずだ。
だってヤツらは、なんだかスゴそうな道具をたくさん持ってて、服装もやたらとアウトドアっぽくて本格的だし、その上「ウェーイ」とか言ってたりする。いきなりそこに割って入れったって、そりゃ無理ゲーだ。だから、助けて甲斐さん。僕たちでもすぐに「ウェーイ」するためにはどんな格好して、何を持っていけばいいのか、そこんとこを教えてください。できるだけ、懇切丁寧に。
「フジロックに限らず、フェスでいつも思うんだけど、“いかにも山”って格好してるヤツってサムいよね」。
開口一番、甲斐さんはそう言って切り捨てる。衝撃である。マニアックな装備で他と差をつけるのが通っぽいんじゃないだろうか。
「そもそもさ、みんなフェスに音楽を聴いたり、お酒を飲んだりしに行くわけじゃない? だから、基本的には不快なのはダメだよ。アウトドアギアって山の中を移動するときとか、危険性を覚悟するようなときに選ぶものだからフェスには重いし、ジャマだと思う。見た目的にも機能的にもできるだけ普段着のままの方がいいよ。その方が会場へ向かうときも自然だし」。
危ない危ない。最初から大きく道を誤るところだった。確かに、ライブなのに下山した山男みたいなヤツがいたら浮くもんな。「でも……」と甲斐さんは続ける。
「雨の対策と足元だけは別だね。フェス会場では雨が降ると、一気に機能が停止しちゃうから。特にフジロックは足元もズブズブになっちゃうし、晴れてても山道を多少歩くことを考えると、トレッキングブーツなんかを履いてった方がいいと思う」。
高機能アウターを1枚
雨対策には、やっぱり防水素材の高機能アウターがいいらしい。真夏でも陽が落ちると急に冷え込む山中では、保温のためにも欠かせないそうだ。マウンパやアノラックなど、防水アウターを着るときに注意したいのがインナーで、甲斐さん曰く、「春夏はシェルに素肌が触れると蒸れるから、インナーは半袖じゃなくロンTかシャツを着て、肌に触れさせないのが重要」なのだそう。
サンダル、パンツ、日焼け対策
シューズは、当日履いて行くトレッキングシューズとは別に、かさばらないスポーツサンダルを一足バックパックに入れておくと日中も快適に過ごせるとのこと。パンツも行きはレングス長めで、小さくたためるショーツを持って行くとどんな状況にも対応できそう。日よけや雨よけと髪型の乱れに配慮して、帽子も忘れずに。
よし、服装はなんとなく見えてきたぞ。じゃあ、次は荷物で一番重要なバッグだ。
現地で機動力をあげる小物たち
「大きさも大事だけど、テントを持っていかない日帰りだったらそんなに容量は要らないよ。泊まりで行くなら、ある程度の大きさがあるバックパックの中に、現地で使うためにコンパクトなバッグを入れて行った方がいいと思う」。財布も同じように、普段使いより小さくて身につけやすいものに入れ替えておくと現地でストレスが少ないとのことだ。
テントと寝袋のはなし
そして、気になるのが野営の拠点となるテント。モデルごとに収容人数が定められていて、連泊になるなら少し大きめを選びたい。
「作りとしては、真ん中に一本の支柱があるものより、骨組みがアーチ型に交差するタイプが自立するし安定するからオススメ」と甲斐さん。ピックアップしてくれたテントは、どれもアウトドアフリーク御用達のブランドたちだ。実際会場に行くと外遊び好きでなくても知っているような定番アウトドアブランドのテントが乱立しているが、あまりにカブるとなんだかちょっと気恥ずかしかったりする。それだけだったらまだいいが、自分のテントがどれだかわからなくなるなんて事態だけは避けたい。フェスで迷子なんて、考えるだけで身の毛がよ立つ。
テント内では寝袋を使うことになるが、甲斐さんが「迷ったらコレを買っとけば間違いない」と太鼓判を押すのが〈モンベル〉のもの。
「なんで〈モンベル〉かっていうと、安いし耐寒性能が番号別で色違いになっててわかりやすいんだよね。グリーンの3番が標準で、数字が減るにつれ耐寒性が上がるんだけど、2番もあればフェスなら十分だよ」。
参照:モンベルオンラインストア
女の子と一緒に行くなら、黄色の2番を用意しておいた方が良いと甲斐さんは言う。その理由は?
「だって女の子が冷えたらかわいそうじゃんか」。
参照:モンベルオンラインストア
なるほど、もっともだ。そういう環境下だとよくわかるぞ、男の底が。女の子たちはその辺のことをめちゃくちゃ見てるし、フェスから帰ったら絶対友達に話すからな。気をつけろ。
その他便利なギアをズラリ
服装と野営についてわかったところで、最後に知っておきたいのが他の道具類。服に比べて、ここには本気っぽいギアもちらほら。
「ハイキング、縦走、クライミング等々、目的によって持って行く道具が全然違って、そういうものの中から選んでフェスに流用してくのが好きなんだよね」と甲斐さん。
並んだのは夜間に欠かせない照明や携行用の食器類など。どれもムダがないけど意外と洒落たデザインで、サッと取り出して使ってたら、かなりこなれて見えそうだ。むしろ、これ見よがしに使いたい。
おわりに。甲斐さん的フェス観
必要な装備と備えの説明をおおむね終えたところで甲斐さんはこう呟く。
「持ち物は未だにフェスに行くたびに発見があるし、持ってったけど使わないものがあったりもする。でも、出発直前に持って行くものを悩んで選ぶのもフェスの醍醐味だから。何を持ってくとか、何が必要って言ってるときが一番楽しいんだよね。それにフジロックは長年続いてる分、現場で調達できるものも多いし、とりあえず行ってみたらなんとかなるよ」
そうだ、こなれて見せることばかりに気を取られてライブを、その準備を楽しむことを忘れちゃ本末転倒だ。甲斐さんは、「ゴリラズもビョークも見たいし、ロン・セックススミスもブルーハーブも見たい、あ、モンドグロッソと、小沢健二も聴いときたいな」とフジロックのタイムテーブルをしげしげと眺めながら話す。
「でも全部は見られないんだよね、会場で仕事しなくちゃいけないから……」。
ありがとう甲斐さん。甲斐さんの分まで、僕たちがフジロックを楽しむことにします。そうそう、甲斐さんはフィールドオブヘブンのTOKYO HEMP CONNECTIONのブースにいるそうなので、困ったら相談しに行ってみよう。
<プロフィール>
甲斐一彦(かい・かずひこ)
アウトドアシーンにもファンの多い中目黒のセレクトショップ「バンブーシュート」を主宰。10代で古着にハマり、ヴィンテージのアウトドアウェアを通して野外活動に興味を持つ。フェスに触れたきっかけは、積極的に屋外でのライブを行なっていたグレイトフルデッドやフィッシュといったバンドで、フジロックには場所が現在の苗場スキー場になった第3回目から高頻度で行っている。ここ最近は、フジロックに初期から出店しているトウキョウヘンプコネクションのブースでバンブーシュートとして参加中。
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