夏限定の非日常、フェス会場では経験値の差がモロに出る。誰だって最初は素人……なんて言いつつも、できることなら恥はかきたくないし、ライブと自然を謳歌したい。
そんな、フェス慣れしてないけどワガママな僕らの相談に乗ってくれたのが中目黒の名店、「バンブーシュート」の店主、甲斐一彦さんだ。
公私にわたり、かれこれ20年近くフジロックへ足を運んで、アウトドアにも精通したこの人のアドバイスとくれば、きっと間違いない。
便利で洒落たアイテムに、思わず周りが関心しちゃうような、フェスで生きる知恵。
野営、連泊、ドンとこい。いよいよ目前に迫ったフジロックで、最高の初参加を果たすための備忘録。
Photography_SHINJI SERIZAWA
Text_RUI KONNO
Edit_ADO ISHINO(E inc.)
中目黒の名店、バンブーシュートへ
「あのバンドが何年ぶりに来日決定!」、「今年のヘッドライナーは?」、「最終日のチケット、早めに押さえとこ」。また今年も春頃から、夏フェスの常連たちが嬉々としてそんなことを話している。
マズいぞ、今回も出遅れた。今年こそは!と思いつつ、なにかと理由をつけては参加を見送って早何年……。行きたいけど、古参組にナメられたらヤだな、とか思ってはいないだろうか。いや、思ってるはずだ。
だってヤツらは、なんだかスゴそうな道具をたくさん持ってて、服装もやたらとアウトドアっぽくて本格的だし、その上「ウェーイ」とか言ってたりする。いきなりそこに割って入れったって、そりゃ無理ゲーだ。だから、助けて甲斐さん。僕たちでもすぐに「ウェーイ」するためにはどんな格好して、何を持っていけばいいのか、そこんとこを教えてください。できるだけ、懇切丁寧に。

中目黒に根をおろして19年。「バンブーシュート」をゼロから作り上げてきたのが甲斐一彦さんです。
「フジロックに限らず、フェスでいつも思うんだけど、“いかにも山”って格好してるヤツってサムいよね」。
開口一番、甲斐さんはそう言って切り捨てる。衝撃である。マニアックな装備で他と差をつけるのが通っぽいんじゃないだろうか。
「そもそもさ、みんなフェスに音楽を聴いたり、お酒を飲んだりしに行くわけじゃない? だから、基本的には不快なのはダメだよ。アウトドアギアって山の中を移動するときとか、危険性を覚悟するようなときに選ぶものだからフェスには重いし、ジャマだと思う。見た目的にも機能的にもできるだけ普段着のままの方がいいよ。その方が会場へ向かうときも自然だし」。
危ない危ない。最初から大きく道を誤るところだった。確かに、ライブなのに下山した山男みたいなヤツがいたら浮くもんな。「でも……」と甲斐さんは続ける。
「雨の対策と足元だけは別だね。フェス会場では雨が降ると、一気に機能が停止しちゃうから。特にフジロックは足元もズブズブになっちゃうし、晴れてても山道を多少歩くことを考えると、トレッキングブーツなんかを履いてった方がいいと思う」。

(左)バンブーシュートが別注した〈キーン〉の現代的マウンテンブーツ「ピレニーズ・ブルー・ナイツ」¥22,680 (右)こちらも〈キーン〉のデザインパートナーでもある甲斐さんがデザインした〈キーン〉のオープン・エア・スニーカー「ユニーク」¥12,960
高機能アウターを1枚
雨対策には、やっぱり防水素材の高機能アウターがいいらしい。真夏でも陽が落ちると急に冷え込む山中では、保温のためにも欠かせないそうだ。マウンパやアノラックなど、防水アウターを着るときに注意したいのがインナーで、甲斐さん曰く、「春夏はシェルに素肌が触れると蒸れるから、インナーは半袖じゃなくロンTかシャツを着て、肌に触れさせないのが重要」なのだそう。

〈パタゴニア〉の「メンズ・トレントシェル・ジャケット」を手に取る甲斐さん。レインウェアとしてもハードシェルとしても使える。しかも畳めてかなり小さくなる。¥19,440
サンダル、パンツ、日焼け対策
シューズは、当日履いて行くトレッキングシューズとは別に、かさばらないスポーツサンダルを一足バックパックに入れておくと日中も快適に過ごせるとのこと。パンツも行きはレングス長めで、小さくたためるショーツを持って行くとどんな状況にも対応できそう。日よけや雨よけと髪型の乱れに配慮して、帽子も忘れずに。

アメリカのサンダルメーカー〈ベッドロック サンダルズ〉。ハイキングや川遊び用に開発されたモデル「ケルン」は素足と一体化するようなソールと着脱が簡単なストラップシステムがすごい。¥18,144

スポーツサンダルの大人気ブランド〈チャコ〉。中でもベストセラーな「Z1」モデルにグレイトフル・デッドとのコラボ版が限定登場。まさにフェスのための1足なり。¥18,360

こちらはちょっと変わり種。パンツやショーツの上からエプロンみたいに巻いて使うレインウェア。後ろで留めるとチャップスみたいになるので歩きやすい。1枚あると便利!〈アクシーズクイン〉の「ツユハラヒ」 ¥9,180

定番のメッシュキャップは選びにこだわりを持とう。アメリカ全土のトレイル(長距離自然遊歩道)の豊かな自然を守るために生まれた〈クラウントレイルズヘッドウェア〉のキャップ。売り上げの一部はNPOに寄付される。アウトドアで被るにはもってこい。¥4,860

ミリタリーテントに使われる生地をパラフィン加工(ロウを使った防水加工)した〈モニタリー〉のバケットハット。古き良きアメリカなムードで渋い。¥14,040
よし、服装はなんとなく見えてきたぞ。じゃあ、次は荷物で一番重要なバッグだ。
現地で機動力をあげる小物たち
「大きさも大事だけど、テントを持っていかない日帰りだったらそんなに容量は要らないよ。泊まりで行くなら、ある程度の大きさがあるバックパックの中に、現地で使うためにコンパクトなバッグを入れて行った方がいいと思う」。財布も同じように、普段使いより小さくて身につけやすいものに入れ替えておくと現地でストレスが少ないとのことだ。

メッセンジャーバッグのブランド〈クランク〉のホリーと甲斐さんが共同開発した新しいバッグブランド〈ザックパック〉。こちらはマルチカラーのウエストバッグ「44SLING」。雨具も入る程よい大きさで、会場内はこれで完璧。¥9,720

「3/C」シリーズのロングウォレット。軽くて丈夫なセイルクロスを使用。ナイロンコードを調整してたすき掛けできる。¥17,280

「バンブーシュート」と〈ポーター〉と「B印YOSHIDA」が共同開発した「3/C(スリーシー)」シリーズのミニウォレット。軽くて丈夫な撥水素材、パワーリップ・ボードセイルクロスを使って、手のひらサイズだけどお札もコインもカードも収納可能なデザイン。同じ素材でカバーした伸縮性あるウォレットコードをつければ完璧。甲斐さんも愛用中。ミニウォレット¥6,156 ウォレットコード ¥4,104
テントと寝袋のはなし
そして、気になるのが野営の拠点となるテント。モデルごとに収容人数が定められていて、連泊になるなら少し大きめを選びたい。
「作りとしては、真ん中に一本の支柱があるものより、骨組みがアーチ型に交差するタイプが自立するし安定するからオススメ」と甲斐さん。ピックアップしてくれたテントは、どれもアウトドアフリーク御用達のブランドたちだ。実際会場に行くと外遊び好きでなくても知っているような定番アウトドアブランドのテントが乱立しているが、あまりにカブるとなんだかちょっと気恥ずかしかったりする。それだけだったらまだいいが、自分のテントがどれだかわからなくなるなんて事態だけは避けたい。フェスで迷子なんて、考えるだけで身の毛がよ立つ。

高温多湿で雨が多い日本の気候に対応した〈ビッグアグネス〉の「フライクリーク UL1 EX」。こちらはスッキリ一人用。

重さはたったの1kgちょい!¥49,680
テント内では寝袋を使うことになるが、甲斐さんが「迷ったらコレを買っとけば間違いない」と太鼓判を押すのが〈モンベル〉のもの。
「なんで〈モンベル〉かっていうと、安いし耐寒性能が番号別で色違いになっててわかりやすいんだよね。グリーンの3番が標準で、数字が減るにつれ耐寒性が上がるんだけど、2番もあればフェスなら十分だよ」。

〈モンベル〉の「US ダウンハガー650 ♯3」
参照:モンベルオンラインストア
女の子と一緒に行くなら、黄色の2番を用意しておいた方が良いと甲斐さんは言う。その理由は?
「だって女の子が冷えたらかわいそうじゃんか」。

〈モンベル〉の「US ダウンハガー650 ♯2」
参照:モンベルオンラインストア
なるほど、もっともだ。そういう環境下だとよくわかるぞ、男の底が。女の子たちはその辺のことをめちゃくちゃ見てるし、フェスから帰ったら絶対友達に話すからな。気をつけろ。
その他便利なギアをズラリ
服装と野営についてわかったところで、最後に知っておきたいのが他の道具類。服に比べて、ここには本気っぽいギアもちらほら。
「ハイキング、縦走、クライミング等々、目的によって持って行く道具が全然違って、そういうものの中から選んでフェスに流用してくのが好きなんだよね」と甲斐さん。
並んだのは夜間に欠かせない照明や携行用の食器類など。どれもムダがないけど意外と洒落たデザインで、サッと取り出して使ってたら、かなりこなれて見えそうだ。むしろ、これ見よがしに使いたい。

〈ブラックダイヤモンド〉のランタン「アポロ」。その名が示すように、アポロが月面着陸したような形をしている。自立するし吊り下げにも対応。¥6,480

〈オリキャンプ〉の「スペースセーバーマグ」。取っ手が折りたたみ式で、〈ナルゲン〉広口1.0Lのボトル(¥1,998)がカップ内にピッタリ収まる設計になっている。その名の通り、収納する時のことを考えられているのだ。コップ代わりにも調理道具としても。¥2,700

フジロックには持っていけないけど、火がOKなフェスやキャンプに持っていきたい〈エスビット〉のポケットストーブ。ドイツ生まれなのも萌える(燃える)

本体をパカっと開いたらこの固形燃料をポンっと入れてあとは火をつけるだけ。

折りたたんでポケットにサクッと入るのにお米だって炊けちゃうのだ。¥1,188

(左)〈ザックパック〉の携帯灰皿。口がネジ式で、締めると火が消える安全な仕組み。「これはフジロックと朝霧JAMの会場だけで売ってるやつだから、現地調達で。なくなってたらゴメンね」。¥3,240 (右)〈ソト〉の「スライドガストーチ ST-480」雨の中でも火がつくガスライター。「細引きっていうコードで灰皿と一緒にまとめておくと失くさない。焚き火もこれで一発で火が着くよ」。¥1,890

立てかけてある姿もサマになるなぁ。

〈ヴァガボンド〉の「ヴァガボンドチェア」。「個人的に一番好きなイス。デカいんだけど、折りたたんで杖みたいにも使えるから気にならない。フジロックって歩く距離が長いからさ。たまには休みたいじゃない」。¥12,960
おわりに。甲斐さん的フェス観
必要な装備と備えの説明をおおむね終えたところで甲斐さんはこう呟く。
「持ち物は未だにフェスに行くたびに発見があるし、持ってったけど使わないものがあったりもする。でも、出発直前に持って行くものを悩んで選ぶのもフェスの醍醐味だから。何を持ってくとか、何が必要って言ってるときが一番楽しいんだよね。それにフジロックは長年続いてる分、現場で調達できるものも多いし、とりあえず行ってみたらなんとかなるよ」
そうだ、こなれて見せることばかりに気を取られてライブを、その準備を楽しむことを忘れちゃ本末転倒だ。甲斐さんは、「ゴリラズもビョークも見たいし、ロン・セックススミスもブルーハーブも見たい、あ、モンドグロッソと、小沢健二も聴いときたいな」とフジロックのタイムテーブルをしげしげと眺めながら話す。
「でも全部は見られないんだよね、会場で仕事しなくちゃいけないから……」。
ありがとう甲斐さん。甲斐さんの分まで、僕たちがフジロックを楽しむことにします。そうそう、甲斐さんはフィールドオブヘブンのTOKYO HEMP CONNECTIONのブースにいるそうなので、困ったら相談しに行ってみよう。
<プロフィール>
甲斐一彦(かい・かずひこ)
アウトドアシーンにもファンの多い中目黒のセレクトショップ「バンブーシュート」を主宰。10代で古着にハマり、ヴィンテージのアウトドアウェアを通して野外活動に興味を持つ。フェスに触れたきっかけは、積極的に屋外でのライブを行なっていたグレイトフルデッドやフィッシュといったバンドで、フジロックには場所が現在の苗場スキー場になった第3回目から高頻度で行っている。ここ最近は、フジロックに初期から出店しているトウキョウヘンプコネクションのブースでバンブーシュートとして参加中。
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