「シナリオが良いゲームを映像作品として観られたらいいのに。」
そんな思いを抱いた経験がないだろうか?
ぼくはある。でもそれはいつも叶わぬ願いだった。そのたびにぼくは、印象的なシーンの直前にセーブデータを作るため、2周目のプレイという冒険へ出かけた。マニアックな楽しみ方だとは思いつつも、やり場のない感動(と言ってしまえば月並みな表現だが)を反芻するべく再度冒険へと旅立ったのだ。
シナリオだけを満喫したい気持ちとは裏腹に、2周目でもゲームとしてのプレイを求められ、煩わしさを感じながらも、プレイヤーのために散りばめられたゲーム性の要素を“消化”していった。何度かセーブデータを取り逃しながらミッション・コンプリートに至ったぼくは、いつもこう思うのだ。
「シナリオが良いゲームを映像作品として観られたらいいのに。」
ゲーム映像作品化の歴史とギャップ
このように思っているのは、きっとぼくだけじゃない。たくさんのゲームフリークもまた、おなじように思ってきたはずだ。それは、ゲームをルーツとした映像作品が世に多くあることによって証明されている。
映画版ファイナルファンタジー(2001年)や、ファイナルファンタジーⅦアドベントチルドレン(2005年)の例が有名だろう。当時はファイナルファンタジーシリーズが全盛期とも言える時代だった。大きな話題を呼んだこれらのタイトル。観たことがあるというゲームフリークは少なくないのではないだろうか。
けれど、冒頭で述べた思いとこれらの取り組みは基本的につながっていない。なぜなら、ぼくたちが観たいのは、ゲームとしてシナリオが完結したタイトルの映像作品化なのだ。映画版ファイナルファンタジーや、ファイナルファンタジーⅦアドベントチルドレンのような新規シナリオの映像作品を観たかったわけではない。(とはいえ、心躍らされたのは間違いないのだけれど。)
2000年前後を境に、ゲームをルーツに持つタイトルの映像作品化はよく見られるようになった。その歴史と切っても切り離せないのが、アニメの文化だ。
最近では、人気ゲームタイトルがアニメ作品として復活するパターンも当たり前になり、そのアニメによってシリーズがさらに確固たる人気を獲得していくことも珍しくなくなった。以前このゲームコラムシリーズでも取り上げた『ペルソナ』シリーズは、その最たる例と言えるかもしれない。
しかししかし、これらもまた、冒頭の思いを正確に叶える取り組みではない。ぼくたちがゲームのシナリオに没入する理由には、完結までにかかる時間も大きく関わっているはずだ。
1クールのアニメが完結するまでにかかる時間は、5時間(25分×12回)ほど。クリアまで平均して30~40時間がかかるゲームプレイと比較して、この所要時間は決して長くはない。
この所要時間の短さには「コンテンツとしての敷居の低さ」というメリットがある一方で、シナリオ目線ではデメリットも存在している。かかる時間が短ければ短いほど、描ける心理描写や伏線の数には限界があるし、そのタイトルに対する受け手の思い入れもどうしても小さくなってしまうはずだ。ゲームタイトルのアニメ化が、「ぼくたちが没入したゲームのシナリオを正確に映像化したもの」であるとは言い難いだろう。
STEINS;GATE(シュタインズゲート)が見せる新しい時代のノベルゲームの形
ここからが本題。
実は最近になって、ゲームの映像作品化は新たなフェーズを迎えつつある。ノベルゲーム自体にアニメを取り込む動きがあるのだ。
ノベルゲームとは、用意されたシナリオに沿ってテキストを読み進めていくタイプのゲームの総称。文字通り小説を読むように進めるゲームを指すことばだ。(ノベルとは小説という意味)日本ではアドベンチャーゲームと呼ばれることもある。
ゲーム内には登場する主要キャラクターごとにそれぞれシナリオがあり、アニメーションや一枚絵(CGやスチルと呼ばれる)などによって各ルートが演出されていく。シナリオを読み進める以外に、これらのシーンリプレイや一枚絵を収集していくことも、ゲームとしてのお楽しみ要素だ。
過去を振り返ると、2000年ごろにも全編アニメーションによってノベルゲームを開発する動きはあった。がしかし、先進的すぎたため時代に合わなかったこと、アニメーションを作るためのコストがかかりすぎてしまい採算が合わなかったこと、などを理由に衰退してしまった背景がある。
なぜそれから20年も経ち、またおなじような動きが見られるようになったのだろうか。そこには、2000年以後盛んになった人気ゲームアニメ化の取り組みが大きく関わっている。
2009年にXbox 360で発売され、そのシナリオの完成度から一躍人気タイトルとなったノベルゲーム『STEINS;GATE』。スピンオフ作品はもちろん、舞台化、パチスロ化といったメディアミックスにより、現在でも人気が衰えないタイトルだ。2011年には初のテレビアニメ化も果たし、大きな成功をおさめた。2019年までにさまざまなプラットフォームで原作のリメイクも発表されている。
2018年、この『STEINS;GATE』シリーズから最新作『STEINS;GATE ELITE』が発表された。これは全編フルアニメーションによってリメイクされた新しい時代の『STEINS;GATE』だ。
シリーズの企画・原案を務める志倉千代丸によると、従来型であるテキスト形式のノベルゲームを、時代に合わせて進化させる狙いがあったとのこと。2011年公開のテレビアニメから素材を流用する形で『STEINS;GATE ELITE』の開発はおこなわれた。発売元である5pb.は今後、おなじようにアニメ素材を活用する形でのコンテンツ制作を検討しているそうだ。下の動画は、原作である『STEINS;GATE』と、最新作『STEINS;GATE ELITE』の違いを比較したものである。
このように『STEINS;GATE ELITE』では、2000年当時のノベルゲーム・フルアニメーション化の失敗を、アニメから素材流用する形で解決している。ゲームフリークが思い描いてきた「ゲームの映像作品化」にはまだまだ及ばない部分があるが、現実的になってきたことは間違いないだろう。
もちろん『STEINS;GATE』のように大成功をおさめているシリーズだからこそできるチャレンジではある。原作ゲームがアニメ化されなければ、おなじようなプロセスでのリメイクは難しい。とはいえ、裏を返せばアニメ化が済んでいるタイトルには可能性が出てきたとも言えるだろう。近い将来、素晴らしいシナリオで描かれた過去のタイトルを、ひとつの映像作品として楽しめる時代が来るのかもしれない。
ぼくの心にはぜひ映像作品として観たいゲームタイトルがひとつだけある。ゲームの魅力に取り憑かれた、ぼく以外のすべてのゲームフリークにもまた、心に決めたタイトルがあるだろう。それらが実際に映像作品化されるかどうかはわからない。けれど、「もしかしたら映像作品化されるかもしれない」という気持ちだけで、またゲームと一緒に生きていこうと思えるものだ。
ぼくは『STEINS;GATE』のこのチャレンジを、ひとりのゲームフリークとして応援したい。
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