『NieR』とカルチャーの結びつき
ここまではあえて触れてこなかったが、ニーアシリーズを語る上で絶対に外せないことがある。それはカルチャーとの結びつきだ。
ニーアシリーズには作品の根幹を担うクリエイターが少なくとも2人いる。ひとりはディレクターのヨコオタロウ氏、そしてもうひとりがコンポーザーの岡部啓一氏だ。ニーアシリーズ独特の世界観は彼ら2人によって支えられていると言っても過言ではない。
実際に「ニーアゲシュタルト/レプリカント」と「ニーアオートマタ」では彼ら2人以外の大部分のスタッフが変更になっている。しかし、やはりそこにあるのは紛れもないニーアシリーズなのだ。言わば金字塔になった1作目と遜色のない2作目がそこにはある。
映画界隈を見ていてもわかるが、1作目の素晴らしさに引きずられ期待値が高まれば高まるほど、続編にがっかりしてしまうことは多いものだ。2作連続の成功によってニーアシリーズを名作RPGの域に仕立て上げたのは、ヨコオタロウ氏のバランス感覚あってこそのものだろう。ニーアシリーズが即物的なエンターテイメント作品の面だけでなく、アートとしてのゲーム作品の価値を持っていることは疑いようがない事実だ。
そして、岡部啓一氏の音楽もまた、ニーアシリーズという作品を超え、ひとつのアートとして認められつつある。
2017年3月29日に発売された「ニーアオートマタ」のオリジナルサウンドトラックは、CDが売れない時代にあって初動4万枚を記録。ゲームのサウンドトラックとして、あまり類を見ない初動枚数となった。ぼくの周囲には「ゲームは未プレイだけど、サントラは買う」という人間までいたほどである。
この数字からは、1作目から続く岡部啓一氏の音楽への高い評価が窺えるだろう。それは第1作「ニーアゲシュタルト/レプリカント」のサウンドトラックにも感じ入ることができる。
「ニーアゲシュタルト/レプリカント」のサウンドトラックは、コンセプトやアレンジを変えて複数発表されている。予定調和的に発売される1種類のサウンドトラック発売は、ゲーム業界でもよく見かけるが、このように数え切れない種類のサウンドトラックが発売されることは極めて異例だ。
また、2018年9月17日にはニーアシリーズの音楽を集めたオーケストラコンサートも開催された。ゲームの一部としての音楽を離れ、ひとりでに広がっていく岡部啓一氏の音楽は、もはやアートの領域だと言えるのではないだろうか。
これらを踏まえて、母体としての「ニーアシリーズ」は、既にひとつのカルチャーなのだと思う。上で紹介したゲーム作品としてのアート性、音楽のアート性のほかにも、ビジュアルブックの発行や、舞台化など、ニーアシリーズの周囲にアートと関連する話題は多い。サブカルチャーまで含めれば、数え切れないほどだろう。
ヨコオタロウ氏のバランス感覚、岡部啓一氏の音楽、さらに開発・制作にかかわる多くのスタッフによって作り上げられる「ニーアシリーズ」の新作が、今から楽しみで仕方ない。ニーアシリーズはいったいどんな未来をぼくたちに見せてくれるのだろうか。
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