移植版モンスターファームがリリース。同作は止まっていた歴史を動かすことができるか。
2019年末、20年以上の時を超えて復活した名作タイトル「モンスターファーム」。今回のゲームコラムでは、「モンスターファームとはどんなゲームなのか」ということを踏まえ、同タイトルの特徴ともなっているゲームシステムを考えていく。
面白いゲームに必要なのは、映像美や凝った演出ではない。
そう教えてくれるタイトルが現代に復活した。
モンスターファームとは?
モンスターファームは、1997年にテクモ(現コーエーテクモゲームス)から発売されたPlayStation用ゲームタイトル。たまごっちやデジタルモンスターなど、育成シミュレーションが全盛だった時代に生まれた、ゲーム史に名を残す傑作だ。プレイヤーはブリーダーとなり、モンスターを育成しながら四大大会での優勝を目指す。4つすべてに優勝しブリーダーとして名人位を獲得すると、ストーリークリア。エンディングを迎えるという設計だ。
同タイトルは、育成するモンスターをCDから入手するという特徴的なゲームシステムを持つ。CDをPlayStationのディスクトレイにセットし、読み込ませると、応じたモンスターが誕生する仕組みとなっている。当時流行していた育成シミュレーションゲームのなかでも珍しかったこのゲームシステムは、インターネットがまだ普及していない時代に口コミで評判となり、新規タイトルながら70万本以上(1999年時点)のヒットを記録した。その頃に思春期を過ごしたゲームフリークなら、誰もがプレイしたのではないだろうか。現代のソフトのような作り込まれた映像・演出などはなかったが、古き良きゲームカルチャーを感じさせる遊び心重視の人気作だった。
1999年には前作の好評を受け、モンスターファーム2が発売に。1の良い部分は踏襲しつつ、育成やバトルに深みをもたせた同タイトルは、20年以上が経った現在も名作に数えられるソフトとなっている。1,2の成功で一躍人気シリーズとなったモンスターファームだったが、その後はナンバリングやスピンオフなど、数々のタイトルが不発に。2009年以降、シリーズ作品は発表されなくなり、“過去の名作シリーズ”となってしまった。
2019年末には移植版がリリース
2019年末、そんなモンスターファームシリーズから、1の移植版がリリースされた。対象プラットフォームはiOS、Android、Nintendo Switchで、価格は1960円(税込)。このニュースに胸を躍らせた人も多かったはずだ。
この移植版では、一部アイテムに対する調整など、ゲームデザインやシステムにも多少の変更が加えられた。ロード時間の短縮(PlayStation用タイトルだった原作では設計上長くならざるを得なかった)やオートセーブへの対応は、現代のトレンドに対する適応と言えるだろう。なかでも特筆すべきは、「CDからモンスターを誕生させる」という根幹システムへの変更で、移植版ではデータベースからCDのデータを検索するシステムとなった。原作とは違い、プレイヤーが所持していないCDからもモンスターを生み出せる仕様となっている。賛否両論わかれるが、こちらも現代への適応と言えるのではないだろうか。
「バーコードバトラー」から続く“キャラクター具現化システム”の系譜
CDからモンスターを誕生させるシステムが注目されたモンスターファームだが、実は以前にもモノからキャラクターを誕生させて対戦するゲームがあった。1991年にエポック社から発売されたバーコードバトラーだ。同ゲーム機では、バーコードを本体に読み取らせることでキャラクターを具現化。誕生させたキャラクター同士でコンピュータとのバトルはもちろん、オフラインで対戦もできた。CDとバーコードの違いはあれ、「モノからキャラクターを誕生させる」というゲームシステムは、モンスターファームに通ずるものだ。
バーコードバトラーでは、公式が販売するバーコード付きカードのほか、市販の商品に付くバーコードも使用することができた。そのため、プレイヤーはより強いバーコードを探してさまざまな商品を物色したものだ。やがてバーコードのみが店頭の商品から切り取られたり、強いキャラクターが生まれるバーコードを大人が子どもに高額で売りつけたりと、社会問題も起こった。決して褒められる行いではないが、いま振り返ればそれも一種のカルチャームーヴメントだったのかもしれない。
その後も同様のシステムを持つゲーム機やソフトが、さまざまなメーカーから発売された。バーコードバトラーと同じく、バーコードから誕生させるもの。モンスターファームと同じく、CDやDVDから誕生させるもの。なかにはプレイヤーが表現した音や絵をキャラクターとして具現化するゲームもあった。しかし、現在に名を残すのは、バーコードバトラーとモンスターファームを含めたいくつかの作品のみだ。こうした観点からもゲームカルチャーにおけるモンスターファームというタイトルの意義や価値を感じ取ることができるだろう。
モノカルチャーとデータカルチャー。MF移植版が照らす分かれ道
【ホリィ】:#モンスターファーム を楽しんでいただきありがとうございます!
大切なうちの子の引退は何度経験してもさびしいです・・・#MFうちの子自慢 のキャンペーンは終わっちゃったけど
これからもみんなのうちの子をツイートしてねhttps://t.co/0WY5JXJmLl— モンスターファーム【公式】 (@MonsterFarm_KT) January 14, 2020
近年では、音楽や映画、マンガ、アニメ、書籍など、カルチャーに分類されるものを、ストリーミングやダウンロードで享受することが当たり前となってきている。たとえば音楽を聴くためにCDを購入する人は、かなり希少価値となっているはずだ。100歩譲ってこの時代の流れは仕方ない。けれど、1997年、モンスターファーム発売当時にゲームフリークがワクワクした同タイトルのシステムは、データベース検索に置き換わっていいものだっただろうか。
原作版モンスターファームでは、持っているCDから生まれたモンスターだからこそ、彼らに愛着が生まれ、愛情をもって育てることができた。モンスターが寿命を迎え失われるときには、その愛着ゆえに胸の詰まる想いをしたプレイヤーも少なからずいたはずだ。データベース検索になったからと言って、こうした感情のすべてが失われるとは思わないが、イコールかと言われれば、そうではないように感じている。移植版をきっかけにしてモンスターファームを知り、好感を持ったプレイヤーは、ぜひ原作版にも触れて欲しい。なぜその作品は名作と呼ばれるのか。秘密は原作版にこそ隠れているのだ。
その一方で、今後、モンスターファーム2が移植される可能性もあるだろう。先にも述べたように、同作は初作を超える評価を獲得している。シリーズのファンの1人として、この移植を楽しみに待ちたい。2009年以降止まっていたモンスターファームシリーズの歴史が、いま動き出そうとしている。
モンスターファーム
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