――いきなり情報量がすごいですね。しかもたった1ページで。
福永(浩) : エドとアルの2人の旅の目的は賢者の石を探すこと。賢者の石は、等価交換の原則を無視した錬成を可能にします。彼らは賢者の石を使って自分たちの身体を取り戻そうとするんですね。ただ、わりと早い段階で賢者の石の正体が明かされるんですが、それが結構重いんですよ。
――重い?
福永(浩) : 実は賢者の石は、大勢の生きた人間を使って錬成したものだったんです。だったら、それを使って自分たちが身体を戻すのは正しいことなんだろうか? そういう葛藤が生まれるんですね。あるいは、旅の中で出会うホムンクルス(人造人間)。こいつらは、自分たちが暮らしている国の人間を錬成人にして、国全体を使って超凶悪な賢者の石をつくろうと目論んでいたんですね。それを早い段階で気付いたヒューズというキャラクターがいるんですけど……。
福永(誠) : ヒューズのくだりは……。
福永(浩)、福永(誠) : (2人とも思い出して悶絶する)
――なんか、2人とも動きが似てますね(笑)。
福永(浩) : ヒューズ、すぐ死ぬんですよ。
福永(誠) : でもヒューズって、2巻分しか濃く出てきてないんですよ。3巻で初めて登場して、4巻で死んでしまう。なのにこれが強烈に印象に残るんです。
裏テーマは「家族」
福永(浩) : 『鋼の錬金術師』って、本当に愛おしいキャラばっかりだよね。マコは誰が好き?
福永(誠) : 俺は、一周回ってやっぱりエドかな。
福永(浩) : ……ジャンプの人気投票で主人公が1位になるのは君みたいな人がいるからなんだね。
福永(誠) : でもノックス先生とか好きだよ?
福永(浩) : ノックス先生! いいね! 昔の戦争で人体実験に関わっていた鑑定医ね。彼はその時の罪を背負っているから幸せに暮らすことに抵抗感を抱いているんですね。そうして精神的に参ってしまって、奥さんも子供を連れて出て行ってしまう。でもいろいろあった末、奥さんが家に成人した息子を連れてくるシーンがあるんです。その時に、息子に医者を目指していることを伝えられて。
福永(誠) : しかもその後のシーンで家の中の食器棚が映されるんですけど、コップが3つ残ってるんですよね。
福永(浩) : それ! めちゃくちゃいいとこ!!
福永(誠) : あれは家族ともう一回一緒にコーヒーを飲めれば、と思って残してるんだよね。
福永(浩) : それから言うセリフが「こんな俺でもよぉ…家族とコーヒー飲むくらいの幸せは願っていいよな…?」。
福永(誠) : 泣ける……。
――これが今回の推しシーンですか?
福永(浩)&(誠) : これ「も」!!
――「も」(笑)。
福永(浩) : 脇キャラのサブストーリーなんですけどめちゃくちゃ良いんですよ。女性の作者にしか書けないこうした繊細さがこの作品にはすごく現れていると感じます。でも、エドもいいよね。
福永(誠) : エドは本当に強い心を持ってる。
福永(浩) : 風呂敷を広げてちゃんと畳んだ漫画って少ないと思うんですけど、『鋼の錬金術師』は本当に綺麗に終わっていると僕は思うんです。エドは戦い方は、両手を1回合わせてから錬成を行います。でも「お父様」と呼ばれるラスボスとの戦いで右腕を破壊されて、戦えなくなってしまう。それでどうしたか? 弟のアルが、自分の魂を代償に、エドの腕を復活させるんです。
――冒頭のシーン(エドは自分の右腕を代償にアルの魂を復活させる)と対になっているんですね、10年越しに。しかし、自分の魂を代償にしてしまえば、アルは死んでしまう。
福永(浩) : さらに、アルが死んでエドの腕が復活し、そうしてラスボスに勝つ。このシーンの決めセリフは、第1巻で最初の敵に言ったセリフと同じなんです。ここでみんな「ウワァーイ!」ってなる。
福永(誠) : 福ちゃんも完全にエド好きでしょ(笑)。
福永(浩) : 好きか(笑)。そしてラスボスを倒した後、エドは最後の錬成に行くんです。何のために? アルを取り戻すために。でも、何を代償にするのか? 何だと思います?
――うーん、何だろう。
福永(浩) : 自分の錬金術を代償にするんですよ。ここで僕はハッとさせられました。これで弟が生き返るんですね。
――ということは、お母さんは生き返らない?
福永(浩) : そうなんです。この物語では基本的に、死んだ人は残念ながら生き返らない。
――少年漫画とはいえ、確かに重いテーマが込められていますね。
福永(浩) : エドは、母と自分たちを置いて去ってしまった父を父として認めていませんでした。でも物語を通して父が去った理由が明らかになっていく。「お父様」を倒した後は、それまで三つ編みだったエドの髪型が父と同じポニーテールになっているんです。こういうさりげない細部でテーマを語っているところが最高なんですよね。あとあと、ヒロインのウィンリィ・ロックベルと再会するシーン!! 「おかえりなさい」というウィンリィの言葉、これは僕らが10年間待ち続けた「おかえりなさい」なんですよ!!
――そういう側面を見ると、『鋼の錬金術師』は家族がテーマの作品だと言えそうですね。
福永(浩) : そうですね。作者自身も連載中に子供を3人産んでいるらしいんです。しかもその間、連載を止めていない。描きながら産んだという。すごすぎる。
SHARE
Written by