こんにちは、雨のパレードのボーカル、福永浩平(ふくなが・こうへい)です。「漫画deトランス」も第4回目となりました。今回は、雷句誠さんの『金色のガッシュ!!』について語らせていただきます!
あらすじ
天才ゆえに孤独な中学生高嶺清麿のもとに突然現れた魔物の子供ガッシュ。世界中に送り込まれた百人の魔物と闘い、魔界の王の座をめざすというガッシュは、清麿の読む魔本の言葉をうけて、襲いかかるライバルの魔物たちと闘っていきます。その闘いのなかで、やさしい王様になることを決意するのでした。
清麿もガッシュのピュアな気持ちに触れ、それまでの孤独な生活から一転、いろいろな経験をつんで精神的成長をとげてゆきます。
(東映アニメーション『金色のガッシュ!!』より抜粋)
『金色のガッシュ!!』との出会い
ガッシュは『週刊少年サンデー』で連載されていました。僕がサンデーに興味を持ったきっかけも、この漫画でしたね。小学校三年生の時でした。この時期は『名探偵コナン』はもちろん、『結界師』や『犬夜叉』、『MÄR』など素晴らしい漫画がたくさん連載されていましたよね。
少年時代に出会う少年漫画ってやっぱり特別だなぁと思うんですけど、僕にも数冊そういう作品があって、そのなかのひとつが『ガッシュ』なんです。ずっと連載で追っていて、コミックスも集めていました。
一言で言うのならば「号泣できる漫画」です!
今回、ガッシュを語ることに決めてから、久しぶりに全巻読み返したんですけど、一人でベットの上で「うううう……」って声出して泣きました(笑)。
最近、いちばん泣いたのは間違いなくこの時ですね。読んだことある人は共感してくれると思うのですが、めちゃくちゃ泣けるシーンが多い漫画なんですよね……。
“100回泣ける”設定の面白さと、振り切ったギャグセンス
少年漫画の良し悪しを考える上で僕には個人的な物差しがあって、それは「心から笑えて、心から泣ける」というものです。『ガッシュ』にはまさにそういうシーンが盛りだくさん。
まず、設定がマジで面白いんです。魔界から来た100人の魔物の子供は、人間のパートナーを見つけ、ともに闘い、負けてしまうと魔界に帰らされます。それが人間と魔物の子供との今生の別れになります。せっかく心を通わせてきたパートナーとの別れが100体分描かれるんですよ。これは「キャラクターの死」に、ほぼ等しい。それを100回描けるという点に、まずは設定の素晴らしさが現れていると思います。そりゃあ、泣きどころも多くなりますよね。
そんなめちゃめちゃ泣ける設定なのに、雷句さんはギャグの振り切り方がいい意味で「異常」というか、すごく大胆な描き方をするんです。もう第1話のスタートからおかしい(笑)。
主人公の清麿(きよまろ)は頭が良すぎてあまり学校に行かず、友達もいません。そんな清麿の前に初めてガッシュが現れるシーン。どうやって登場すると思います?
正解は……
「全裸で背中にブリを背負いながら、オオワシに捕まってヨーロッパから飛んで来る」
です。
パンチありすぎじゃないですか(笑)?
なぜヨーロッパから来たかというと、ガッシュはイギリスにいる清麿のお父さんに頼まれて、清麿を更生させるために日本に来たんです。
ガッシュは「魔本」と呼ばれる本を持っていて、清麿がその本を読むと、ガッシュの口から電撃が発せられます。第1話は清麿が偶然その呪文を使ってしまい、学校の屋上がぶっ飛んで終わります(笑)。この時点ではガッシュも清麿も、呪文や魔本のこと、魔物の闘いについて何も知りません。ガッシュはある理由によって記憶を消されているんですね。
この作品は、「邂逅編」「石版編」「ファウード編」「クリア・ノート編」の4部作で構成されています。そのどれもに泣ける話と笑える話がありますが、なかでも「ファウード編」のロデュウという翼を持つ長身長髪の魔物との闘いは印象的でした。
ちょっとネタバレだけど、この闘いで、清麿は一度ボロボロにやられて死にかけるんです。でも復活する。覚醒した清麿は新しい技を覚えていて、それまで使っていた技もかなり強化されます。それまで苦戦していたのが嘘のようにロデュウを圧倒するんですが、そのやり方がかなり印象的なんです。「ザケル」という最初に覚えた初歩的な技を、拷問のように連発するんですね。これが、本当に、マジで腹よじれるくらい笑える腹筋崩壊シーンなんです(笑)。
これを大胆に何ページも使って描かれることもじわじわ面白くて。というのも、漫画の原稿料って1ページごとの換算らしいんですけど、めちゃくちゃ泣かせるページを描きながら、かたや2行で終わるようなことを1回の連載全部使って描いたりする。ロデュウをボコボコにするシーンとその他の泣けるシーンが同じ原稿料だと考えると、なんかそれも面白い。メリハリがものすごくあるんですね。
福永的推しキャラ:ヴィンセント・バリー
今回の僕の推しキャラは、「ヴィンセント・バリー」という魔物。単行本だと10巻で登場します。ある程度いろんな魔物を倒して実力もついてきた頃に出会う強力な壁ですね。
初登場時のバリーはチンピラみたいなキャラでした。ただひたすら自分の強さだけを求め、敵を倒しても倒しても満たされず、常に苛立っていて、より強い相手を求めてガッシュに会いに日本にやって来ます。そうして戦いを挑む。戦いは終始バリーがリードしますが、「やさしい王様になる」というガッシュの強い志と強い目を前にして、バリーの拳が止まってしまうんです。圧倒的に自分の方が強いはずなのに、ガッシュを殴れなくなってしまう。
バリーのパートナーはグスタフという渋くて寡黙なおじさんなんですが、このグスタフがまた良いキャラなんですよね! 戦いを通じていろいろなことをバリーに教えてくれるキャラクターなんです。
この連載を始めてから、自分が渋いおじさんを好みがちだということがわかってきた気がする……(笑)。
グスタフは、ガッシュの志の強さの前に怯えるバリーに対して「目の前の敵をただ倒していけばよい…そんなチンピラ同然の考えしかもたんおまえに、この者の志ある目は殴れんよ」と諭します。そしてこの戦いを一度無しにして次の再会を誓います。バリーはこの時、どんな力にも屈しない「強き王」になることを心に決めます。チンピラ同然だったバリーに目標ができるわけです。
(※以下、ネタバレを含むので、読了後の方のみお読みください)
そして数年後、第238話。「無敵の子」と呼ばれたキースという相手とガッシュが闘う場面で、バリーはガッシュを助けに現れます。その強さ、カッコ良さたるや……。しかしキースが捨て身で仕掛けた罠により危機に陥るガッシュたち。ここでガッシュは自ら盾となって仲間を逃し、「やさしい王様になる」という自分の夢をバリーに託そうとします(やはりガッシュは王たる風格と威厳を持っていますね)。
その姿を見てバリーは、あえて自分がガッシュの代わりに自分が犠牲になることを選ぶんです。ここからの展開が本当に良いんですよね。
バリーのまさかの行動に驚いてなかなか逃げないガッシュを、バリーは殴ります。「早く行きやがれ」と。「ここでグズグズしてたら本当に殴り殺すぞ。もう俺に殴れねえもんはねえんだよ」。そうしてガッシュたちは先に行き、バリーはキースに敗れて魔界に帰ることになります。
この時に、これまで寡黙だったグスタフが、泣きながらバリーにかける言葉がまた良いんです!!
「お前は王にはなれなかった。だが、お前は王をも殴れる男になったぞ。王を殴れるんだ。でかく、いい男になったじゃねえか」
それまで笑いも泣きもしなかったバリーが、ここで初めて泣きながら笑う。
これですよ!! こうやって“成長して別れていく”という。ここにこの作品の素晴らしさが詰まっています。
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