終わって欲しくないから、読まなかったマンガ
実は、ジャンプで連載が始まった当初は、しばらく読まないでおいたんです。というのも、僕が好きになって応援した漫画の多くが打ち切りになってしまったという過去があるから……(笑)。
たとえば『黒子のバスケ』が始まった時、同時に『フープメン』というバスケ漫画も連載を始めていて、これがすごく面白かったんです。主人公はバスケが下手で、なかなか上手くなれない。少年漫画にありがちなわかりやすい派手さがなくて、それが良かった。めちゃくちゃ良い漫画だと思って応援していのに、派手さのある『黒子のバスケ』と比較されてしまったのでしょうか。
『黒子のバスケ』って、女性のファンがつきやすいんですよ。これはすごく重要なポイントで、『バクマン。』で学んだところによれば、ジャンプってアンケート制なんだそうです。でも男の子はあまりアンケートを書いて送らない。女性は、送るんですよね。だからジャンプのシステムとしては、女性ファンを抱えられる漫画は強い。結果、『フープメン』は2009年14号から31号までで連載を切られてしまった。コミックスだと全2巻、17話です。
あるいは今『ブラッククローバー』という漫画が連載されていますが、作者の田畠裕基(たばた・ゆうき)さんがひとつ前に描いていた『HUNGRY JOKER』という作品があって、それも僕はすごく好きだったんです。絵がものすごく魅力的で、話もめっちゃ面白かった。でも『HUNGRY JOKER』が連載されていた時期は、ちょうど『進撃の巨人』が別冊少年マガジンで大ブレイクしていた頃。「いきなりとんでもない絶望的な状況に陥り、とんでもない展開が続く」という漫画が推されていた時期です。おそらく当時の漫画業界は、『進撃の巨人』のようなヒット作を出そうとしてこのフォーマットを意識していたんじゃないかな。そして、多くの作品は『進撃の巨人』のようにいくことはなかった。
このように、たまたまかも知れないけど、僕が好きになった連載作品が、打ち切られてしまうことが続いたせいで「俺みたいな奴が応援しない方がジャンプは育っていくんじゃないか」と思うようになり、新連載を避けていた時期がありました(笑)。だから『鬼滅の刃』もしばらく手をつけていなかったんです。
でも、やっぱり良い作品は、周りの漫画好きたちが放っておかない。みんなが話題にするようになったり、「『鬼滅の刃』めちゃくちゃ面白いし、もしかしたらもうすぐ終わるかも」と言っていて。その時点でコミックスは10数巻しか出ていないのにですよ?
それで、まずはアニメの方をNetflixで観てみました。
……もう、最高でした。アクションシーンで泣けるんです。カット割りのうまさ、驚くほど映画寄りのアクション表現。思わずテレビ画面を動画で撮ってしまうほどでした。そうしてようやく、漫画も読むようになりました。
『鬼滅の刃』は、最高のテンポ感で、めちゃくちゃ良い展開をしていきます。コミックス最新刊は17巻。素晴らしいテンポでどんどん進んでいて、『ONE PIECE』のスピード感に慣れている僕にしてみれば、信じられないくらいの怒涛の展開になっています。
『鬼滅の刃』に描かれる「死」がすごい
『鬼滅の刃』の魅力を短い言葉で語るのは本当に難しいけど、大きな魅力のひとつは、死があること。
『ONE PIECE』は「キャラクターを殺さない」ことで有名だけど、『鬼滅の刃』は逆で、キャラクターを殺すことでキャラクターを大事にしているところがあると思うんです。
すべての登場人物にそれぞれ濃密なエピソードがあります。『鬼滅の刃』にはモブキャラが存在しない。全員が魅力的で、僕たち読者はすべてのキャラクターに感情移入してしまいます。味方はもちろんのこと、敵である鬼たちのエピソードも丁寧に描かれ、鬼の視点までしっかり入っています。そもそもすべての鬼は人間だったんです。彼らがなぜ鬼になってしまったのか、その理由が簡潔に丁寧に描かれる。そこに説得力があるんです。だから感情移入してしまう。
それでいて、重要なキャラクターがわりと早い段階で死んでしまう。しかも意外なタイミングで、時にはグロテスクとも思えるような描写で。これは、ジャンプで連載される漫画としては新しいことだと思います。
それでいて少年漫画の王道のツボはすべておさえている。王道でありつつ死がしっかり描かれていること、それが『鬼滅の刃』の素晴らしさのひとつです。
さらにいえば、主人公の魅力が強いことも長所のひとつです。登場人物たちの魅力が強すぎる場合、往々にして、主人公の影が薄くなってしまいますよね。実際にそうなってしまった漫画もありました。でも『鬼滅の刃』は、やっぱり主人公の炭治郎がいちばんカッコ良いんです。この漫画の主人公は物凄くまっすぐで、常に努力していて、男気がある。
強い漫画は、僕たちに笑いと涙とカッコ良い生き様を見せてくれます。『鬼滅の刃』にはそれらすべてが詰まっている。最高の漫画ですよ!
福永的、『鬼滅の刃』推しシーン(※ここから先、ややネタバレを含みます)
【1. 無限列車編・煉獄杏寿郎のエピソード(8巻)】
おすすめのシーンを選ぶのはほとんど不可能に近いけれど(全部おすすめなので)、あえて3つ選ぶとしたら、まずは、今度劇場化される「無限列車編」。コミックスでいうと7巻と8巻です。
これはね……もう思い出すだけで泣きそうになる(涙目)。特に泣けるのは8巻。これは本当に、みんな読んだら表紙見ただけで泣けると思います。
連載漫画で魅力的な新キャラが一気に出てくるタイミングは、読者にとってはパーティーのようなもの。『ONE PIECE』でいえば、ルフィと同格とされる「最悪の世代」が出てくるあたり。「ええーっ! ルフィと同じくらいカッコ良い奴らがこんなに出てくるの!?」って感じでテンションあがりまくり。『鬼滅の刃』ではそれが6巻にあたります。鬼殺隊を支える最上級隊士である「柱」と呼ばれるキャラクターたち(『BLEACH』でいうところの護廷十三隊の隊長みたいなもの)がバーっと出てくるんです。そのひとり目に出てきた煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう)がね……。
もうこの先はネタバレなしに語ることはできないんだけど……この人に関係する展開がマジで意外すぎて、驚きの連続なんです。素晴らしい話の組み立て方で、読む人すべてを泣かせてしまう。
おそらくほとんどの読者が、この8巻を『鬼滅の刃』中盤のピークだと思ってるんじゃないでしょうか。ボロボロ泣ける、たまらないシーンです。煉獄さんの家族の話とかね……。セリフもめちゃくちゃ良いです。
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