時代に合わせて変化するファイアーエムブレムのシステム
FEの基本システムは、ここ30年変わっていない。ユニットを移動させて、敵にぶつけ、倒す。それだけだ。登場する武器の種類や名前も、「鉄の○○」「鋼の○○」「銀の○○」「ファイアー」「サンダー」「ライブ」と変わらず、武器・ユニット間にある強弱関係(剣は斧に、斧は槍に、槍は剣に強い。また、重装ユニットは物理攻撃に強い反面、魔法を弱点とし、飛行ユニットは移動力に秀でる反面、弓を弱点とする)も変わらない。
そのようなタイトルがなぜ発売から30年経って、なお売れ続けていると言うのか。発売当時、小中学生だった子どもたちは、もうすっかりアラフォーだというのに。その答えは、変わらない根幹システムではなく、時代に合わせて部分的なリファインを続けてきた箇所にある。
2019年の今は、アクションやアドベンチャーが全盛と言える時代だ。人気タイトルとなれば、リアルタイムアクションのタイトルがズラリと並び、トレンドはバトルロイヤル(大人数のプレイヤーがオンラインを介して対戦するアクション系のゲームジャンル)となりつつある。RPGのジャンルでも、かつてゲーム業界を席巻したようなシンプルなつくりのタイトルはあまり見られず、アクション要素のあるものが主流となってきた。また、しばらくPCを主戦場にしてきたアドベンチャーゲーム(ノベルゲーム、あらかじめ用意されたシナリオに添ってテキストを読み進めるタイプのゲームジャンル)は、ここ最近になってPS4などでも多くリリースされるようになり、名作と呼ばれるタイトルが家庭用ハードで復刻するケースも増えてきている。
そんな時流を踏まえてか、FEシリーズにもアドベンチャーの要素を取り込む動きがある。この点が、同シリーズがリファインを続けてきた箇所だ。思い返せば「紋章の謎」で誕生した支援効果、「聖戦の系譜」に実装された恋愛システムは、アドベンチャーとの親和性が高い。もともとシミュレーションRPGが持つキャラゲー(魅力的なキャラを作品内に登場させ、容姿や性格、バックボーンなど、そのキャラの個性を前面に出して訴求する類のゲーム)的な要素も同様である。
FEシリーズでは、「覚醒」以降、恋愛や結婚をシステムに取り入れたタイトルが続く。「聖戦の系譜」のとき、一部のキャラ間でしか築けなかった関係は、異性を中心にほぼすべてのキャラにまで開放された。支援レベル(ゲーム内でキャラ間の親交度をあらわすパラメータ)ごとに見られる会話イベントは、近年のFEシリーズにおける重要なやりこみ要素ともなっている。
また、時代に合わせて難易度周りも調整されている。第1作からしばらくはFCやSFCでのリリースが続き、タイトル自体もおそらくコアなゲームフリークに向けて作られていた。しかし、94年のPS発売を機に潮目が変わり、任天堂ハードは「ファミリー向けハード」という立ち位置へと変わっている。大人になって家庭を持ち、ゲームをする時間が減ってしまった当時のプレイヤーや、このシリーズの詳細を知らずに手にした子どもたちにとって、初期の難易度は難しすぎると判断したのだろう。「封印の剣」以降は、複数の難易度が選べる仕様となっている。
シリーズ最高難易度「ファイアーエムブレム トラキア776」のOP
最新作の「風花雪月」では、根本的に敵の強さが変わる「ノーマル」「ハード」の2種に加え、死んでしまったユニットがマップクリア後、蘇生するか消失するかを分ける「カジュアル」「クラシック」(死んだユニットが消失することも発売当時の高難易度の要因だった)も存在する。ノーマル×カジュアルやハード×クラシックなど、4通りの難易度が選択できる仕組みだ。昔ながらのFEを楽しみたいプレイヤーは、ハード×クラシックにして遊んでいるようで、あえて本来のデフォルトより簡単なモードを「ノーマル」とする点からは、時代に合わせてきた制作陣の優しさも垣間見える。奇しくもシリーズ史上最高の難しさを持つタイトルは、難易度選択システム採用直前の「トラキア776」となっている。
ファイアーエムブレムが教えてくれた「80%は信用するな」
実は、FEの戦闘には攻撃の空振りがある。空振りすれば一方的に敵の攻撃を受けることになり、当然ピンチに直結する。時にはユニットが死に至ることもあるだろう。死んだらユニットが消失するゲームシステムにもかかわらず、FEの戦闘には攻撃の空振りが存在する。
もちろん戦闘前に命中率を確認できる(このページ最上部の画像参照)のだが、高確率の場合は信じ切ってチャレンジしてしまう。人は総じてそういうものだ。そして、FEをプレイしてきたゲーマーの大半は、まず当たるであろう大きな数字に泣かされてきている。「80%で外す!?」と言いながらリセットした経験があるプレイヤーは、きっとぼくだけじゃないはずだ。これまで長く同シリーズをプレイしてきた人ほど、「100(%)」のありがたみと安心感を知っている。「90(%)では攻撃できない症候群」を発症する人もいるほどだ。(かく語るぼくもそう)つまるところ、FEシリーズが教えてくれるのは、この世に絶対はない、「80%は信用するな」である。
ぼくたちは、生活のいたるところで確率を目にする。天気予報、スポーツ、ギャンブル、健康分野など、実にさまざまだ。大きい数字が嬉しいときもあれば、小さい数字が嬉しいときもあるだろう。この世に絶対はない。80%ならとポジティブに、20%だから開き直って、80%でも慎重に、20%でも悲観せず。おなじ数字でも心の持ちようで感じ方は変わり、人生が豊かになる。FEはぼくたちにそんなことを教えてくれているのかもしれない。
豊かな心でFEに向かうと、楽しみ方も変わるはずだ。「95(%)で攻撃したんだから外しても仕方ないよね。」「50(%)で当たってくれてありがとう!」そう、感じ方は心持ちひとつなのだ。
「敵が確率5(%)の必殺発動…」?(※必殺…いわゆるところのクリティカルヒット。通常の3倍のダメージが入る。)
お前だけは絶対許さない。
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