ヴァニラウェア×アトラスの新作。『十三機兵防衛圏』は買いなのか?
ゲーム業界には、多くのメーカーがある。クオリティの高いタイトルを次々と発表するメーカー、過去の栄光によって現在も商業的に成功を続けるメーカー、最近になって復活の兆しを見せるメーカーなど、玉石混交とも言える状態だ。
今回のゲームコラムで取り上げるのは、クオリティの高いタイトルを安定して発表する、あるメーカーと彼らの新作について。『ヴァニラウェア』と『十三機兵防衛圏』の名を聞いたことがあるだろうか?
ヴァニラウェア作品の魅力
コアなゲームフリークにとっては、“次作に最も期待できるゲームメーカー”のひとつとして有名なヴァニラウェアだが、まだまだ広くは知られていない印象もある。まず、「十三機兵防衛圏」を開発する同社について紹介する。
ヴァニラウェアは、大阪に本社を持つゲームの開発会社。これまでに10作以上のゲーム開発に携わっている。ぼくが同社の作品の魅力に気づいたきっかけは、2011年にPSP(PlayStation Portable)で発売された「グランナイツヒストリー」をプレイしたことだった。
「グランナイツヒストリー」は、ゲーム内に登場する3国の戦争を描いた中世ファンタジーRPGだ。プレイヤーは3国の中から1国を選択し、団長として騎士団を率いる。このタイトルの特徴は、育成パートと戦争パートに分かれるゲームシステムにあった。
育成パートでは、それぞれのプレイヤーがオフラインプレイによって騎士の見習いを育てていく。訓練や遭遇戦を通じて、キャラクターを成長させる育成システム。限りのある行動ポイント(AP)を、パーティーを構成する4人のキャラクターで共有し、戦闘を進めるバトルシステム。どちらもとてもベーシックなシステムで、シンプルながら深く没頭できるものだった。
戦争パートでは、サーバー同期によって擬似的なオンラインプレイも可能にしていた。先に説明したとおり、このタイトルにおいては、登場する3国から1国を選択する形でゲームがスタートする。すべてのプレイヤーが1国を選択するため、当然、味方となるプレイヤー、敵となるプレイヤーが存在し、そこにオンライン対戦の要素があった。基本的にセッションに参加するだけのオンラインプレイであるため、行動はパーティーの能力任せ。そこにリアルタイムの細かな操作はない。しかし、2011年当時では、画期的とも言えるシステムだった。近年流行するリアルタイムストラテジーの草分け的なゲームだったように思う。
ヴァニラウェア開発の和風アクションRPG『朧村正』
ヴァニラウェア作品は、古き良きゲームシステムをひとつの魅力としている。複雑化するシステムが、プレイヤーにとって必ずしも面白いかと言われればそうではない。古くても良いものは残す。新しいものも良いと判断すれば取り入れる。このあたりの審美眼が、ヴァニラウェアにはある。
また、ヴァニラウェア作品の大きな特徴に、グラフィックやキャラクターデザイン、音楽のクオリティの高さも挙げられる。名作と呼ばれるゲームになくてはならない要素だ。ゲームというカルチャーには、総合芸術的な側面がある。システムが面白いことは前提として、アートとしてもクオリティが高くなければならない。そんな気概をヴァニラウェア作品からは感じ取れる。
『十三機兵防衛圏』とは?
2019年秋に発売を目指す「十三機兵防衛圏」。開発をヴァニラウェアが、発売をアトラスが担う注目のタイトルだ。“ヴァニラウェア×アトラス”という、言わばゴールデンコンビとも言える組み合わせは、2007年発売の「オーディンスフィア」、2013年発売の「ドラゴンズクラウン」に続いて、同タイトルで3度目となる。2015年開催のSCEJA Press Conference 2015で開発が正式発表された。
2016年に発売されたリメイク版『オーディンスフィア レイヴスラシル』のPV
2018年に発売された、こちらもリメイク版『ドラゴンズクラウン・プロ』のPV
「オーディンスフィア」と「ドラゴンズクラウン」の両タイトルは、どちらもファンタジーの世界を舞台にしたアクションゲームだった。ヴァニラウェアが真骨頂とする、シンプルなゲームシステムと圧倒的なアートの世界。これらが堪能できる名作と呼ばれる作品たちだ。いつしか“ヴァニラウェア作品=ファンタジーアクション”が代名詞となり、発表当時、「十三機兵防衛圏」をそのようなタイトルだと想定する向きもあった。しかし、ゲームフリークたちの予想は、見事に裏切られた。
この項冒頭の動画を観るとわかるとおり、「十三機兵防衛圏」が持つ世界観はファンタジーではない。動画中には、ヴァニラウェアの代名詞とはかけ離れた存在とも言える、ロボットも登場する。
「じゃあ、新作はロボットアクションか!」その予想もやはり裏切られる。
十三機兵防衛圏は、リアリティを持った13人の主人公たちが織りなすSF群像劇だ。公式サイトにもドラマチックアドベンチャーとジャンルの記載がある。これはヴァニラウェアにとって新しい試みだ。いったいどのような作品となるのか、ヴァニラウェアの審美眼が試される。
『十三機兵防衛圏 プロローグ』をプレイして
2019年秋の発売に先立ち、3月14日には「十三機兵防衛圏 プロローグ」と題された有料体験版が発売された。これは、同タイトルに登場する13人の主人公のプロローグにあたる部分を、それぞれ約15分ほどプレイできるもの。全員のプロローグをプレイすれば、3時間ほどになる。2018年本編発売の情報から日程が延期され、続報が待たれていた注目作の最新の動向とあって、ファンのあいだでも大きな話題を呼んだ。
実際にプレイして、ぼくは期待が間違いではなかったと感じた。もちろん「オーディンスフィア」や「ドラゴンズクラウン」のようなアクションゲームとは、ホームグラウンドを別にする(アドベンチャーゲームという意味で)タイトルであるため、過去作のファンすべてに刺さるかと言われれば、そうでない面はあるだろう。しかし、ヴァニラウェア作品の真髄である「シンプルなゲームシステムと圧倒的なアートの世界」がそこにはあった。
数あるジャンルの中で、アドベンチャーは最もシステムがシンプルなジャンルだと言える。もともとそのような特徴を売りにするヴァニラウェアが、このジャンルで新たな勝負を仕掛けること。それは極めて自然なことなのではないだろうか。また、アドベンチャーは、映像や音楽のクオリティがより問われるジャンルでもある。“ヴァニラウェアが作るアドベンチャー”という枠組みは、彼らの紡ぐ世界を堪能するのにこれ以上ない舞台と言えるかもしれない。
一方で、アクションを中心に開発してきたヴァニラウェアにとっては、これまでとは違う要素も求められるだろう。それがシナリオのクオリティだ。舞台を、シナリオが最重要事項とされにくいアクションからアドベンチャーへと移行することで、よりゲームの評価に占めるシナリオの比重は高まっていく。「オーディンスフィア」において一定の評価を得たヴァニラウェア作品のシナリオが、10年以上の時を経てどのように昇華されていくのか。この点が「十三機兵防衛圏」の評価の分岐点となっていくはずだ。
約3時間のプロローグのプレイでは、期待感こそあれ、安心感を得るまでには至らなかった。13人それぞれのシナリオがどのように交錯するのか。また、そこに調和はあるのか。SFアドベンチャーの世界で始まるヴァニラウェアの挑戦を期待せずにはいられない。
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