オープニングからアンコール、そしてバックステージに戻ってからのシーンまで、90分強、一瞬たりとも目が離せないライブだった。オンラインとオフライン双方の充実に対する貪欲さが結実したからだと思う。
一年も終わりのタイミングで、ようやく東名阪で有観客のライブを行えるところまでたどり着いたTempalay。今回は、そのファイナルである新木場STUDIO COASTでのライブの2部をオンライン配信。有観客と配信、どちらも納得のクオリティで見せたバンドと、彼らを支えるチームの共通認識。今回はワンマンとしては2020年ファイナルとなる2部の配信ライブをレポートする。
Text_Yuka Ishizumi
Edit_Miwo Tsuji
日食だろうか、もしくは太陽フレアか。星が中央に鎮座する背景が迫力のステージを正面から捉えた映像とファンのざわめき、そして流れるBGMはJ.S.バッハの『無伴奏チェロ組曲』。ライブが始まる前からPCのモニターとイヤホン越しでも気持ちが波立つ。暗転すると見えないが、楽器を構える音でメンバーの気配を感じ、そこにおもむろに「怪しげな光彩はなお多くの謎に包まれたままである」というアナウンスが。Tempalayのことのようにも思えるし、現在の状況のようにも取れる。いずれにせよ異次元への誘いだ。
そこからスペイシーでアブストラクトな音が重なり、サポート・ベースの亀山拳四朗を含む4人の姿が現れた。どこか悪夢的な小原綾斗(Gt/Vo)の単音フレーズに乗り『脱衣麻雀』からスタート。冒頭からエロティックなムードを醸し、AAAMYYY(Syn/Cho)は白いフードとケープで顔を隠し、John Natsuki(Dr)はなんとスキンヘッドにサングラス。スポーティなウェアだが、雰囲気は宇宙人のようだ。存在感が他のバンドからは何個も頭抜けている。
しかも曲の名状し難い色気に、液体アートが絡み合う様がシンクロしまくって、冒頭から引きずり込まれる。今回はクリエイティブユニットMargt(PERIMETRON)と「墨流し」の技法を再解釈して表現するDirty Workers Studio Japanが参加し、脳の視覚野をさらに刺激してくるという塩梅だ。そこに間奏やアウトロが長い、インスト部分が非常にダビーな『SONIC WAVE』を立て続けに演奏するのだから、初っ端から時空のねじれに突入してしまった。
さらにダークサイドに落ちる感覚から、早いタイミングで『のめりこめ、震えろ。』を披露。オンラインライブではあるが、音像はしっかり場の空気感を含み、しかもリズム隊のサウンドが明快に聴こえ、それが快感中枢を刺激する。この曲では背景にリアルタイムで演者のサーモグラフィを投影。最近、どこに行っても目にする光景だが、これを演出に使うセンスがなかなか辛辣でもある。
ちなみに綾斗のボーカルは絶好調。シームレスにローがイヤホン越しでも五臓六腑に響くベースが黙示録的な世界観を作り出しつつ、ドリーミーでサイケデリックな『タイムマシーン』へ。“死んでしまうのに恋をしたり”という歌詞がこんなにヒリヒリしたものに聴こえ、今は厭世的な気分になれないことに気づいたりもする。小原綾斗という表現者のパーソナルな部分を素直に書いた歌詞世界は自由に解釈できるものだが、今、この曲が起こす反応は個人的には生への渇望だったりする。
“こんにちは、Tempalayです”というNatsukiのサンプリングボイスが狂気的にリフレインされ、『どうしよう』へ。歌とギターを軸にして自在にテンポや構成が変化していくTempalayの特徴がこの曲あたりからさらに柔軟になったことを再確認。AAAMYYYのシンセが意識を揺らす。さらにもう一段階、時空が歪む桃源郷に『Festival』で連れて行かれる。墨流しの赤い色が予測不能な動きを見せる時、美しさとグロさを同時に感じるのだが、綾斗の理想というのはもしかしたら自分の体と外の境界がなくなることなんじゃないか? と想像してしまう。感覚の自由を音楽に変換したらこうなったと言わんばかりのサウンドと構成、そして演出の一体感。ダビーなベースと逆回転のようなギターサウンドが非常にドラッギーで、もはやジミヘンの時代からクルアンビンあたりの今の時代までを包摂してる、そんな感じ。いつまでもこのグルーヴに浸っていたかった。
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