「もう、勇者しない」RPG全盛の時代、シーンに一石を投じた異色のゲームタイトル「moon」を考える
2019年10月10日。満月の日に合わせて、かつての人気タイトルがNintendo Switchへと移植された。
そのタイトルの名前は、moon。「もう、勇者しない」をキャッチコピーに掲げる異色のタイトルだ。同タイトルがフリークを夢中にする理由とは。作中に織り込まれたメッセージから、その魅力を掘り下げる。
moonとは
「moon」は1997年にアスキーから発売された、ラブデリック開発のPlayStation専用ゲームタイトル。透明な姿に服だけをきた主人公が、少年のプレイするゲームの世界を冒険するRPG作品だ。
同タイトルはロールプレイングに分類される作品でありながら、一般的なそれとは一線を画するコンセプトを持つ。ゲーム中でモンスターを倒す描写がいっさいないのだ。モンスターを倒さないということは、掃討によるレベルアップやより強い敵に挑んでいくというシーンもない。それどころか、主人公は勇者に討伐されたモンスターを次々と救済していくことになる。
それまで当たり前とされてきたRPGのコンセプトに対し、真正面から問題を提起した同タイトルは、発売から程なくして高い評価を獲得。「アンチRPG」の傑作として扱われるようになった。現在では新品のソフトが定価の10倍近い価格で取引されるなど、プレミア化。既に所持していなければプレイしづらい状況があり、多くのゲームフリークから移植やリメイクが待望されていた。そんな中、発表されたのが、Nintendo Switchへの移植による再販だ。このニュースは、発表直後から大きな話題となった。
満を持してリリースされたNintendo Switch版では、オリジナル版のスタッフが再度集結し、完全監修。当時ディスク容量の都合でモノラルにせざるを得なかった音楽がステレオへと変更になった以外に変更点・追加要素はない。今後はオリジナル版がなし得なかった海外でのリリースも予定しているという。初めて、あるいはもう一度プレイしたかったユーザーのもとへ届く状況になり、moonという作品に集まる評価はまたあらたなステージを迎えつつある。
About moon
RPGを遊ぶ時、ふと疑問に思ったことはありませんか。
「なぜ勇者は世界中のモンスターを皆殺しにするのか?」
「なぜ勇者は勝手にタンスをあけて人の家からアイテムを盗むのか?」
誰もが感じるRPG世界の奇妙な出来事。このゲームではそんな見慣れた
RPG世界を新たな視点から味わうことができるのです。
moonのあらすじ
月の輝く或る夜、ひとりの少年がテレビの中に吸い込まれてしま
います。少年が落ちたのは、とあるゲームの世界「ムーンワール
ド」。少年は勇者が経験値稼ぎのために殺したアニマルの魂を救済した
り、奇妙な住人達の生き様をのぞき見て、世界中の「ラブ」を集め、
成長していきます。そう、このゲームは戦いではなく「ラブ」によって
レベルアップするのです。
「さあ、あなたの力で扉をあけて。」
「moon」の世界にあふれる、個性豊かな愛すべきNPCたち
moonの世界には、個性豊かな愛すべきNPC(ノンプレイヤーキャラクターの略。プレイヤーが操作しないキャラクターのこと)が多数登場する。主人公をかわいがるお婆ちゃん、鳥への給餌を日課にするのんびりやの王様、別れた奥さんとの間にできた息子を想いながら今日も生きる衛兵のイビリ―、毎日休まず焼くパンが街の評判となっているパン屋のベイカーなど、その数は挙げればキリがないほどだ。彼らにはそれぞれ、moonの世界で生きる上でのバックボーンがあり、そのバックボーンがmoonの世界を彩っている。RPGの当たり前を捨てても、同タイトルがプレイヤーの心をつかんで離さない理由には、間違いなく彼らの存在があるだろう。
つまるところmoonは、人との絆の物語だ。従来のRPGのように、ただ通り過ぎていくだけの街の住人はほとんどいない。すべてのキャラクターが今そこで生きていているのだ。こうした世界の描き方も同タイトルがアンチRPGと言われる所以なのかもしれない。
「ぼくたちが生きる世界は、誰もが物語の主人公になり得る」
moonが提示する世界には、こういったメッセージを感じずにいられない。
移植により顕在化した女性プレイヤーからの支持
先にも紹介したように、moonには「敵を倒す」という概念がない。世界中の人々やモンスターと心を通わすことで“ラブ”を獲得し、それによりレベルアップ、行動時間が少しずつ伸びていくというゲームシステムを持つ。では、いったいどのようにして彼らと心を通わすのか。
moonでは“ラブ“を獲得するために、都度ミニゲームへと挑戦する。与えられた課題をクリアすれば、晴れて“ラブ”が手に入るという仕組みだ。一般的なRPGであれば、サブクエストとして用意されているであろうおつかい的な要素が、moonでは遊び心の根幹となっている。全体を通じてゆるめに設計されているゲームデザインも、同タイトルの特長と言えるのではないだろうか。
そうした設計が奏功してか、女性プレイヤーの支持も目立つ。YouTubeにおける配信では、女性配信者、女性視聴者の存在を目にする機会も多かった。現在は“女性プレイヤーがトレンドタイトルの鍵を握る”時代。2019年の移植版リリースは、ある種、時代に合ったものだったのかもしれない。
あらためて拡大するmoonへの支持と、「愛だけが運命を変える、愛だけが世界を救う」というメッセージ。その先にある未来に続編を期待してしまうのはぼくだけだろうか。16bitテイストのタイトルや、レトロゲームに注目が集まる今。「アンチRPG」の金字塔が、あらたなステージを迎えようとしている。
moon
Onion Games内、公式サイト
Onion Games公式Twitter
My Nintendo Store商品ページ
SHARE
Written by