Chara+YUKIファーストシングル「愛の火 3つ オレンジ」から20年
1999年11月にリリースされた「愛の火 3つ オレンジ」から20年が過ぎました。“20周年を記念して”って話ではないんでしょうけれど、実に集大成的なミニアルバム『echo』が2月14日にリリースされます。日本を代表するディーヴァ2人が組んだとあって当時も大いに話題を集めましたけれども、今回もド級のパンチ力を伴って帰ってきました。まずは1999年Ver.の「愛の火 3つ オレンジ」をお聴きください。1999年Ver.と言うからには2020年Ver.もあるということです。
Chara+YUKI – 「愛の火 3つ オレンジ」
岩井俊二監督の映画「PiCNiC」 、「スワロウテイル」が公開されたのが1996年ですから(「PiCNiC」は1994年公開予定だったところ諸事情により持ち越し)、このMVが公開されたのは3年後ですね。当時の岩井監督の退廃的でオルタナティブな世界観が、本作ではまだ継続しているように思います。これがこの時代の空気だったのか、はたまた岩井監督周辺のスタンスだったのかは定かではありませんが、通ずるものはあるような気がします。Charaは「PiCNiC」 、「スワロウテイル」の両方で主演を務めました。
それから、「愛の火 3つ オレンジ」のリリースとほとんど同時期にMean Machine (ミーンマシーン)というバンドが結成されます。メンバーはChara̟+YUKIの2人に加えて、ロックンロール・ビッグバンドTHE THRILLのサックス奏者YUKARIE、ミュージシャンでラジオDJのちわきまゆみ、女優の伊藤歩。凄まじい5ピースバンドです。「自分のやったことのない楽器に挑戦する」ことをコンセプトとしており、3人もボーカリストを有していながら、実際にメインボーカルを務めたのは伊藤歩でした。“じゃあCharaとYUKIは何をやっていたんです?”。この時はですね、なんと2人はツインドラムを担当していたのです。公式音源がネット上に転がっていないので、ここで動画などを紹介するのは控えますが、ジャンルとしてはゴリゴリの90’sオルタナロックでした。後ほど詳しく書きますが、“YUKIがドラムを担当していた”事実は、映画の伏線回収のように本作にもつながって来ます。
ここ数年間のChara̟+YUKIについて
“ポップミュージック”がひねくれた音楽的趣味嗜好を持つヒップスターたちから非難されなくなって随分経ちますが、この2人に関して言えば、そんなひねくれ者たちからもずっと評価が高かったように思います。ポップではあるけれども、常に時代の先を行くようなアプローチを取っておりました。それは、これまで2人に関わったアーティストの名前を挙げるだけで十分理解できるでしょう。2人の最近の活動を参照してみます。
まずはChara。Lucky Tapesが2018年にリリースした『dressing』に参加し(リードシングル「Lonely Lonely」)、常田大希(King Gnu)率いる“millennium parade”が昨年9月にリリースしたシングル「Stay!!!」にも客演し、同じく昨年末にはWONKの荒田洸と共に「愛する時」を共作しました。ライブではKan Sanoら気鋭アーティストが編成に参加しております。
続いてYUKI。昨年リリースされたフルアルバム『forme』に参加したメンバーを挙げてみましょう。西寺郷太(NONA REEVES)に堀込泰行(元キリンジ)、細野晴臣、Charaに加え、吉澤嘉代子や津野米咲(赤い公園)、尾崎世界観(クリープハイプ)らが世代やジャンルを超えて集結。本作は“2回目のソロデビュー”と銘打たれるほど、挑戦的でフレッシュな内容でした。少し前ですが、2014年にリリースされたシングル「誰でもロンリー」にはSeihoとやけのはらがリミキサーとして参加しています。
2人ともクラシックと呼んで差し支えない楽曲を山ほど持っているのに、それでもなお攻めの姿勢を崩しません。メインストリームでも支持を集めつつ、それぞれオルタナティブに活動を続けております。
『echo』によって迎える大団円
そんな2人が再びコンビを組んでアルバムをリリースするとあって、俄然その内容が気になるわけです。しかも1曲目から「愛の火 3つ オレンジ (2020version)」。手元にある資料置いて、ひとまずフラットな状態で聴いてみました。
前置きなしでド直球な感想から述べさせていただきますと、徹頭徹尾最高。「愛の火 3つ オレンジ(2020version)」のイントロでブラスセクションが高らかに鳴らされた瞬間、大好きだった映画の続編が始まる予感がありました。実際、しっかり原型を残しつつ、しっかり新しいのであります。90年代のローファイなビートに乗せ、ハイハットは極めて今日的なトラップマナー。ここで私、初めてクレジットを見ました。プロデュースを担当したのは3人組ヒップホップクルー“CIRRRCLE”のトラックメイカーA.G.O。ブラスアレンジはCRCK/LCKSの小西遼。いずれも膝を打つキャスティングであります。
ニューカマーだけでなく、これまで馴染みのあるキャラクターもたくさん登場するのがChara+YUKI劇場。2曲目の「You︕You︕You︕」、ここで登場するのがSeihoです。打ち込みとすべての楽器の演奏を彼ひとりで担当しています。彼をご存知であれば、恐らく一聴しただけで認識できるでしょう。プロデュースの幅が広くても、“Seihoが作った”と分からせることができる稀有な才能をここでも発揮しています。5曲目のYOPPITEも、YUKIのライブやレコーディングメンバーとして常連である、白根賢一がクレジット(Charaの曲もプロデュースしています)。スムースで湿度の高いニュアンスは“白根節”という気がしますね。そして6曲目「鳥のブローチ」ではKan Sanoが登場。全体のプロデュースとキーボードを担当しています。が、この曲は彼だけでなく、ロックバンドTHE NOVEMBERSからも2人参加しています。ギターを弾いているのが同バンドの小林祐介、ドラムを叩くのが吉木諒祐。とんでもない布陣です。生楽器と打ち込みのバランスが凄まじいレベルで結実していますが、そこはKan Sano。しなやかにその手腕を振るっております。7曲目ですが、こちらのプロデュースを担当したのは、Kan Sanoも所属するレーベル「origami PRODUCTIONS」のmabanua。origamiは今一番アツいレーベルだと思います。天才しかいない。
そして、シングルカットされた「楽しい蹴伸び」には、シンガー・ソングライターのTENDREが全面プロデュ-スと。この曲も、TENDREをご存知ならばすぐに彼の曲と分かると思います。しかもミックスはMONDO GROSSOの大沢伸一ですよ。布陣が強すぎる。
Chara+YUKI -「楽しい蹴伸び」
この完璧の流れの中、締めが表題曲「echo」。アルバム中、随所でAdditional DrumsとしてクレジットされているYUKIですが、ここで満を持してメインドラムを叩きます。1999年から彼女たちを知っている人は、20年ぶりに映画の後編をもらった心地ではないでしょうか。更に、 岸田繁(くるり)や美濃隆章(toe)も制作に名を連ねています。
キャスティング、あらすじ、演技、その他諸々の特殊効果まで完璧な映画。本作『echo』は、そんなアルバムではないかと思うのです。「アカデミー賞に乗じてこんな記事を」とお思いになる方もいるかもしれませんが、あながち間違いでもない気がするので、ぜひMean Machine含めた前編からお楽しみ下さい。そしてあわよくば、続編も期待したいところです。
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