今年(2019年)10周年を迎えたバンド・パスピエ。大胡田なつき(Vo.)による印象的なアートワークやMVなど、登場時からすでに、バンドの背景には数多くのカルチャーが見え隠れしていた。その豊潤なカルチャー要素の中心を担う大胡田なつきにフォーカスした連載の第3回。
第1回の「Book編」、第2回の「Art編」に続き、今回は「Music」編。大胡田なつきを開花させた3種類の音楽作品(あるいは作家)について、それぞれの出会いや魅力などを語ってもらった。
Photography_Yuki Aizawa
Interview & Text_Sotaro Yamada
Edit_Alex Shu Nissen
1. 小川美潮『おかしな午後』(アルバム『4 to 3』)
――小川美潮さんは、大胡田さんが「崇拝」している人ですね。
大胡田 : そうです。「崇拝」しているミュージシャンはこの方だけです。映画『つぐみ』のエンディング曲に使われている『おかしな午後』という曲で初めて知りました。
――何歳頃でしたか?
大胡田 : 小学生の頃だったと思います。季節は夏で、ちょうど入院していて。小さい頃は身体が弱かったんです。母親が持ってきてくれたビデオを病室のテレビに繋げて見ていました。原作の『TSUGUMI』を書いたよしもとばななさんが好きで。映画もやっぱり面白かった。
大胡田 : エンディングで『おかしな午後』が流れた時に、すごく驚いたんです。他人のつくった世界を初めてうらやましいと思いました。小川美潮さんが表現する『おかしな午後』という世界にわたしも行きたい、そう思ったんです。
大胡田 : この映画は、病気の女の子の話なんです。ストーリーと自分の状況、時々聴こえてくる歌詞と美潮さんの声、楽曲の音、全部含めて「おかしな午後だ」と思ったんです。こんな世界をつくれるこの人ってすごい、そう思いました。それが歌に興味を持ち始めたきっかけです。
――身体が弱くなければ、歌に興味を持たなかったかも?
大胡田 : かもしれないですね。ピアノをやっていたから音楽は好きだったけど、歌はどちらかというと嫌いだったんです。親にカラオケに連れて行かれたら泣き出しちゃうくらい嫌いでした。恥ずかしがり屋だったんです。完璧主義なところもあるので、失敗するのが嫌だったんですね。練習もろくにしてない歌なんて、人に披露するものではないと思っていました。
――ストイックな小学生ですね(笑)。
大胡田 : 学校の音楽の時間もピアノで伴奏を弾いていたので、合唱でも歌いませんでした。それなのに、美潮さんの歌を聴いたらうらやましいと思ってしまった。年齢的にまだCDを買う習慣がなかったから、CDを買ったのは4~5年後、中学生になってからです。それまではカセットテープで『つぐみ』のエンディングをビデオ越しに録音して、繰り返し聴いていました。今日持ってきたCDはワーナーミュージック(パスピエが所属するレーベル)の方にいただいたもので、自分で買ったCDは実家にあります。
――それが初めて買ったCDですか?
大胡田 : 初めて買ったのはT.M.Revolutionの『WHITE BREATH』と『Burnin’ X’mas』です。小学校低学年の頃で、当時好きだった人の影響です(笑)。
――大胡田さんは好きな人に影響受けまくる人ですもんね(※参考『パスピエ・大胡田なつき 私をつくる文学とアートと恋 この3冊』)。でも小学生の時点で好きな人の好きなものを買うって、ちょっとマセた子供だなあ。
大胡田 : というか、生意気でムカつく子供だったんです。今考えると、いろんな人に悪いことをしたなあ。これからは控えめに、静かに生きていきます。
――いやいや(笑)。これはまた次回詳しく聞きますけど、小川美潮さんのファッションも、大胡田さんに影響を与えていそうですね。
大胡田 : そう思います。声や歌い方にもオリエンタル感というか、どこの国の人なのかわからない感じがあるし。こういう歌を描きたいですね。
――初めて小川美潮さんの歌を聴いた時、歌をつくってみたいと思いましたか?
大胡田 : どうだろう。でも、何かの世界を表現することについてはそれ以前からすごく興味がありました。その表現方法のひとつとして「歌」というものがありそうだということを、この曲を聴いてなんとなく感じていたと思います。だから小川美潮さんの『おかしな午後』は、わたしにとって本当にいちばん大事な曲、マスターピースです。
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