2018年(第60回)グラミー賞の行方や如何に
言わずと知れたアメリカの音楽アワード。今年は1月28日(現地時間)に開催されます。優れたミュージシャンに送られる賞ですが、毎年のように議論を呼んでいるのも事実。昨年はアデルが主要4部門中3部門を制覇した裏で、ビヨンセのアルバム『レモネード』こそ称賛されるべきであったとする向きもありました。2013年には最有力候補であったフランク・オーシャンが主要部門での受賞を逃し、大きく波紋を呼んだもんです。
Frank Ocean – 『Channel Orange』
2011年にはアーケイド・ファイアーがインディーズながら最優秀アルバム賞を獲得し、会場内は騒然としました。何せ同賞を争った相手が、エミネム、レディー・ガガ、ケイティ・ペリーですから、どう見ても知名度では分が悪かったのです。まさに大穴。当時の世間の反応は「アーケイド・ファイアって誰?」、「新時代の到来!」など、実に混沌としておりました。
Arcade Fire – 『The Suburbs』
まぁ、まとめると良くも悪くも予想を裏切ってくるのがグラミー賞ということになりますかね。ところで、グラミー賞がどういう仕組みで選ばれているのかご存知でしょうか?レギュレーションが結構複雑でして、実は前年の1月~12月が評価の対象ではありません。グラミー賞は、NARAS(ナショナル・アカデミー・オブ・レコーディング・アーツ・アンド・サイエンス)の会員およそ1万3000人の投票によって選ばれるのですが、この集計が10月に始まるのです。ということは、評価対象は直前の9月までに作品をリリースしたアーティストに限られる。つまり、第60回グラミー賞で選ばれる対象になり得るのは、2016年10月~2017年の9月の間に新譜を出したミュージシャンなのです。従って、2017年11月に発表されたビョークの『Utopia』は今回においては対象外。リストに入っていないからと言って憤慨なさいませぬよう。
さて、だいぶ長くなりましたが、今回のグラミー賞をざっと見てみましょう。まずは主要4部門について。
1. 最優秀レコード賞は誰の手に?
Record Of The Year
『Redbone』 — Childish Gambino
『Despacito』 — Luis Fonsi & Daddy Yankee Featuring Justin Bieber
『The Story Of O.J.』 — Jay-Z
『HUMBLE.』 — Kendrick Lamar
『24K Magic』 — Bruno Mars
最優秀レコード賞のノミニーたち。この部門では、シングル曲の演奏者や製作チームに賞が贈られます。今回のグラミー賞に対し全般的に言えることですが、かなり批評の色が強いのです。ピッチフォークやSPINのような音楽メディアのセレクトとそれほど変化がない。昨年爆発的な売り上げを叩き出したエド・シーランがいない時点でお気づきでしょう。
で、最優秀レコード部門の目玉は何といってもケンドリック・ラマー。と、今回最多ノミネート(8部門)のJay-Z。それから、ジャスティン・ビーバーが関わっているとは言え、スペイン語で歌われている『Despacito』も特筆に値します。ラッパー、シンガー、俳優、コメディアン、作家など、様々な顔を持つチャイルディシュ・ガンビーノが同賞をかっさらうことも十分あり得るでしょう。
Childish Gambino – 『Redbone』
いつの間にか「全員あり得るよ」的な文章になってしまいました。純粋に楽曲だけで判断するのなら、最優秀レコード賞は『Redbone』、『The Story Of O.J.』、『HUMBLE.』の三つ巴だと思いますね。
2. 最優秀アルバム賞、稀に見る激戦区ながら「順当」ならば『DAMN.』なはず。
Album Of The Year
『Awaken, My Love!』 — Childish Gambino
『4:44』 — Jay-Z
『DAMN.』 — Kendrick Lamar
『Melodrama』 — Lorde
『24K Magic』 — Bruno Mars
今回の主要4部門においては、最優秀アルバム賞が一番の激戦区だと思います。誰が勝ってもある程度納得はできますが、やはり最右翼はケンドリック・ラマーの『DAMN.』でしょう。前作『To Pimp a Butterfly』で同賞受賞を渇望されながら、まさかのノミネート止まり。リアルタイムでネットの反応見ていたのですが、まさに阿鼻叫喚。暴動でも起きるんじゃないかと思いましたよ。『To Pimp a Butterfly』ほどの社会性はないですが、今作『DAMN.』も負けず劣らずの大傑作。最優秀レコード賞にもノミネートされている『HUMBLE.』は、間違いなく2017年のアンセムでした。
Kendrick Lamar – 『HUMBLE.』
他の4アルバムの中から『DAMN.』の対抗馬を一枚選ぶとすれば、やはりロードの『Melodrama』でしょうか。昨年は女性アーティストの勢いが盛んだったのも指摘されている通りで、その急先鋒に居たのが彼女でした。同作『Melodrama』は、音楽誌の多くで軒並み高い評価を得ております。
3. アメリカの良心が勝てば、最優秀楽曲賞はあの曲
Song Of The Year(長大につき作曲者割愛)
『Despacito』 – (Luis Fonsi & Daddy Yankee Featuring Justin Bieber)
『4:44』 – (Jay-Z)
『Issues』 – (Julia Michaels)
『1-800-273-8255』 – (Logic Featuring Alessia Cara & Khalid)
『That’s What I Like』 – (Bruno Mars)
最優秀レコード賞とよく混同されがちですが、こちらの最優秀楽曲賞は演奏者でなく作曲者・作詞者に贈られるものです。
マックルモア&ライアン・ルイスが過去にケンドリック・ラマーを押しのけ、主要部門のひとつである最優秀新人賞を獲得したことを考えれば、最優秀楽曲賞はLogicの『1-800-273-8255』ではないでしょうか。普通に考えるとブルーノ・マーズが最有力だと思いますが、アメリカはこういうときに強さを発揮する国です。
「1-800-273-8255」とは、米国内の自殺予防相談にかかる電話番号。そのタイトルに乗せ、Logicは“I want you to be alive”と歌うわけです。
Logic – 『1-800-273-8255 ft. Alessia Cara, Khalid』
MVもすこぶる豪華ですね・・・。脇固めてるの、ドン・チードルとルイス・ガスマンですよ。
今回の最優秀楽曲賞はブルーノ・マーズの超絶エンターテイメントか、ロジックのコンシャスなメッセージ・ソングかの二択でしょう。ここまでを踏まえると、Jay-Zが主要部門を獲得するならば最優秀レコード賞だと思います。
4. 選考委員の気概を感じる、最優秀新人賞
Best New Artist
Alessia Cara
Khalid
Lil Uzi Vert
Julia Michaels
SZA
今までのノリであれば本命アレッシア・カーラ、対抗にシザ、大穴がリル・ウージー・ヴァート、といったところでしょうか。とにかく現在のブラック・ミュージックの勢いをそのままラインナップにしたような印象を受けます。個人的にはもちろん、「リル・ウージー・ヴァートにグラミーを!」と思っております。彼もデビューアルバム『Luv Is Rage 2』で全米一位を取ってますから、可能性はあるでしょう。
Lil Uzi Vert – 『XO Tour Llif3』
・・・しかし冒頭でも書いた通り、ノリがそもそも平時のグラミーとは違うんですよね。アレッシア・カーラ最大のヒット曲『Scars To Your Beautiful』のリリースは2016年の7月ですし、そう考えるとシザかなぁ。
様々な要素を勘案すると、この部門の受賞者を予想するのは難しいです。昨年はチャンス・ザ・ラッパー*が同賞を受賞したこともあり、保守的と言われるグラミーにも変化があることは確かです。
第59回グラミー賞におけるチャンス・ザ・ラッパーの受賞: 当初のグラミー賞には「対象は有料で売り出され、購入できる作品であること」という規定があったが、チャンス・ザ・ラッパーの諸作はストリーミング配信のみであったため、これが覆る。
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