2016年に小説『祐介』やアルバム『世界観』を発表したことで、バンドとして新たなフェーズに入りつつあるクリープハイプ。2017年の一発目として、この2月、シングルでもアルバムでもない全5曲収録の作品集『もうすぐ着くから待っててね』をリリースした。収録曲のうち『陽』は東京メトロ『Find my Tokyo』CMソングとして、『校庭の隅に二人、風が吹いて今なら言えるかな』はTVアニメ『亜人』メインテーマとしてすでに話題になっており、高い評価を得ている。
普通のバンドなら、このタイミングでいわゆる「リリースインタビュー」をたくさんやり、自分たちの作品を宣伝するだろう。だがクリープハイプは今回、そのようなリリースインタビューをやらないという。フロントマンの尾崎世界観(Vo.&Gt.)によると、「当たり前のように音楽雑誌で話をすることに疑問を持ち始めた」。
それはいったいどういうことなのか? 尾崎世界観は何を考えているのか? ミーティアは尾崎世界観へインタビューを行い、彼の本音を探ってみた。
Interview & Text_Sotaro Yamada
(クリープハイプ『ただ』MV。極論を言えば、インタビューなんて流し読みでいいから、この曲を聴いて欲しい。それだけで尾崎世界観の考えを感じることができるはず)
難しく語るよりも、ただ聴いてもらいたい
――今回のインタビューでは、曲について語るというよりも、「リスナーに実際に聴いてもらって想像してほしい」という想いがあると伺いました。クリープハイプはこれまでにたくさんの音源をリリースして来たわけですが、今回こうした想いを強く抱くようになったのは、どんなきっかけや理由があったんでしょうか?
尾崎世界観(以下、尾崎):きっかけは特にないんですけど、CDを出して当たり前のように音楽雑誌で話をすることに疑問を持ち始めたんです。
自分が中学生くらいの頃は、音楽雑誌が好きでよく読んでました。あの頃は、今みたいにYouTubeで聴いたりできなかったから、雑誌を読んで、想像力を働かせることしかできなかったんですよね。その時はインタビュー記事がすごく大事だったんですけど、今は……、読んでもあまりドキドキしなくなったんです。書いてあることが難しくて、何を言ってるのかよくわからない。それこそ「世界観」って言葉がすぐに入って来るし、書き手が自分のために書いてるような気がする事があります。
そういう中で、「ただ聴いてもらいたいのになあ」という気持ちが強くなって来たんです。だから一回試してみたくて。一人の評論家が原稿用紙10枚使って「このメロディはこういう成り立ちで〜」とか「今回はこういう制作過程で〜」って書くよりも、いろんな人が原稿用紙10枚分「良かった!」って一言だけ言ってる方が、その曲を聴いてみたいと思うだろうし。
――たしかに、YouTubeがあってApple MusicやSpotifyなどのサブスクリプションサービスがあって曲がすぐに聴けるというのに、それに加えて何を言うべきことがあるのか?とは考えます。
尾崎:そうですよね。だからどんどん形式だけのものになって来ているんじゃないかと思って。お中元みたいな感じで、とりあえずCDができたからインタビューしてもらって書いてもらう、そういう風習みたいなものになっているなと感じるんですよね。本来はそういうものじゃなくて、本当に伝えたい気持ちがあったはずなのに。
メジャーデビューした頃は、どんな媒体かもよくわからずたくさんインタビューを受けてたし、それが当たり前だと思っていました。でも徐々に「ああ、やっぱりここは拾ってくれないんだな」という気持ちが出て来たんです。自分も作品を作っているという気持ちでインタビューに応えているので、「ああ、ここは書かれてない」と思ったりする。そうしていくと、結局、どこの媒体でも全部同じことを言ってるなと思ったんです。
――「この曲の聴きどころは?」みたいな質問って多いですよね。それって質問として面白くない上に、一回どこかで言えばじゅうぶんなことですもんね。
尾崎:「いろんなところで聞かれてもううんざりだと思うんですけど、簡単なプロフィールをお願いします」とか。
デビューして、最初だけ騒ぎ立てられて、ある程度レールから外れていくバンドとそのまま上がって行くバンドの2種類がいると思うんですけど、そこでちょうどクリープハイプはレコード会社を移籍したりして、苦しい時期があった。そういう時に、僕の場合はカルチャー誌とか、音楽専門誌以外の媒体にすごく助けられた。小説を書く場所もあったし、色々な面白いことをやらせてもらえてすごく感謝してるんです。そうすると、なおさらさっき言ったような「お中元」に対する疑問が強まって来て。だから今回はお中元をやめてみようと。一度そうしてみて、やっぱり必要だなと思ったらまた改めて話を聞いてもらえばいいし。好きな音楽ライターの方もたくさんいるので。
……まあ、子供みたいな理由なんですけどね。スネてるだけなのかもしれないですね(笑)。そもそもバンドに力が無かったのが原因なんです。
でも、こういう話をした方が面白いと思うんですよね。馴れ合いの関係で当たり前にリリースされるものが面白いはずがない。ちゃんと歯があるってことをお客さんにも知らせなきゃいけないと思うんです。噛みちぎりはしないけど、歯はあるぞと。今回の曲だって、「クリープハイプの新譜、なんか丸くなって嫌だな」と言ってる人もいますけど、全然ちゃんと聴いてないからそうなるんだと思うし。今回の作品集『もうすぐ着くから待っててね』を聴いてもらったらわかると思うんです。
評論家は必要か?
――尾崎さんにずっと聞きたかったことがあります。それは、「評論家についてどう思うか?」という質問です。『尾崎世界観』というアーティスト名は、最高の批評だと思うんですよね。この名前を名乗ることによって、自称評論家は「クリープハイプの世界観って〜」という曖昧で無意味な言い方ができなくなる。
尾崎:それが、いるんです。
――え、今でもいるんですか?
尾崎:そうなんですよ。
――気まずいですね(笑)。尾崎さんは、評論家って必要だと思いますか?
尾崎:難しいですよね……。音楽をこれだけやって来たからこそ、今は必要ないかもしれないと思えてるんですけど、たとえば「小説の書評は必要ないですか?」と聞かれたら、そんなことはない。ある程度自分がそこに慣れるまでは必要で。……補助輪みたいなものかもしれないですね。乗りこなせるまではいてもらいたいけど、乗れるようになったら疑問に思う。
――ああ、補助輪かあ、なるほど。
尾崎:だけどそもそも補助輪がなかったらそこまで乗りこなせるようになってない。今はどうなのかなあと思うことがあるんですけど、最初は間違いなく助けられていた。だから補助輪みたいなものなのかなって、今喋りながら思いました。
最初はそこに縋りますからね。やっぱり鹿野さんが初めてレビューを書いてくれた時はすごく嬉しかった。それまで何もうまくいかなかった中でああいうことを書いてくれて、鹿野さんのレビューをお守りみたいに感じました。でも今は、音楽業界全体として、あまりにも褒めることが前提になってるじゃないですか?
だから、ある程度まではすごく必要だと思います。ただ、いつまでもくっつけてるのはカッコ悪いので、いらないと思ったら外してみたいなあと、そういう気持ちが今回の動機ですね。
――小説だと、たとえば村上春樹は評論家をまったく必要としてないですよね。だけど村上春樹だってデビューした頃はすごく批判されていて、そういう中で、力のある批評家が「これはこういう意味で、こういう文脈の中で生まれた文体で〜」みたいなことを説明してくれて、受け入れられた側面があると思います。
尾崎:最初はそういう人がいてくれないと立っていられないので、すごく大事なんですよね。あとは、常にパートナーになってくれる人。このバンドにはこの人がいつも付いていて、この人の言ってることを調べたら次の作品の意図がわかるみたいな、そういう関係もあると思うんですよね。そうじゃないと、評論や批評の意味がなくなってしまうと思います。
――「世界観が〜」とか、「このアーティストの狂気性が〜」とかいう評論家とか……。
尾崎:あと「サウンドスケープ」とか。
――なんとなくの言葉でごまかすんだったら、ない方がいいですよね。
尾崎:やっぱり音楽を聴いてる人って、そんなことを理解したくないし、考えたくないから聴くんだと思うんです。
もちろん音楽雑誌は絶対になくなって欲しくないですよ。元々大好きだし、時間をかけて選んだ一冊を買って家で読むのはすごく楽しみだったし。だから今は、反抗期みたいな感じなのかもしれません(笑)。でも反抗期って、気持ちがあるからこそなんですけどね。
抜きがない風俗みたいな(笑)
――今回は5曲入りの作品集ということですけど、これって、2回に分けてシングルを出すこともできたわけじゃないですか。「2ヶ月連続リリース!」みたいな形で。それをせずに一回にまとめたのはなぜですか?
尾崎:もともと、小林武史さんにプロデュースしてもらった『陽』という曲が決まっていたんです。この曲を作った時、すごく刺激的で、これまで行けなかったところに行けた感触があった。でもちょっと手触りが丸すぎる、優しすぎるなと思ったんですね。これをこのままなんとなくの流れで出してしまうと、前回の『世界観』というアルバムでせっかく修正した流れが元に戻っちゃうと思ったんです。それで、今までやったことがないような形で作品を作ろうと。『陽』に引っ張られないような、『陽』がちょっと霞むくらいのものをちゃんと入れたいなと思って。だから今回はただのシングルじゃなくて、もう少しボリュームのあるものにしたいという気持ちがありました。
――ではその中身については触れないようにするので、アートワークについて聞かせてください。『もうすぐ着くから待っててね』のアートワークは、『美容文藝誌 髪とアタシ』とのコラボレーションで、まずこういうコラボをするという発想自体が面白いんですが、メンバー全員にカラーが振り分けられていることが気になりました。尾崎さんはイエローで、カオナシさんがパープル、小川さんがグリーンで小泉さんはピンク。このカラーの違いってどんな意味があるんでしょうか?
尾崎:いや、全然ないです(笑)。元々『美容文藝誌 髪とアタシ』の取材が昨年末にあったんですけど、結構前から話をもらっていて、なんか面白そうだなと思っていたんですね。取材の時もすごい楽しかったし、編集長のミネさんが撮ってる写真がとにかく気になって。なんとなく、次はミネさんの写真で行きたいなと思ってたんですよ。そう思ってるうちに、『美容文藝誌 髪とアタシ』は表紙もインパクトがあるし、なんか引っかかる絵だったから、まるまるお願いしたら良いんじゃないかという話になって。それでアートワークから特典の冊子まで全部やってもらいました。色々急展開だったんですけど、お願いして本当に良かったですね。
アートワークに関しては、毎回写真家の方やデザイナーさんを選ばせてもらって、後は基本的に自由にやってもらってます。本当はずっと同じコンセプトで「クリープハイプといえばこのジャケット」みたいなのがあればいいのかもしれないですけど、中が変われば外も変わっていくんでしょうね。……すみません、中身あること言えなくて。なんか、抜きがない風俗みたいですね(笑)。
――抜きがない風俗!? そのまま書いちゃいますよ(笑)?
尾崎:そういうのが好きな人もいますからね〜。
――おっパブ行く人とか。
尾崎:そうですよね。あれって何がいいんだろう?と思ってたんですけど、年を取るごとにだんだん気持ちがわかるようになって来ました(笑)。
――え、わかります? モヤモヤするだけじゃないですか?
尾崎:射精の向こう側があるんでしょうね〜。
――ああ……、射精よりもオーガニックなオーガズムがあるのか……。「尾崎世界観が語るおっパブの魅力」とか、本当に書いていいのだろうか……。
尾崎:いいんじゃないですか? 『Quick Japan』の企画でもテレクラに行きましたからね。『もうすぐ着くから待っててね』に掛けて、テレクラに行ってみようという企画で……。
(※めっちゃ面白い話だったけど大人の事情により掲載できませんので、続きはぜひカルチャー誌『Quick Japan vol.130』中の「クリープハイプ尾崎世界観、テレクラの夜」をチェックしてください!)
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