ヒトリエ。
ボーカロイドシーンを牽引したwowaka(Vo.&Gt.)を中心に、同人音楽シーンからメジャーデビューを果たしたバンド<石鹸屋>のメンバーだったイガラシ(Ba.)、『カゲロウプロジェクト』に参加していたゆーまお(Dr.)、そしてMEETIAでは漫画連載でお馴染みのシノダ(Gt.)が集まり、2012年に結成されたロックバンド。
今年2月にフルアルバム『DEEPER』を発表して以降、全国ワンマンツアーをはじめ、自主企画としてベッド・インやぼくのりりっくのぼうよみらとツーマン公演を行うなど、精力的な活動を続けて来た。
そんなヒトリエが、早くも12月7日に今年二枚目のフルアルバム『IKI』をリリースする。
発売前にYouTube上で一日一曲ずつティザー映像を公開し、メンバーがTwitter上で曲紹介を行うなど、すでに話題を呼んでいる今作。
MEETIAではこのタイミングでメンバー4人へのインタビューを敢行。
アルバムに込めた思いを語ってもらった。
(写真は左から、シノダ、イガラシ、wowaka、ゆーまお)
Interview&Text_Sotaro Yamada、Arato Kuju
Edit_Sotaro Yamada
(Studio LIVE “IKI” Session ダイジェスト。貴重なスタジオセッションの様子。)
僕は、何か「許された」というような感覚を得たんですね(wowaka)。
ーー今年二枚目のフルアルバム『IKI』聴かせていただきました。本当に素晴らしいアルバムで、これまでの最高傑作だと思いました。ヒトリエというバンドが新たなステージに入ったとも感じられる作品です。そこでまずお聞きしたいのは、前回のアルバム『DEEPER』から、どういう過程を経て『IKI』に辿り着いたのか、ということです。
wowaka:今年の2月に『DEEPER』を出して、その制作の終盤に『IKI』に入ってる曲が少しずつ出来始めたっていう状況でした。その辺りから、今までと違ったモードで、より伸び伸びと製作できるようになったんですね。
そうして今年の初めから半年くらいかけて曲ができてきて、『DEEPER』のツアー『one-Me Tour “DEEP/SEEK”』が終わって、「STUDIO COAST」(新木場)でファイナルやって、でじゃあ次何しようかという時に、今のこういう変化や状況をぎゅっとアルバムに詰め込んで今年の末に出すくらいのスピード感と勢いでやった方がいいんじゃないかなという話になって。それで本格的に制作始めたのが今年の7月とか8月とか、そのへんですね。
もともとストックしてた曲の中からいくつかレコーディングを始めてる中で、同時に、8月から9月くらいに新しい曲を数曲作って。最後の方にできた曲たちも含めて、10曲入りのアルバムになったっていう。
――前半の曲が先にできてたんですか?
wowaka:いえ、順番はバラバラです。
――ちなみに、最初にあった曲はどれですか? Twitterでの発言から予想すると、『Daydreamer(s)』だと思いましたが。
アルバムの中では一番くらい最初からあった曲。イガラシにこの曲が好きだから録りたいと10ヶ月間言われ続けました 感謝。https://t.co/rNqVcnpVk6
— wowaka (@wowaka) 2016年11月19日
wowaka:『Daydreamer(s)』もわりと最初の方からあったけど、もっと前からあったのは『さいはて』なんじゃないかなあ。
イガラシ:そう、『さいはて』だね。
wowaka:この曲は、2014年に『WONDER and WONDER』を作ってた頃かな?
シノダ:そんな前だっけ(笑)。
wowaka:その頃に、デモとしてワンコーラス分のメロディとオケができたんですけど、なんだかうまくハマらなくて。それで眠ってたのを、今歌える言葉があるっていうところで乗っかった曲ですね。
――個人的に『さいはて』が今回のアルバムの中で一番好きな曲なので、話が逸れてしまいますが、少しだけこの曲について聞いてもいいですか?
この曲って「僕」と「君」の物語になっていて、「君」への肯定がものすごく強いなと感じてて。でも、このアルバムの前半の曲、『KOTONOHA』とか『心呼吸』は、「吐き出す」ことがモチーフになっていますよね。『KOTONOHA』のサビは「言葉、言葉、吐き出してただ/届け、届け、まだ見ぬ人へ」、『心呼吸』のサビは「この世生きる終の日まで/息を吸って吐いて、呼吸をやめないで」です。「吐き出す」ことの背景には、何か辛いものがあるような感じも受けるんです。その流れでアルバムを聴いていくと、『さいはて』のこの肯定感ってすごいな、何なんだろう、と思っていて。
それで聞きたいのは、まず、ここでいう「君」っていうのは、誰を、もしくは何をイメージして作ったのかなっていうことなんです。
wowaka:僕はいつも自分の中に、自分自身と、それをまとった本当の自分、真ん中にいる自分を感じてるんです。本当はもっと主張したいんだけど出て来られない自分みたいな。それに対しての苛立ちとか葛藤とか、モヤモヤしたところを吐き出すってことは、ある意味、いつもやってきたことなんですね。そういう部分が濃く出てるのが『KOTONOHA』とか『心呼吸』とかあたりの曲だと思います。
最初の話に戻りますけど、『DEEPER』を作り終えて、この四人で『DEEPER』っていうアルバムを作れたってこと、その後回ったツアーをやりきれたこと、そして、そこで生じたお客さんとの関係を経て、僕は、何か「許された」というような感覚を得たんですね。
今までは、音楽作りだったりライブだったりっていうのを、本当の意味で楽しめてなかったのかもしれないなと思って。そういうのを全部取っ払って、ただただ「ああ幸せだな、楽しいな」っていう状態になれたのが、ある意味、新木場の「STUDIO COAST」が初めてだったのかもしれなくて。
それを経て、自分の嫌な部分とか、葛藤とか苛立ちみたいなところも含めて認めてあげられる、もっと真ん中の自分みたいなのがいるんじゃないかなっていうところに気づいたというか。そういう喜びに近いものが生まれたのが、僕の今年の流れだったんですね。
で、そういうところの今の言葉がどさっと出て来て、2014年に書いた自分のメロディにぴったりハマったのが『さいはて』だったんじゃないかなと思ってますね。
――それは相当大きな変化なんじゃないかと思います。みなさんは『DEEPER』のツアーを経たことで変わったことって何かありますか?
シノダ:なんでしょうね、単純にもう、しこたま楽器ばっか触ってたなみたいな感じなんで。気づいたら『IKI』の制作にも入ってたし。変わったことといえば、よりこのバンドで演奏するとかライブするとか、そういうことに対しての迷いや恐れがどんどんなくなっていく感じはありました。
イガラシ:僕も同じような感じです。やっぱ『DEEPER』っていうのが結構、内向きに、深いとこまで突き詰めて行って完成したアルバムだったんで、すごい満足度が高かったんですよね。それを持ってツアーを回るとなった時に、やっぱりそのアルバムを核としたライブを見せたいわけじゃないですか。
だから、あんまり自分っていうものを出したくないというか、俺の「演奏してて楽しいです!」みたいな感情とか、そういうのは別に伝わんなくていいと思ってて。ほんと、曲の一部になれるようなパフォーマンスを意識してやってたんです。
それでツアーファイナルまでやって、やりきった時に、アルバムが完成した以上の達成感っていうのがあって。そのあとはもう、やりきった後の開放感。もっと自由になろうみたいなフェーズになりました。
ゆーまお:俺も同じようなこと言おうとしてんすけど、まとまりきらないですね。
俺にとって音楽活動って全部延長線上でしかないんですよね。で、三人が言ったこととスタンスは違うように聞こえるかもしれないんですけど、状態は一緒なんですよ。
ライブを経て、特にそこで切り替わったとか、そういうのではないんですけど、制作の仕方が明らかにちょっと違ったり、感じるものがちょっと変わっていって。
「こうしよう、ああしよう、変更しよう」というのではなく、制作してる時に「あれ、なんかいつもと違う風にやっていいんだ」とか、「今まで聞いたことないことが自然に起きてるんだ」っていうことが多かった。特にそういう話をメンバーとしたわけではないんですけど、感じてはいたんですよね。
wowaka:結局、ゆーまおが言ったように、パチンと切り替わったわけでもないんですね。みんな延長線上だし、やって来たことがあるから。そうして積み重ねて来た中で変わっていく。
タイトルの『IKI』とは?
――では次に、アルバムタイトルの『IKI』について聞かせてください。このタイトルにはどんな意味や思いが込められてるんでしょうか? ヒトリエの曲はダブルミーニングであることが多いですよね。なので、ちょっと斜めから見ると、『IKI』とは、『DEEPER』で深めた音楽的な「域」の広がりと定着を意味してるのかな、と思ったんです。あるいは、閾値の「閾」。
wowaka:あー、なるほど。いや、メインに考えてたのは「呼吸」の「息」と、「生きてる」の「生」だったんですけどね。
『IKI』っていうタイトルは、アルバムが出来上がってから付けたタイトルなんです。
ヒトリエの作品というのは、その時点その時点での僕の状態がそのまま出てることが多いんですけど、今回は自分の中で、ある種の開けというか、他者に対する歩み寄りができた作品のような気がしてます。正確には、歩み寄れるかどうかはこの後次第なんですけど、そういう「行きたい」ところができたアルバムなのかなあと思って。
ゆーまお:これは俺の言葉になっちゃいますけど、制作の過程におけるwowakaとの関わり方が今までとは違うっていうのは絶対にありますね。『DEEPER』の時は、もうちょっと委ねられていた。wowakaに「これどう?」って聞いて、NGなのかOKなのかみたいな、わかりやすいやり取りだったんですね。
wowaka:ある種、システマティックなね。
ゆーまお:そう。でも『IKI』の内容に関しては、作品に対してのコミュニケーションがもうちょっとある。そこは明らかに今までと違うんですよ。
イガラシ:並走してた感じだよね。
ゆーまお:「こうじゃなきゃダメ」っていう縛りと決まりが、前より薄くなった気がします。言ってみれば、wowakaの精神状態が変わったっていうことを表しているっていうようなタイトルだなって。今wowakaの話を聞いててもそう思いました。
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