2016年、NICO Touches the Walls(以下、NICO)の2016年は、1月の自身3度目の日本武道館ワンマンを成功させ、3月の3年ぶりとなったオリジナルアルバム『勇気も愛もないなんて』を経て、『まっすぐなうた』『渦と渦』『ストラト』とコンスタントにシングルをリリース。フロントマンの光村龍哉(Vo.&Gt.)いわく「『勇気も愛もないなんて』から、明確にすっぴんの自分たちへと完全に振り切れた」いう、4ピースバンドたる原点に立ち返った存在回帰の1年となった。
その終盤を締めくくるニューシングルが、11月30日に発売の『マシ・マシ』だ。現在放送中のバレーボールアニメ『ハイキュー!!』とは、『天地ガエシ』に続いてエンディングテーマでは2度目のコラボレーション。MVに全日本男子バレーボールチームのスター、柳田将洋選手と山内晶大選手の出演も話題を呼ぶ『マシ・マシ』と、バンドの今について光村龍哉、古村大介 (Gt.)、対馬祥太郎 (Dr.)、坂倉心悟 (B.)が語ってくれた。
Text_MIKA ABE
6年前の武道館公演の悔しさを、音楽に素直に吐き出せるようになった変化。
――ニューシングル『マシ・マシ』を聴かせていただいて、直感的にNICO Touches the Walls(以下、NICO)の曲のメッセージの投げかけ方がかなり変わってきたのかな?と思いました。と数えてみると、結成からもう12年が経っている。その中での変化を、自分たちはどう捉えています?
光村:どんどんカッコつけなくなっていってる感じはしますね。歌いたいことも、曲のアレンジも素直になったというか。バンドを組んだときはまだ10代だったので、バンド名も含めて自分たちをちょっと気難しく見せていたところもあったんですけど、素直に自分たちを音楽の中に詰め込んでいけるようになりましたね。とくに今年の春、アルバム『勇気も愛もないなんて』が出たときからは、明確にすっぴんに振り切れた感じはします。
――それまでは、素直になることに抵抗があった?
光村:そうですね、カッコよくありたいと思ったし、自分たちにもそんなに自信がなかった。ちょっとしたファンタジーを演出してるつもりが、ステージを降りたらただの兄ちゃん、みたいなコンプレックスもありましたしね(苦笑)。ただのあんちゃんだからこそ、カッコいいものにものすごく憧れて、自分たちもそうありたいというロマンは強かったと思う。でもロマンだけでは続かないと思う局面もあったし、曲を作れば作るほど、お客さんに対して素直な自分たちでありたいという気持ちもどんどん強くなっていった。そういうなかでの変化だったと思ってます。
――大きな転機のようなものもあったんですか?
光村:僕の中では、2010年の初の日本武道館と今年1月の2回目の武道館ですね。6年前の初武道館は大成功で!……と思ってフタを開けてみたら、チケット8千枚を売り切れなくて。そこで2度目の武道館を「あのときのリベンジだ!」と銘打って、チケットを9千枚以上売り切ったというのがひとつ大きい。ロマンだけで言えば、売り切れなかったことは別に言わなくていい。でも今回は、あのときの武道館が「悔しかった!」という気持ちを、音楽としても素直に吐きだしていったんです。昔の僕なら、「そういうのは……どうかな?」と思っただろうけど。
――ということは、書く曲の内容も変わってきました?
光村:そうですね。どんどんリアルな言葉を詰め込んでいくようになりました。それまでは、1度使った言葉は2度使いたくないとか、自分の中でルールがあったんですけど、最近は「ま、いいかな」みたいな(笑)。
『マシ・マシ』の「あとはきみしだい」というフレーズは、僕らの大きなメッセージ。
――光村さんの変化が『マシ・マシ』にも如実に表れている気がしますね。肩の力が抜けているというか。
坂倉:今までの曲はすごく奮い立たされる感覚があったんですけど、最近の曲の中でも『マシ・マシ』はとくに、奮い立たされるというよりは、背中を押してもらってる感覚になりますね。言葉ひとつも柔らかい響き方をしているなと、今、話を聞いていて思いました。
対馬:そういう意味でも、みっちゃん(光村)の変化が少なからずみんなの変化にも繋がっていく。それはバンドにとっては大きい変化ですよね。
古村:だから『マシ・マシ』は、一番等身大だなって感じますね。今までは、エネルギーの矛先が爆発的なものが多かったんですけど、この曲はエネルギーの爆発というより、いま歩いてる場所をちゃんと見つめ直している感覚。曲調も歌い方もそうだし……直線的だったものが、もっと放射的になったイメージですね。
光村:曲のスタイルも変わりましたね。今までは、起承転結を1曲の中で完結させないとスッキリしなかったんですよ。すると、歌っていることは変わってなくても、いろんなタイプの起承転結を考えるたびに曲の内容がどんどん遠回しになるし、比喩がわかりづらくなっていった。それは僕が音楽で表現したいことではないなと、去年30歳を過ぎて、より思うようになったんです。だから『マシ・マシ』では歌詞で「あとはきみしだいです」と歌ってますが、あえて曲の中でケリをつけないことで、胸の奥のモチベーションみたいなものに火をつけたかった。僕ら自身が、「あとは君次第」な大きな選択をしなければならない場面にたくさん出会い、経験を詰めた今だからこそ、自然とこの歌詞が書けたのかなと思いますね。
――『マシ・マシ』は『ハイキュー!!』という、非常に人気のあるバレーボールアニメのエンディング主題歌。『天地ガエシ』も以前、同作品のエンディングに起用されていましたが、作品はどのくらい意識するものですか?
光村:『天地ガエシ』のときもそうでしたけど、そもそも僕は体育会系の要素をひとつも経験してないので、まず体育会系の要素を自分の曲調とか歌詞の中で作っていくことは、最初から諦めてました(笑)。とはいえ、ロックバンドと体育会の部活って、チームプレイならではの人間関係、信頼関係もあれば、ライブはスポーツの試合に近かったりして共通項はたくさんある。だから自分たちのことを歌えば、自然とリンクする。ほんとに自分たちのことだけを考えて書くほうが、作品のファンにも一番伝わるんじゃないかと。
坂倉:だから曲を最初に聴く僕も、ここに書かれているのは自分のことだなと思って受け止めてますね。『マシ・マシ』も、「あとはきみしだい」と歌われて、「ああ、自分次第だよな」と。
古村:すごく引っかかりますよね、「あとはきみしだいです」というサビは。
光村:僕も、「こう自分が言われたらどう思う?」と思いながら歌ってる。そして、あえてシリアスに歌わないことで、「自分次第か……ううっ」と深刻に考え込みそうなところを、力をフッと抜いてあげたいというか……。そこをAのメジャーキーにしたのも、ポジティブさの表現で。マイナスなことも「君次第でいくらでもマシに考えられるよ」と、曲でも感じさせてあげたかった。キー選びも毎度難しいんですけど、歌いたいことの温度感によって上げたり下げたりしてるんです。今回はとくに意識して作曲してますね。
対馬:そう。曲調が違ってたら、もっと冷たく突き刺さる言葉になっていたかも知れないです。でも、この曲を最初にみっちゃんが持ってきて一緒に演奏したときに、音楽を楽しむ愛を感じたんですよね。メッセージが真っ直ぐ伝わる愛情を。だから「あとはきみしだい」は、バンドにとってもひとつの大きなメッセージだなと思ってます。
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