「メンバーは気心の知れきった友達やし、挨拶せんでも気を使わなくていい家族みたいな存在ですね」というラックライフ。高校の同級生だったPON(Vo&Gt)、イコマ(Gt&Cho)、たく(Ba)、LOVE大石(Dr)の4人が始めたギターロックバンドは、大阪を拠点にライブ活動をメインとしながら活動を続け、結成11年目となる今年3月、満を持してのメジャーデビューを果たした。
11月2日リリースの彼らの3rdシングル「風が吹く街」は、スマッシュヒットとなった3月のデビューシングル「名前を呼ぶよ」に続き、アニメ『文豪ストレイドッグス』のエンディング主題歌としてオンエア中。誰もが共感できる内省をストレートな歌詞と美しいメロディー、シンプルなバンドサウンドにのせて贈るラックライフの音楽は、切なさと希望が交錯しながら、鋭く胸を突き刺す。11年間、彼らが気づき、築いてきた変わらぬ想いをしたためた「風が吹く街」を、バンド全曲の作詞・作曲を手がけるPONが語ってくれた。
インタビュー・文/阿部美香
この10年間がしんどかったからデビューシングルはめちゃめちゃ感動した
――今年3月のメジャーデビューから半年以上が経ちますが、バンドに変化はありましたか?
PON:それが……驚くほど何も変わってないんですよね。高校時代からメンバーも変わらず11年くらい一緒にいるんで、そこで何かが変わることもないし、相変わらず、自分たちで機材車を転がしながら、年間数十本以上全国回ってライブばかりやってるんで、調子にのるヒマもないんですよ(苦笑)。
――根っからのライブバンドですね(笑)。デビューシングルの「名前を呼ぶよ」は、エンディング主題歌となっていた『文豪ストレイドッグス』のファンからも非常に好評で、「こんないい曲を書くバンドが大阪にいたんだ!」と衝撃を持って受け入れられていましたね。
PON:そう、今まで僕らを知らない方にも、聴いてもらえてすごくありがたいなと思います。「名前を呼ぶよ」は、メジャーデビューするにあたって、今まで出会った人たちみんなの顔を思い出しながら書いた曲なんです。
書いているときは無意識でしたけど、ライブで初めてこの曲を歌ったとき、「俺は、こうしてライブハウスに来てくれている、この人たちに曲を書いたんや」と気づいて、めちゃめちゃ感動したんです。10年、コツコツ大事にライブをやってきて出会った人たちと一緒に生きてきたことを、メジャーデビューシングルにできたことが、とてもうれしかったですね。
――それも自分たちが10年間培ってきた、確固たるラックライフの音楽があってこそですよね。
PON:うん、めちゃめちゃしんどかったですからね。僕ら、絵に描いたようなツアーバンドやったから、年間120本くらい回ってたんですよ、全国を。実家から炊飯器持ってきて、缶詰で暮らしながら。ツアーのブッキングも、半年でツアーを100本やっちゃうようなバリバリのメロコアシーンの先輩を見てきたんで、バンドやるんやったら、そうせんとあかん!という洗脳術にかかってた(苦笑)。
――洗脳ですか(笑)。
PON:いや、ほんとにバカでしたよね(笑)。19、20歳の初ツアーでいきなり50本くらい組みましたから。でも無名のバンドがいきなりよその土地に行っても、お客さんなんか来るわけがない。3~4人しかいないのに、3人いるうちのひとりが途中で出ていったりして、終わればライブハウスの人にボロカス言われ。そこから、少しずつお客さんが増えて……というなかで出会った人たちがいての「名前を呼ぶよ」だったんで、感激でしたよね。
3rdシングル「風の吹く街」は過去の先っちょにいる今の僕の歌
――デビューからのシングル3曲はすべてアニメ主題歌ですが、曲作りで変わったことはありますか?
PON:いや、曲作りも前と何も変わっていなくて。映像に合わせる主題歌やから、どうしてもワンコーラスの長さの制限はあるんですが、歌っている内容も音も、すごく自由にやらせてもらっているんです。ありがたいですね。
――とはいえ、原作やアニメがあっての楽曲ではある。そこにはどう向き合っているんですか?
PON:基本的には、原作を読ませてもらって書き下ろすんですけど、大事にするのは第一印象で。出てくるキャラクターの心境と、いつかの自分の心境が似ているところを探して、ヒントやきっかけにしている感じです。自分の歌いたいことを、日々生きながら見つける作業って、すごく大変じゃないですか。でも作品がヒントしてあると、僕がふだん生きてたら通り過ぎてしまうようなことにも気づかせてもらえるし、自分を掘り返させてもらえる。ちょっとラクさせてもらってる?……みたいな感じもありますね(笑)。
――ニューシングル「風の吹く街」は、疾走感とエモさにあふれたギターロック。どのように作りました?
PON:『文豪ストレイドッグス』という作品では2曲目になるので、前回とは違う目線で書こうと、あらためて原作と小説版を読み返したんですね。
――『文豪ストレイドッグス』は、古今東西の文豪の名を冠した異能力者たちが所属する組織同士が、横浜を舞台に熾烈な戦いを繰り広げるお話でしたね。
PON:はい。今、ご覧になっている方はご存じかと思いますけど、2期はメインキャラクターの太宰治が、友人の織田作之助の死をきっかけに、非情な組織から道を改めていくきっかけから、話が始まっているんです。
――歌詞に漂う喪失感は、そのエピソードと自分の経験を引き合わせて生まれたもの?
PON:そうですね。自分たちがバンドをやってきたなかで、もう会えなくなってしまった人がたくさんいるんですよ。各地で出会ったバンドが解散したり、ライブハウスで出会ったお客さんが結婚し、子どもができて来れなくなったり。そう思うとすごくさびしくなるんですけど、あの頃の出会いがあったから今があるなと。
――歌詞に「共に生きた日々の 未来がここにあるよ」とありますね。
PON:そう、その「未来」は今のこと。過去のいちばん先っちょの未来が、今の自分なんです。だから、今の僕が胸を張って歌わなあかん、と思ったんですね。
――そんな、共に生きた日々の中で、歌詞にもある「君がくれた言葉」がもらえたのかな?と思いました。
PON:そうですね。それって、すごくさりげない言葉だったりするんですよ。先輩アーティストが「PONはPONのままでいい」と言ってくれた言葉や。お客さんからの「今日のライブで、明日からまた仕事頑張れます」という言葉とか。たくさん耳にしてきた言葉も、もらったシチュエーションや心境によって、とてつもなく大事なものになる。だから一緒に過ごしてきた人たちの言葉をちゃんと自分のものにして、今を生きないとあかん。そういうところからも生まれた曲ですね。
――タイトルの「風が吹く街」というのも印象的ですが、この「風」は?
PON:風って、どこでも吹くじゃないですか。だから、この曲を聴くみんなが同じように感じられる言葉かなと。あと、僕、基本的に川とかで曲作りするんですよね。家やスタジオでも書くんですけど、基本的には、アコギ担いで、チャリンコで5分くらい走ったところにある河原の橋の下で、昼でも夜でもジャカジャカやって曲作りしてて。だから、いつも風が吹く外のイメージが僕のなかにある。曲作りしながら物思いにふける場所が川だったり、自転車に乗りながらとか外にいるときに、いろんなことを思い出したり、励まされたり、落ち込んだりする。だからフッと出てきたんですよね。「風が吹く」という言葉が。
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