マーティン・スコセッシ『Silence-沈黙-』の公開日に、ようやくフラットに戻れた
ぽおる : 事故のあと、役者に復帰されたのはいつですか?
窪塚 : 入院中は「足を切断するかも」みたいなことを言われていたんだけど、結局全部治って、3ヶ月で退院して、1年くらいはリハビリをしていた。その後、東映が映画の話をくれて『同じ月を見ている』という映画で復帰したんだけど、でもやっぱり「やっちゃった奴」みたいな見られ方をしていて。
ぽおる : そうだったんですか……。
窪塚 : そのあいだに蜷川幸雄さんの舞台に誘ってもらったりして、いろんな作品に出ながら少しずつ復帰していった。やっとフラットに戻ったかなと思えたのは、マーティン・スコセッシの『Silence-沈黙-』が公開された日の朝かな。完成披露試写会のために大阪から東京に向かっている時、関ヶ原のあたりで雪が降っていて、あたりが真っ白に積もっているのを見た時に「ああ、戻った」と感じた。あの時から再スタートした感じがしている。
ぽおる : マーティン・スコセッシからはどんな感じで話が来たんですか?
窪塚 : オーディションだったんだよね。「控室です」って案内されたところが会場で、俺、ガム噛んだまま入っちゃって。「あれ?」と思った次の瞬間には、向こうからキャスティングプロデューサーがやって来て「マーティン・スコセッシはお前みたいな無礼な若者がいちばん嫌いだから!」って。周り、シーン……。まじサイレンスじゃん、何これ……っていう重い空気の中で芝居したんだけど、その空気に飲まれちゃって全然自分がやりたいようにできなくて。マネージャーと「俺ら騙されたよね? 控え室だって言われてたじゃんね」なんて文句言いながら帰ったんだけど、案の定、翌日にダメでしたって連絡があって。でもその2年後に「もう1回オーディション受けてくれ」って連絡があって。まだオーディションをやってることに驚いたけど、本当に重要な役だからマーティン・スコセッシが決めかねていると。だからもう1回みんなに声をかけているんだと。もう、次はガムなんて絶対噛まないぞと思いながら行ったら、今度は結構トントン拍子で進んでいって。
ぽおる : 2年後……3年くらいオーディションをやっていたわけですか。
窪塚 : うん、でもあの人は構想から30年近く抱えていたわけだからね。
ぽおる : マーティン・スコセッシが人生を賭してつくった作品に参加したということですもんね。
窪塚 : うん、そう、あの人が激落ちした時に神父さんから渡された小説が遠藤周作の『沈黙』で、それが自分を救ってくれたと。だから必ず映画にするんだということで原作をすぐに買い付けて、ずっと権利を持っていたんだよね。あの人が自分から熱望して撮った映画は生涯に3本あって、それが『レイジングブル』『最後の誘惑』『Silence-沈黙-』。ずっとスコセッシの大ファンだったから、そんな作品に参加できたのは本当に嬉しかった。
窪塚洋介にとって外せない映画
ぽおる : ちなみに、窪塚さんに影響を与えた映画を3本選ぶとしたら、何ですか?
窪塚 : うーん、それは難しい質問だね。自分が出演した作品は置いておくとすると、まずは『寝ずの番』。ある葬式の一晩を描いた映画で、津川雅彦さんが監督の作品(※監督名義はマキノ 雅彦)。衝撃的に面白い映画で、みんなが笑ってるシーンでめちゃくちゃ泣けて、みんなが泣いているシーンでめっちゃくちゃ笑える。表現の妙を見せてもらった映画。すごく影響を受けていると思う。
ぽおる : 寝ずの番、すごく面白そうですね。
窪塚 : カート・コバーンの最後の2日間を描いた『ラストデイズ』も好き。あれは、自分が映画監督をやってみたいと思うきっかけになった作品だった。もう1本選ぶとしたら、SFが好きだから『コンタクト』か『インターステラー』かな。本当はもっといっぱい候補があるけど、今思い浮かんだのはそれ。
ぽおる : 3本に絞るって難しいですよね。わかってはいるけど振っちゃいました(笑)。
窪塚: : 振り逃げだよ(笑)。
ぽおる : 僕は、漫画『ウダウダやってる暇はねェ!』から勉強させていただきます。
窪塚 : 『ウダウダやってる暇はねェ!』は絵がすごく良くて、アマギンが本当にカッコ良いんだよ。ヤマハのSRに乗って日本刀持って、滑車のついたエンジニアブーツみたいなのを履いてて。俺が子どもの頃に最初に出会ったスタイリッシュでクレイジーなキャラクターなんだよね。
ぽおる : それは知ってないと感じ取れないですね。コロ助は感じていたんですけど。
窪塚 : あと実は、キングはブリってる役という裏設定にしていて。それはマリファナのネックレスに現れているんだけど。でもアニメの第1話を見たら「そんな奴は許せねえ」みたいなストーリーだった(笑)。
ぽおる : Gボーイズのルールブックにもありますよね、「この世にはびこるあらゆる薬物を悪とみなし、これを使用あるいは売買に関与することを禁ずる」というのが。ドーベルマン山井が薬を売る回です。
窪塚 : ああ~、そうか、そうだったね、俺より覚えてるね(笑)。
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