神に背中を押され、マンションから落とされた
ぽおる : まず、窪塚さんが音楽をやるきっかけになった「ぶっ飛んだ1曲」を知りたいです。
窪塚 : 1曲と言われると難しいけど、10代の後半から20代の前半にかけてヒップホップに出会ったことはかなり大きいと思う。それまでは普通にJ-POPとかメロコアとかハードコアを聴いてたんだけど、裏原宿の仲間と出会って、彼らがヒップホップ業界と繋がっていたんだよね。当時は毎日のように渋谷のHARLEMに行っていた。HARLEMから現場に行って、終わったらまたHARLEMに帰るような生活をしていて。そうやってどっぷりハマっていた時、ラッパーたちにすごく憧れて。俺も夜にこういう場所で歌えたらなあと漠然と思うようになったんだよね。それから数年経ってヒップホップ業界の人たちと交流ができて遊ぶようになったら、余計に憧れが強くなって。こっそりリリックを書き始めるようになったんだよね。
ぽおる : へえ!
窪塚 : 家でちょっとビート乗っけてラップしたりするようになったけど、でもそれは誰にも言えなかった。そうこうしているあいだに、自分のマンションのベランダから落っこちちゃって、結構、大怪我しちゃって。
ぽおる : いや結構というか相当ですよね(笑)。当時僕は、事故現場の図を書いて、なぜこの距離で生き延びることができたのかまじめに友達と検証していました。
窪塚 : それはもう、なんかちょっと泣いちゃいそうな話だな……。
ぽおる : 討論の結果「神に愛されていたから」という結論に落ち着きました。それ以外、説明がつかない……。
窪塚 : リリックを書いていることを周りの人には言えなかったけど、実は、V.I.P.というレゲエの老舗レーベルの人たちとレコーディングを進めている最中だったんだよね。落ちた当日は雨が降っていて、撮影でアメリカに行く日だった。荷物もしっかり用意していて、今年17歳になった長男がまだハイハイしていた頃で、自分がワカメの味噌汁を飲んだことまでは覚えてる。気が付いた時は病院のベッドの上で、3日経っていた。「なんだこれ……?」って感じ。
ぽおる : ええ……。
窪塚 : そういう状態から復活するために、歌を歌わなきゃ、レゲエをやらなきゃと思った。周りにいた人たちはサーっといなくなっていったし。この山を越えないと道が何もない、という状態だったんだよね。それで逆に気合が入ったところもある。だから、今となってはすごいギフトだと思ってる。神に「行ってこい!」って背中を押されて落とされたような感じだね。
レゲエに見た、さらけ出し方のカッコ良さ
ぽおる : すごい話です……(笑)。でも音楽の入りはヒップホップだったんですね。僕は勝手にレゲエだと思っていました。だからHARLEMで毎晩遊んでいたというのは意外です。
窪塚 : それこそRHYMESTERとかKGDR(キングギドラ)とか、SOUL SCREAMとか、そういう人たちからの影響の方が早かった。当時、原宿にHECTICというスケーターの店があったんだけど、そこで働いてたマガチンという人がHARLEMでDJをしていて。早朝、パーティーのあとにベロベロになったマガチンを家まで送って、そのまま泊まらせてもらうことが多かったんだけど、ある時マガチンが「ジャマイカ行くけど、洋介も行く?」って言うからついて行ったんだよ。それで決定的にレゲエにハマった。
ぽおる : 行ってみてどうでしたか?
窪塚 : ジャマイカはレゲエのテーマパークみたいだった。有名なアーティストがその辺に普通にいて、そのグルーヴというか空気感やシーンがすごく面白く感じた。俺の中ではヒップホップはカッコ良い音楽で、カッコつけることが当たり前だったけど、レゲエはダサカッコ良いというか、寝起きにパジャマでライブしてもカッコ良く見えるような音楽だった。自分にはそっちの方が性に合ってんのかなと感じてのめり込んでいったんだよね。
ぽおる : 「ダサカッコ良い」にはすごくシンパシーを感じます。僕もヒップホップにハマってからロックに行ったんですけど、たとえば「ブルースってのは、どうしようもない困りごとを言うのさ」(スパイク・スピーゲル『カウボーイ・ビバップ』)みたいな言葉に食らって、泥臭いライブをやるようになりました。ジャマイカでは他にも音楽体験があったんですか?
窪塚 : うん、俺の3枚のアルバムはジャマイカでミックスしてるんだよね。『Rockers』という有名なジャマイカの映画があるんだけど、その作品に出演しているドラマーがふらっとスタジオに遊びにきたりするの。それで「お前ら収録してるのか? じゃあ俺が音入れてやるよ」とか言ってくれて。「マジで!? 超入れてほしい!!」って言ったら、バーっと音入れして、「はい、1万円」って。いや、金取るのかよと(笑)。でもそういうの含めて良いと思ったんだよね。そうやって自分の気持ちがどんどん雪解けしていって「なんか俺、まだ肩肘張ってたんだなあ」と気付いた。
ぽおる : なるほど。
窪塚 : さらけ出し方が俺にはカッコ良く感じられたんだよね。たぶん俺は、マンションから落っこちて怪我をしちゃったことに対して言い訳をしたがっている自分に気付いていて、それがすごい嫌だったんだよね。でも、すげえストレートでそのまんまなジャマイカ人たちを見ていたら、そういう呪縛から解放される気がした。その時俺、超安い売春宿に泊まってたんだけどさ。
ぽおる : 売春宿!
窪塚 : 向こうはそういうカルチャーなのね。で、部屋に帰ったら知らない男が寝てたり、知らない女が便所で立ちションしながらでかい屁をこいてケツ叩いてたりして。「いや誰だよ? ここ俺の部屋なんだけど?」な状況なんだけど、なんか生命力がすげえなと(笑)。そういう体験をしたら元気が出てきちゃって。もうちょっと根本的に元気にならなきゃと思ったんだよね。
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