ライブDVD『日本武道館「一本」』に見た、yonigeの音楽に対する姿勢
yonige武道館ライブの開幕を飾った楽曲『リボルバー』
yonigeの武道館ライブはファンの熱狂が渦巻くなか、人気曲の『リボルバー』からスタートした。開始からまもなく、目の前の光景に圧倒され、歌詞が飛んでしまう牛丸。その日を迎えられた感動と、始まるまでの不安から解き放たれた安堵、緊張、喜び、あらゆるものが入り混じった彼女の心中をその表情に垣間見れた。特典のドキュメンタリー映像では、「(決定するまで)武道館ライブに特別な思い入れはなかった」と語っていた彼女。それでも、このステージにはそこに立った人にしかわからない鮮やかさがあるのだろう。ライブやその映像から感じられるのは音や言葉だけではない。最初の音が鳴ってから15秒後の世界に、初の武道館ライブまでの2人の想いが駆け巡っていた。
13曲目に演奏された楽曲『沙希』
対するごっきんは、自分が出す音、バンドが出す音にただ身を任せる。彼女によると、「自分は心臓がちっちゃいタイプ」なのだそう。目の前の光景に想いが溢れてしまった牛丸と、音といっしょなら心臓が小さくとも堂々と演じきることができるごっきん。ステージ上の2人の対比がとても印象的だった。
ドラマーの脱退以前、2人に現在のような関係性はなかったという。ごっきんは牛丸に全幅の信頼を寄せ、牛丸はごっきんがいるからこそ自由な自己表現ができる。2020年8月13日の日本武道館、ステージ上の2人のあいだには、その信頼関係に裏付けられた独特の空気が横たわっていた。
20曲目『春の嵐』の演奏を終え、ライブは終幕へ
この武道館ライブは、これまでの編成(牛丸、ごっきんと、ドラムのホリエ)にギターの土器大洋を加えた4人でバンドが構成されている。MCでごっきんは、「(賛否両論あるとおもうが)大人になってしまい、やりたいことが増え、もうひとつ手が欲しくなった。いまとてもバンドが楽しい」と口にした。
とはいえ会場の規模を考えれば、もっと大掛かりなバンドアンサンブルでも臨めたはずだ。特別なステージをあえて最小限の編成で迎える理由には、きっと彼女たちなりの音楽やライブに対する想いがあったのだろう。8,000人にもなる観衆の前にあったのは、小さなライブハウスと変わらない距離感でおこなわれる、特別だけど特別じゃない、いつもどおりのyonigeの姿だった。
名刺代わりの楽曲「アボカド」の存在や、ガールズバンドであることなどが持て囃されがちな彼女たちだが、届けたいのはきっと着飾った姿ではなく、ありのままの自分たちなのだ。この武道館ライブはyonigeにとって特別な意味を持っていくのだろう。6年目のマイルストーンを打ち立てた先に、確かな未来の存在を感じずにはいられなかった。
ライブDVDと同時リリースされた2ndフルアルバム「健全な社会」
Kenzen Na Asa
そして、ライブDVDの発売日と同日の5月20日には、2ndフルアルバム『健全な社会』もリリースされた。メジャーデビュー作となった1st『girls like girls』から2年8か月ぶり、待望のフルアルバムだ。今作で彼女たちはまた新たなyonigeの姿を見せてくれている。
公式ウェブサイトに掲載されたオフィシャルインタビューによると、牛丸は以前、キャッチーな曲を作ることに強迫観念のようなものを感じていたという。メジャーレーベルに所属するアーティストである以上、「売れたい」「評価されたい」という感情を捨てきれなかったそうだ。しかし、ミニアルバム『HOUSE』を制作し始めた頃から徐々にスタンスが変わっていく。「わかりやすくドラマティックなこと」に興味がなくなり、「何でもない日常」をどう曲にしていくかに意識が向くようになってきた。今回発売された『健全な社会』は、そんな牛丸の変化を感じ取れる、示唆的な一枚へと仕上がった。
Akarui Mirai
これまでのyonigeの楽曲は、多くが“君と僕の距離感”をもとに作られていた。恋愛当事者の目線で描かれた生々しい言葉たちが、広く支持を獲得してきた背景がある。しかし今作では、少し俯瞰した視点から世界をとらえたリリックが目立つ。結成から7年が経ち、いっそう視野がひろがってきた印象だ。
“君と僕の距離感”で曲を書き続けることは、日常にドラマがなければ歩みが止まってしまうことでもある。何気ない日常をありのまま音楽へと昇華できるようになり、2人はまた新たなアーティスト性を確立した。
yonigeのディスコグラフィーは、活動とともに2人が歳をくわえてきた年輪のようなものだ。彼女たちは自らの成長をもって、支持を寄せるリスナーに新しい音楽へと触れるきっかけを与え続けているのかもしれない。ひとつの集大成である武道館ライブを終え、yonigeはどこへ向かうのか。その行く末にさらなる可能性を感じるのは、ぼくだけじゃないはずだ。
『日本武道館「一本」』
2020.05.20 Release
¥4,500(+tax)
01. リボルバー
02. our time city
03. 最終回
04. 顔で虫が死ぬ
05. 2月の水槽
06. バッドエンド週末
07. アボカド
08. センチメンタルシスター
09. 悲しみはいつもの中
10.ワンルーム
11.往生際
12.どうでもよくなる
13.沙希
14.サイケデリックイエスタデイ
15.ベランダ
16.しがないふたり
17.最愛の恋人たち
18.トラック
19.さよならアイデンティティー
20.春の嵐EN-1.さよならプリズナー
EN-2.さよならバイバイ【特典映像】
武道館ドキュメンタリー映像
『健全な社会』
2020.05.20 Release
¥2,364(+tax)
01. 11月24日
02. 健全な朝
03. ここじゃない場所
04. Intro
05. 往生際
06. あかるいみらい
07. メリークリスマスイヴ
08. 春一番
09. みたいなこと
10.ピオニー
yonige
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