「You Saved fabric」
2016年11月22日。 Faceboookにポストされたこの投稿に対して、18,849件のシェア、4万以上にものぼる歓喜のコメントが寄せられました。
直訳すると、「あなたがfabricを救った」です。これは一体どういうことでしょうか?
ロンドンのクラブシーンを牽引してきたfabric
そもそも「fabric」とは、世界的に有名な、イギリスを代表するクラブのこと。1999年に創設されて以来、ジャングルや2ステップ、ダブステップなど、その時々のロンドンのアンダーグラウンドなサウンドを発信し続け、『DJ Mag』のTop 100 Clubsでは2007年、2008年に世界No.1のクラブの称号を獲得しています。
ドラッグ事故をきっかけに、営業ライセンス剥奪
そんな名クラブが、営業停止になる事態が発生しました。 今年のはじめ頃、クラブ内で10代の少年がドラッグにより亡くなるという事故が起きたこと受けて、州議会はfabricを「ドラッグの温床」とみなし、営業ライセンスを剥奪したのです。「fabric 営業停止」のニュースはロンドンのみならず、全世界のミュージックラバーたちに衝撃を与えました。
fabric’s summary: “We want to work closely with all the forces for safer clubbing.” #FabricReview #savefabric pic.twitter.com/nncYJH8RVp
— Resident Advisor (@residentadvisor) 2016年9月6日
9月7日。fabric、ロンドン警視庁、イズリントン区議会の間で6時間にも及ぶ話し合いの場が設けられるも、最終的に「ドラッグに対するボディチェックなどが甘く、付与していたライセンスに反していた」という理由で、faabricの営業ライセンスの延長は無効とされ、このまま閉店するのでは、という不安の声もあがりました。
合言葉は #savefabric
これを受けて、fabricはセキュリティー体制の見直しなどを行うと同時に、“Save fabric”の看板をクラブの玄関に掲げ、閉店という事態の見直しを図るためのメッセージを発信。営業ライセンス再取得のための費用を捻出するため、募金や支援グッズを販売するなどさまざまな活動を展開してきました。アーティストによる音源の無料配布や、世界各地でのイベント開催、また、ある青年は24時間耐久で踊り続け寄付を呼び掛けるなど、有名無名、規模の大小を問わず多くの人々が#savefabricのために奔走しました。
#save fabricコンピレーションアルバムには、様々なジャンルで影響力をもつアーティストによる新曲や未発表曲などが合計111曲も収録。オンライン署名には、瞬く間に15万人以上の署名が集いました。そうして、fabricへの寄付や集ったお金は9月末までに£300,000(日本円換算でおよそ4500万円)にも上ります。
キャンペーン自体は横への広がりを見せると同時に、fabricサイドが具体的な改善策を提示し交渉を進行。 たとえば下記のような改善策が示されました。
– 同クラブの入り口で新しいIDスキャンシステムを導入
– 検査方法とコントロールの強化
– 入り口あるいは店内で薬物所持が発見された人物の永久追放
– 店内で薬物を購入しようとした人物の永久追放
– 監視の強化と、外部による運営体制の判定
– 照明の改善や防犯カメラの増設を含む、クラブの物理的変更
– 金曜日の20時から月曜日の8時まで、あるいは主催側が“コア・クラブ・ナイト”として宣伝している日の営業時間は、19歳以下の客あるいはゲストとしての入店を禁止fabricと警察による共同声明より抜粋
fabricの営業再開が決定!
これらの動きの甲斐あって、現地時間の11月21日、ハイベリー治安判事裁判所のRobin McPhee判事によって、fabric、ロンドン警視庁、イズリントン区議会の間で合意が承認されたことが公表されました。つまり、fabricは新しいライセンス条件のもと営業を再開することが可能になったのです!
Fabricが店側に欠点があったと認め、ディレクター陣と経営陣がオペレーションマニュアルの改善を誓約し、そして新しい条件を容認したことから、当局は、事業所ライセンス剥奪の取り消しが可能であると判断しました。Fabricの上訴を棄却しないと決定したのは、こうした理由からです。Fabric Life株式会社は、この一連の手続きにかかった費用をイズリントン区に支払いますが、その費用はサポーターの皆さんから集められた支援金からは賄われません。
fabricと警察による共同声明より抜粋
そして翌日の11月22日。冒頭の投稿によってそのニュースが全世界に伝えられました。
「fabricを救ったのは、あなただ」
この一連の出来事は、直接fabricに関連のない僕のような人間も、勇気づけられるところがあります。
大好きな場所がなくなってしまう危機に陥っても、諦めるのははやい。
僕たちの暮らしには、音楽と文化が集う場所が必要だ
今回の復活劇は、fabricを愛するDJをはじめとした関係者、また、一度でも足を運んだことのある人、そこで忘れがたい時間を過ごした人々による「恩返し」という側面もありました。
クラブに行く習慣がない人のなかには「あんな暗くてただ音がでかくてチャラいやつがいっぱいいる場所なくなればいいのに」という人もいるかもしれません。確かに「チャラ箱」と呼ばれる、あまり行かないほうがいいところもあります。
だけど、本来クラブはカルチャーをつくり、新しい何かが生まれる場所。特にfabricは、17年間イギリスのクラブカルチャーを牽引してきた存在です。
少し稀な例だとは思いますが、今年5月にはfabricで70代の老夫婦が朝まで踊り明かしたというエピソードも話題になりました。
>>Fabricに来店し朝まで過ごした70代後半のカップルが話題に
あらためて、ここまでの署名や支援金が集ったことは、fabricのようなクラブが、場所が、この世界に必要であることの何よりの証明だったと思います。
もちろん、例のおじいちゃんも#save fabricに参加したそう。
営業再開の日程はまだ決まっていないそうなので、今度はそのニュースを待ちましょう!
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