5月24日、SALU(サル)が自身4枚目となるアルバム『INDIGO』をリリースするということで、インタビューを行いました。し・か・し…今回は彼の所属するトイズファクトリーさんから「いつも通りのプロモーションではなく”面白い仕掛け”をやりたい」との要望が! 「なんじゃ、そりゃ!?」と蓋を開けてみたら、“「SALU WEBインタビュー曲解説WEEK」と銘打ち、発売週の5月22日〜26日の5日間、各WEB媒体がアルバム収録曲を2曲ずつ解説していく”という、今までになかった斬新な企画。掲載メディアはMTV、EMTG MUSIC、Qetic、ミーティア、M-ON! MUSICでトータル11曲。「さすがはトイズさん! 考えましたねっ」ってことで、本編をどうぞ。
Photography_TAKUMA TOYONAGA
text_真貝聡
Edit_司馬ゆいか
いつまでも子供でいられない
――5月22日〜26日の間、各WEB媒体がリレー形式で『INDIGO』の収録曲を2曲ずつ紹介するという企画。とても面白い試みですね。
SALU : そうなんです。色んな方にご協力いただけて嬉しいです。
――ミーティアでは、「Good Bye」と「2045」の2曲について話をお聞きしていきます。
SALU : よろしくお願いします。
――まず「Good Bye」はどんな楽曲でしょうか?
SALU : とある友達に向けて書いた曲です。その友達は自分の夢を叶えるために、アメリカへ行こうとしてるんですけど、海外に移って仕事をすることは大変みたいで。そんな、夢と現実の狭間で頑張っている友達に向けた応援歌です。
――これはHIPHOPと言うより、ポップスとしての要素が強いですよね。
SALU : はい、ラップはほぼしてないですね。今、90年代の音楽を改めて勉強してるんですけど、音を聴いて「やっぱり、いいなあ」と思って。これをどうにか次のアルバムで表現できないかなって書いたのが「Good Bye」です。僕としては、当時のDA PUMPさんみたいな感じを表現したつもり。
――90年代の音楽っていうと、DA PUMP以外では何を?
SALU : SPEEDさんの『White Love』、今井美樹さんの『PRIDE』とか、色々と買い漁ってます。20年前って、縦長のパッケージに入った8cmCDをよく見かけてたじゃないですか。あの形が好きなんですよね。
――8cmCDって、久しぶり聞きました。
SALU : 洋服も当時、Kj(Dragon Ash・降谷建志)さんが穿いていたシャカシャカのパンツに、黒いゴムの指輪をしていた頃のような、90’sのストリートファッションを好んで着てます。
――特にDragon Ashがデビューした90年代後半は、「Boon」や「東京ストリートニュース」ってファッション誌が若者のバイブルになってて。ストリート全盛の時代でしたよね。
SALU : そうそう! あの辺のカルチャーがとても好きです。
――今になって、そこに興味を持ったのはどうしてですか?
SALU : 原点回帰じゃないですけど、最近はよく昔のことを思い出したりしてて。自然とそうなってましたね。
――「この若さは永遠じゃない その扉は閉まってしまうのさ もう1秒すら 無駄に出来ないから」という歌詞は、昔を振り返れるぐらい、SALUさんが大人になったからこそ出てきた言葉なのかなって。
SALU : まさにその通りです。いつまでも子供でいられないじゃないですか。29歳の大人になった自分だからこそ、伝えられる言葉だと思います。
――SALUさんが「大人になったな」と感じるのは、どんな時ですか?
SALU : 感情的にならなくなっちゃった時ですかね。音楽の部分では感情的になれるんですけど、普段の生活では怒らなくなりました。
――「なっちゃった」っていうのは?
SALU : 大人って嫌なことがあっても、表面には出さないで合理的に話を進めていくじゃないですか。それを端から見てて、嫌だなって思ってたんですよ。「そうはなりたくないな」って。でも、最近は自分も感情的にならなくなってることに気が付いて。表現の場所でも、そうなったら最悪だなと思ってます。
――本当のSALUさんはどんな人ですか?
SALU : 凄い短気だし、すぐにイライラしちゃう。今までの僕は「自分って心がせまいな〜」と思ってました。いざ、怒らなくなったら、人を許すとかそういう問題じゃなくて、怒ってもしょうがないから腹を立てなくなるんだなと分かってきて。そういう自分が切ないですね(笑)。
――「この人は大人だな」と思うのは誰ですか?
SALU : MC漢(漢 a.k.a. GAMI)さんです。リアルなラッパーなのに、エンターテイメントにも振り切ってて凄いなって。そもそも、エンターテイメントって誰かを楽しませることなので、「(自分のことを)見て欲しい、かまって欲しい」じゃ出来ないんですよ。漢さんは、音楽を仕事として背負っている中で、ラッパーとしてのリアルな核心も持ち合わせてるっていう。その絶妙なバランスこそが、カッコイイ大人の姿だと思うので、僕もそうなりたいです。
――ちなみに、SALUさんが音楽を趣味ではなく、職業として向き合うようになったのはいつですか?
SALU : 2012年くらいですかね。バイトを辞めて音楽しかしなくなった時。もっと具体的に言うと、バイトを辞めてから少し経って「そういえば音楽だけで生活できてるわ」って思った時、音楽が仕事になったんだなって気付きました。当時はプロのアーティストとしてやっていくことに、決意し切れてない自分がいて。「この先、大丈夫かな……」って怖くなりました。
――「怖い」っていうのは何に対して?
SALU : そもそも、「音楽でメシを食べていくぞ」と思って始めたわけではなかったので、「この橋を渡って、そっち(プロ)の世界へ行って大丈夫なの? 落ちないの?」と不安になって。そしたら、もう1人の自分が言うわけですよ。「落ちるかもしれないよ。でも、こっちの世界に行きたいんじゃないの?」って。で、「そうだよな」と腹を括りました。
――大人になると、だんだん現実を見るようになりますよね。特に20代中盤は「 “将来の夢”と“安定した生活”のどっちを取るのか」って選択を迫られる。
SALU : そうなんですよね。考えに考えて踏み出した1歩だと思うから、どっちの選択も全部正解だとは思います。なんとなく、ここ何年かで分かってきたのは「僕は最後までアートの上に残っちゃうタイプの人間なんだな」ってこと。それは、決して良いことだけではなくて、危ないことだなって思うんですけど。「自分に嘘をついて、普通になろうとする方が不健康かな」って。自分が健康体でいるためには、やりきるしかないんだなと思ってます。
2045年以降をリアルにイメージして
――それでは、「2045」についてもお聞きします。どんなことを思って作られたんでしょうか?
SALU : iPhoneってドラえもんだなと思って。そこから曲を作りました。
――ドラえもん?
SALU : 今の時代、iPhoneが無くなったら「アラームどうしよう」、「スケジュール帳を買わなきゃ」、「目的地までの道順が分からない」、「電話も出来ないし、メールも……」みたいに、何も出来ないじゃないですか。もはやiPhoneって、のび太君にとってのドラえもんみたいな存在だと思うんですよ。そこを表現しようと歌詞を書いてみたら、もっと未来のことを考えるようになって。前々から臨界点(※)と言われている、2045年以降をリアルにイメージして出来たのが「2045」です。
※コンピューターが人間の知性を超えること
――リアルっていうと?
SALU : もしも、機械の転校生が現れたらって考えてみたんです。きっと、人間の子供は機械の子供をいじめると思うんですよ。その時、機械はどう思うんだろう……って想像して、こういう歌詞になりました。
――なるほど。
SALU : 最終的には、何千年とか何万年の話までしているので「どこまで行っちゃうんだい!」って感じなんですけど(笑)。テーマとして面白いなって。
――特に男子って、そういう仮想の話とか都市伝説が好きですよね。
SALU : 大好きですね。本当はそれだけでアルバムを作れるくらい書きたいことは色々あるんですけど、そういうのでもないしなって。だけど、1曲は書きたかったので「2045」が出来た時はスタッフのみんなに「コレは絶対に入れるんで」って話しました。
――その発想力は誰から影響を受けていますか?
SALU : 糸井重里さんですかね。小さい頃に『MOTHER』に出会って、今までのRPGにはなかったセリフの言い回しとか、細やかさとか、そういうものに魅了されて。その世界観が自分の人生に大きく影響を与えたと思います。
出典:ほぼ日刊イトイ新聞
――『MOTHER』と言えば、数年前に任天堂から復刻版が発売されましたね。
SALU : そうそう! 全シリーズ買いました。
――ガチガチのファンじゃないですか!
SALU : 買ったんですけど、会社の人に貸したっきり借りパクされてますね。「そろそろ返して」って言ったら「ああ、無くしちゃったかも」って言われたので、また高いお金を出して買い直さなきゃいけない。
――大人になったと言ってましたけど、さすがに借りパクは怒ったでしょ?
SALU : 怒らないっすね。この人はそういう人間なんだろうなって(笑)。
――お、大人だぁ……。
SALU : あははは、感情的にならない自分を寂しくも思いますけどね。
本当にやりたい音楽がなんだったのか分からなくなりました
――活動についてもお聞きします。デビューしてから、ずっと順調なペースでリリースされてますよね。
SALU : 休憩してた時期はありましたけど、何とか1年に1枚はリリースしてますね。
――デビュー当時から振り返って、どんなところが成長したと思いますか?
SALU : 1stアルバムは「とにかく自分を分かってほしいし、認めてほしい」という想いで作ってたんですけど、今作は「自分の気持ちが伝わらなくても良いから、ただ楽しんでもらえたら幸せです」っていう気持ちで書けたんです。そういう作り方が出来たのは、僕の成長した部分だなと思います。
――気持ちが変わったのは、どんなタイミングですか?
SALU : 『THE CALM』ってアルバムをリリースして、『Good Morning』を作り始める1年間の間に色々とあって。音楽と向き合わない期間が続いていたんですよね。その葛藤を乗り越えたからこそ、今の自分がいるのかなって。
――音楽と向き合わなくなったのは、どんな理由があったんですか?
SALU : デビュー前は自分に自信があって、「どれだけ自分が出来るのか見てほしい」っていう姿勢でやっていたんです。それが、デビューをしたら「アレ? 俺ってそういう風に見えてるの?」みたいな、想像と違う評価をされたんです。「恥ずかしい」、「怖い」、「もっと評価されたい」ってだんだん追い詰められて。最終的には、自分が本当にやりたい音楽がなんだったのか分からなくなりました。
――理想と現実のギャップで悩んだんですね。
SALU : 評価してもらうことに全く経験のなかった人間が、BACHLOGICさんの初プロデュース・ラッパーとして突然注目されて。蓋を開けたら、想像していた世界と違って……とにかく落ちこんじゃったんですよね。「どうせ音楽をやっても、変な風に受け取るんでしょ」みたいに、ひねくれるようになって。
――SALUさんに、そんな時期があったんですか。
SALU : 今となっては、葛藤する中で生まれた作品もあるので、無駄じゃなかったと思いますし、逆にそういう経験ができて感謝してます。その後は「下まで落ちた人間は上がるしかない」と気持ちを改めました。
――良い時も悪い時も全て作品にしていったんですね。
SALU : リアルなストーリーとして表現できるのがHIPHOPの醍醐味であり、良いところかなと思うので。それをやらせてもらえる環境に感謝してますね。
理想としていた雰囲気になっている
――ちなみにSALUさんから見て、今のHIPHOPシーンはどのように映ってますか?
SALU : 最近思うのは、みんなスゲエ良いなって。KANDYTOWNがデビューした時は「90’sみたいなことをやっててカッコイイな」と思ったし、IOくんの『Notis』も凄いカッコイイ。ゆるふわギャングが現れた時も、ああいうスタイルの良さが分からなくなったら「自分はおじさんなんだろうな」っていうぐらい新しいことをやってる。フリースタイル文化の人たちもテレビやCMで活躍してる。最近出てきたフォロワー数百人くらいの人とかもめちゃくちゃカッコ良くて、音源やMVのクオリティも高い。そういう人たちがどんどん増えてきて、やっと僕が理想としていた雰囲気になっているんじゃないかなと思ってます。
――デビューした6年前と比べて、HIPHOPシーンは何が変わりました?
SALU : 多様性みたいなことだと思うんですけど。今って昔に比べて「韻は踏まなきゃいけない」とか、「ラッパーは髪の毛がボウズじゃないとダメ」とか、「リアルなストリートに精通してなきゃいけない」とか、全然ない。誰がラップしても良くて、その人のリアルを歌うだけ。むしろ、リアルを歌ってなくても良いみたいな多様性は感じますね。アメリカは随分前からそうだったんですけど、日本もそれぞれの価値観を認め合ってて。良い時代だなって感じます。
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SALU WEBインタビュー曲解説WEEK
『INDIGO』リリース連動企画 各メディア展開!
■ MTV:2017.05.22(月)公開
解説曲:#1 WALK THIS WAY / #2 LIFE STYLE feat. 漢 a.k.a. GAMI, D.O
MTV
http://www.mtvjapan.com
■ EMTG MUSIC:2017.05.23(火)公開
解説曲:#3 TOKYO / #4 SPACE
EMTG MUSIC
http://music.emtg.jp/
■ Qetic:2017.05.24(水)公開
解説曲:#5 Dear My Friend / #6 First Dates
Qetic
https://qetic.jp/
■ ミーティア:2017.05.25(木)公開
解説曲:#7 Good Bye / #8 2045
■ M-ON! MUSIC:2017.05.26(金)公開
解説曲:#9夜に失くす feat. ゆるふわギャング (Ryugo Ishida, Sophiee) / #10 Butterfly / #11 東京ローラーコースター feat. FRAME a.k.a FAKE ID for Refugeecamp
M-ON! MUSIC
https://www.m-on-music.jp/
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【リリース情報】
INDIGO
発売日:2017年5月24日(水)
通常盤
【CD】TFCC-86588 ¥2,900(税抜)
初回限定盤
【CD+DVD】
TFCC-86587 ¥3,700(税抜)
(CD収録内容)
1, WALK THIS WAY
2, LIFE STYLE feat. 漢 a.k.a. GAMI, D.O
3, TOKYO
4, SPACE
5, Dear My Friend
6, First Dates
7, Good Bye
8, 夜に失くす feat. ゆるふわギャング (Ryugo Ishida, Sophiee)
9, Butterfly
10, 東京ローラーコースター feat. FRAME a.k.a FAKE ID for Refugeecamp(Bonus Track)
【ツアー概要】
『【SALU LIVE 2017 -INDIGO-】』
■日程
日時:2017年6月22日(木)/場所:渋谷WWW/開場18:30 開演19:30
■チケット
オールスタンディング ¥4,500
※入場時ドリンク代別途必要。
詳しくはオフィシャルHPをチェック
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