コロナ禍の世界で、音楽は…
1か月前の日常も今は昔。自室に引きこもりながらこの文章を書いていますが、明日をも知れぬ生活に恐々としています。ライブやフェスも軒並み中止(延期)を迫られ、音楽関係者の多くが収入源を失いました。外出自粛に伴い、飲食店も大きな打撃を受けています。どう控えめに言っても、由々しき事態でしょう。この時期に作品をリリースするアーティストたちも、まさかこんな世の中になるとは予想していなかったはずです。その受け取られ方も、本来意図していたものとは異なるかもしれません。
そんな中、愛知出身の4人組バンド緑黄色社会の新作アルバム『SINGALONG』が4月22日に配信リリースされます。筆者は一足先に拝聴しておりますが、これはまさしく“今必要なアルバム”です。ライブもフェスもできない今、“sing along”(みんなで一緒に歌う)という言葉が持つ意味はいかに。この騒動が収束した「ポストコロナの世界」においても、本作はさらに輝くことになるでしょう。
名もなき“僕”や“私”が主人公の世界
今に始まったことではないのですが、緑黄色社会の曲の歌詞には固有名詞がほとんど出てこないんですね。たとえば椎名林檎は「歌舞伎町」や「東京」、「マーシャル」など、何となくキャラクターの輪郭を想起させるようなワードを散りばめますが、それとは真逆のアプローチです。限定的な場面や人物を表現することによって個人をあぶり出す方法論もあると思うのですが、緑黄色社会の場合は匿名性の高い歌詞で物語を普遍化してゆきます。特定のイメージがないからこそ、歌詞に登場する“僕”や“私”に自分を重ねやすい。ゆえに言葉が刺さりまくるわけです。しかもそれがアニメやドラマのタイアップだとしても、同じことが言えるのです。本作『SINGALONG』で言えば、「sabotage」(火曜ドラマ『G線上のあなたと私』(TBS)系主題歌)や「Shout Baby」(アニメ『僕のヒーローアカデミア』第4期文化祭編EDテーマ)なんかがそうですね。
緑黄色社会 – 「sabotage」
緑黄色社会 – 「Shout Baby」
本作のシングルカット「想い人」も、映画『初恋ロスタイム』の主題歌に抜擢されました。この曲にまつわるエピソードについては、ミーティアが昨年実施したインタビューでも語られています。
小林壱誓(Gt.) : 以前から「想い人」をテーマに曲を書きたいと考えていたんです。実は、前に僕の友人のお父さんが余命宣告を受けたんですけど、僕はたまたま近くでそれを知ることになって。その時のやり場のない気持ちを、曲にぶつけたいと考えていました。
そんな時にちょうど『初恋ロスタイム』の主題歌という話をもらって、映画を見させてもらった時、二つがぴったりはまるような気がしたんです。映画の資料を読み込みながら曲を膨らませていったんですが、音楽が湧き出てくるようにすらすらと書くことができましたね。
この逸話を聞くと、着想自体は極めて限定的であることが分かります。けれども、曲にする時に彼らを通して普遍化される。そこには「ほら、この感覚だよ。分かるでしょ?」的な傲慢な印象も全くありません。つまりですね…、ライブでステージに立つ緑黄色社会ではなく、彼らの曲そのものが我々に“sing along”を促してくるのです。それはどこかの野外フェスティバルに限らず、この記事を書いているマンションの一室でも同じ。きっと、あなたが引きこもる部屋でも同じはずです。
緑黄色社会 – 「想い人」
この“不遜な態度がなく、リスナーに寄り添ったスタンス”というのも緑黄色社会の特徴のひとつでして、今回のアルバムにも例に漏れずそのような曲が随所に散りばめられております。たとえば“何でもない 何にもない明日も悪くない”と歌う「スカーレット」。お?固有名詞ですか?と思われるかもしれませんが、中身は他の曲と同様に普遍性をもって展開されます。その点では、彼らが以前発表した楽曲「Alice」に通ずるものがあるかもしれません。いやはや、それにしても“何にもない明日も悪くない”というフレーズが、今となっては切実さを伴いますね…。
また、その切実さは「あのころ見た光」にも感じることができます。“予測はできない明日に 手を伸ばして 僕ら 今を生きてる”と来ますから。この曲が発表されたのは2018年ですので、まさか彼らもこの詞がこのような形で世の中とリンクするとは思わなかったでしょうね。
緑黄色社会 – 「あのころ見た光」
で、ポストコロナの世界で高らかに鳴り響くのはラストナンバーの「冬の朝」だと思います。この曲、この状況を受けて急遽追加した曲ではないですよね? 以前から音源化が待たれていた曲ではありましたが…。そう解釈しても違和感がないほど、“今の曲”だと感じました。そもそも、春も盛りの時期に冬の朝を歌った曲を出すこと自体、とても示唆的な印象を受けます。災害バイアスがかかりすぎだろうか。いやしかし、個人的には大いに励まされております。雪が解けたら、きっとこの曲の印象は変わるだろうなぁ。その時まで、ちゃんと生きていよう。
そして自体が収束した暁には、ライブハウスやフェスで本物のSINGALONGをしてやりましょう。
■ 緑黄色社会 『SINGALONG』
2020.04.22 配信 release
Tracklist:
01. SINGALONG
02. sabotage
03. Mela!
04. 想い人
05. inori
06. Shout Baby
07. スカーレット
08. 一歩
09. 愛のかたち
10. 幸せ
12. Brand New World
13. あのころ見た光
14. 冬の朝
緑黄色社会公式HP
http://www.ryokushaka.com/
緑黄色社会公式Twitter
https://mobile.twitter.com/ryokushaka
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