NONA REEVES(ノーナ・リーヴス)が、オリジナル・アルバムとしては通算16枚目となる『未来』をリリース。ソウル、ファンク、80’sポップスなどに影響を受けた「ポップンソウルミュージック」は、1997年のメジャーデビューから22年を経た今もなお進化し続けている。特にRHYMESTERと共演した『今夜はローリング・ストーン』はMV公開時から大きな反響を呼び、若い世代にとっては、この6人が40代のロールモデルのひとつになりうるだろう。
22年というキャリアがありながらも、彼らは自分たちのことをベテランだとはまったく思っていないという。フロントマンの西寺郷太は「まだ夢を追いかけている」と語り、平成の終わりに発表するアルバムを『未来』と名付けた。では、彼らにはいったいどんな未来が見えているのだろうか。西寺郷太への単独インタビューを通して、彼の目に映る過去と未来を覗いてみよう。
Interview & Text_Sotaro Yamada
Edit_Alex Shu Nissen
ノーナ・リーヴス 『今夜はローリング・ストーン feat. RHYMESTER』 MV
『キミの夢は、ボクの夢。』でやれたことをノーナでも
――『未来』というアルバムタイトルは、メジャー22年目のベテランがつけるものとしては珍しい気がします。どうしてこういうタイトルになったんでしょうか?
西寺 : きっかけはポカリスエットのCMソング『キミの夢は、ボクの夢。』の作詞を担当したことです。あの曲はスポーツをやっている中高生を応援するというテーマだったんですけど、甲子園で演奏されるなどして、本当にたくさんの人に聴いてもらえました。あれだけの人に届いたのならば、ポカリでやれたことをノーナでもやれるんじゃないか、それが自分の最初の狙いでした。そして『未来』という曲ができた時、「これはアルバムのタイトルなんじゃないかな?」と思ったんです。
ポカリスエット WEB動画 「ポカリガチダンス フルバージョン」篇 150秒
――アルバムタイトルより先にシングルの方が完成したんですね。
西寺 : そうなんです。アルバムタイトルは『Physical』という仮タイトルで進めていました。最近はCDを出す時に「フィジカルでも出ます」って言うじゃないですか。この言葉を面白いと感じていたんです。それから、今のように整った状態でフィジカル(CD)を出せるのは、もしかするとこれが最後になるかもしれないという想いもありました。ストリーミングやプレイリストの時代に、アルバムという概念じたい今後はどうなるかわからないですから。
――これまでのノーナには、シンプルな英単語を並べたタイトルが多かったですよね。
西寺 : それが僕らのトレードマークでもありましたからね。『MISSION』『DESTINY』『Friday Night』『POP STATION』『GO』などなど。この並びに『未来』という言葉が入ることが、自分たちにとっては新しかった。あとは、元号が変わるということも意識しました。ちょうど平成が終わり、世の中が気持ちとして一度変わるタイミングで出るアルバムが『未来』だというのは、今の世相や人々の気持ちに合うんじゃないかという気持ちもありました。「未」と「来」という字が縦に並ぶビジュアルも良いかなと。
45歳はベテランではない
――この曲の「未来」というのは、自分よりも若い誰かの未来というイメージですか?
西寺 : 『未来』という曲には2つの視点があって、1番は自分と自分たちの世代について、広くて三十代半ば以降かな、で、2番が十代や二十代の若い人に向けて歌っているんです。僕は今45歳なんですけど、単純に若い人に「頑張れ、夢を諦めるな」と言って落ち着くにはまだ早い年齢だと思っていて。いまだに夢を追いかけている自分もいるし、どうしようもないくらい諦めきれない自分もいる。そういうことを1番で歌いました。2番は、とはいえ20年以上休まずに好きな音楽を鳴らし続けて来た身なので、夢を見ている若い世代に何かしらを言う資格はあるんじゃないかな、という想いのもとで書いています。
――ご自身のことをベテランだとは思っていないんでしょうか? 西寺郷太さんといえば、若い世代からすれば大御所だと思いますが。
西寺 : 大御所なんて(笑)。いやいや、まったく思っていないです。もちろん22歳頃の自分にとっては、45歳って親父の年齢だったので、そういう意味では好きなことを長く続けられているなと感謝はしてますけどね。
――ただ、西寺さんは小学生の頃から音楽をつくりつづけているわけですよね。
西寺 : デモテープを作り始めたのが、10歳の頃でしたね。だから35年つくり続けていることになります。昨日音楽を始めた人に比べれば、確かにベテランかもしれませんね。
――35年間も音楽を作り続けていて、音楽が嫌になることはありませんでしたか?
西寺 : 嫌というか、好みの問題として、そもそも巷で鳴っている音楽のほとんどが好きじゃない、というかよくわからないんです(笑)。かと言って自分だけが正しいなんて、思ってないですよ。あくまでも僕は、数少ない超大好きな音楽について好きな仲間と語ったり、分かち合い、その上でノーナ・リーヴスや別のチャンスを使って自分が思う好きな音楽を作り続けてるだけなんですよ。
――飽きることもないですか?
西寺 : 制作に関しては一度もないですね。たぶん、僕のまわりの誰に聞いても、僕が作詞・作曲で悩んでいたりスランプに陥ったりしているのを見たことがある人はいないと思います。超多作家ですね。
――すごい……。
西寺 : もちろん締め切り前には悩んでのたうちまわることもありますよ。特に歌詞は。でも作曲に限ってはそういうことはないんです。たぶん、ちょっとずつやり方を変えて、いろんな仕事をしているからだと思います。もし仮にノーナしかやっていなかったら、逆に苦しいと思う。自分のバンドだけで活動している人たちのことは尊敬しています。
『今夜はローリング・ストーン feat. RHYMESTER』は『DJ! DJ! ~とどかぬ想い~ feat. YOU THE ROCK☆』の19年後
――こんなにたくさんつくっていても、出尽くしてしまうということがないんですね。
西寺 : 僕の場合はそうですね。ただ、「これを繰り返していたら飽きるな」と思う瞬間はあります。だから自分で変化をつけて飽きないように工夫していくんですよね。たとえば『今夜はローリング・ストーン feat. RHYMESTER』は、2000年にリリースした『DJ! DJ! ~とどかぬ想い~ feat. YOU THE ROCK☆』の19年後という感じがするんですよ。
ノーナ・リーヴス『DJ! DJ! ~とどかぬ想い~ feat. YOU THE ROCK☆』MV
西寺 : あの時はYOU THE ROCK☆さんと一緒に、ヒップホップ黎明期のカーティス・ブロウ的な、いわゆるオールドスクールと呼ばれていたものをやりたかったんです。当時日本でヒットしていたヒップホップといえば、Dragon AshとZEEBRAさんの『Grateful Days』に代表される、マッチョでクールで不良っぽいものでしたよね。『DJ! DJ! ~とどかぬ想い~ feat. YOU THE ROCK☆』のような明るい生演奏のパーティーチューンはなかった。
――そうですね。当時『Grateful Days』の「悪そうな奴は大体友達(ZEEBRA)」というパンチラインは誰もが知っていて、世間に対するヒップホップのイメージを形作ったかもしれません。
西寺 : あれから19年。イメージとしては、結婚式の二次会や同窓会のような感じでつくりました。
――完全に稲門会(早稲田大学校友会)ですよね(笑)。
西寺 : 早稲田で出会ったんで、必然的に全員、早稲田卒ですね(笑)。でもこの曲は40代に限ったものでは決してなくて、たとえば25歳で同窓会をやったとしても、「わたしたち、歳取ったよね」という会話があると思うんです。だって17歳の頃に比べれば歳を取っているんだし、みんな自分の人生においては今がいちばん歳を取っているわけだから。そういう新しい組み合わせ方をすることで、昔からやっていることでも違う面白みが出てくる。
――ちなみに、今回RHYMESTERと一緒にやろうと思ったのはどういうきっかけからなんでしょう?
西寺 : 準備が整ったからですね。やっぱりRHYMESTERをお呼びするとなると、それなりの処遇ができる状態でないといけない。僕らは2017年にワーナー・ミュージック・ジャパンにレーベルを移籍したんですけど、実はその頃からレコード会社やマネジメント・レベルでは話が進んでいたんです。
――MVの監督は砂川泰知(すながわ・たいち)さんという22歳の方ですね。『未来』のMVに続いての起用で、『ガリレオ・ガール』のMVも担当と、大抜擢だと思うのですが。
西寺 : たぶん泰知くんが本格的なMVをつくるのは、これが初めてだと思います。ノーナのA&Rをやっている箭本(やもと)さんが「良い若手がいます」って見つけてきてくれたんですよね。それで泰知くんのインスタを見て、メンバースタッフ満場一致で「この子にお願いしたい!」と。
西寺 : これからすごい売れっ子になると思いますよ。だから彼には何回も言ってるんです、「抜擢したの俺らやぞ。忘れるなよ」って(笑)。
――ジャパニーズ・ドリームですね。
西寺 : 見た目もカッコ良いんですよ。ONE OK ROCKのTakaくんに似ていて。「ガリレオ・ガール」は、彼が二月に個人的にパリに旅行に行ったんですね、で、その時に色んな場面撮影してきて、って頼んだんです。めちゃくちゃフレッシュで、『ローリング・ストーン』撮影のスタジオでは「楽しみすぎて前日眠れなかったんです」とか言っていてかわいかったですね。MVを泰知くんにお願いするという意味でも、本当に『未来』でした。
RHYMESTERとノーナの交換日記
――『今夜はローリング・ストーン feat. RHYMESTER』を聴くと、カッコ良く歳を取ることって可能なんだな、と思わせられます。若い世代から見て、40代でロールモデルになるような大人ってそんなに多くないです。
西寺 : カッコ良いですよね! 自分のことは置いといて(笑)、他の5人を見ていたら「この人たちすごくない?」と思って撮影しながら半泣きでした。並んだ瞬間、皆仕事人でカッコ良いなと(笑)。もともと僕にとってRHYMESTERはアイドルだったんです。彼らは早稲田大学の学生だった頃から有名でした。
――学生の頃からすでに交流があったんですか? ちょうど西寺さんが入学した頃、宇多丸さんは4年生ですよね。
西寺 : 僕らが一方的に知っていただけですね。RHYMESTERというよりは、彼らが所属していたソウルミュージック研究会『ギャラクシー』の人たちとして捉えていました。佐々木士郎さん(宇多丸)と坂間大介さん(Mummy-D)がライターをやっているということは知っていて、本も買って読んでいました。
――やはりカリスマだったんですね。
西寺 : 余談ですけど、そのアカペラ版がゴスペラーズ。『ストリート・コーナー・シンフォニー』というサークルの顔役が村上てつやさんでした。村上さんとはその頃から仲が良かったです。学内でも本当に目立ってたんですよ、彼は歌いながら歩いていたから(笑)。僕らは『トラベリングライト』というバンドサークルに所属していて、僕と小松と、今KIRINJIのベーシスト千ヶ崎が同じ学年にいました。そして隣のサークルには学年は下でしたが、土岐麻子さんがいました。そういう社会だったんです。ほとんどの皆が、1992年から27年知っている人たちですね。
――そういう背景を聞いた上でMVを観ると、よけいエモいです。
西寺 : よく「昔からの盟友・RHYMESTER」って書かれるけど、盟友というより憧れの大先輩なんです。だからRHYMESTERの前では良い意味で緊張するし、今回は本当に嬉しかった。RHYMESTERの3人が真剣に曲について考えている姿をスタジオで見ることができたのは、自分にとって宝物になりました。
――この曲には小ネタがたくさん詰まっています。「ダチーチーチー」とか「まずはアル・グリーンからのスティービー・ワンダー、トドメはLovin’ You」とか。
西寺 : 「トドメはLovin You」のあとに「ミニー!」っていうMummy-Dさんの声が入っているんですけど、あれはミニー・リパートンのことなんですよね。Mummy-Dさんがラップを入れてから、奥田(健介 Gt.)が「『Lovin You』のコード進行に似せよう」ってアイデアを出してくれてブレイクダウンができた(2:05~)。RHYMESTERとノーナの交換日記のようなやり取りが本当に面白かったですね。
――「波乱バンジョー」という歌詞のあとで入るバンジョーも印象的です。
西寺 : あれはMummy-Dさんがマボロシというグループをやっていた時にカントリーロック的な要素を混ぜていたのを思い出して。BECKやOutkastなどのカントリーとヒップホップが融合している音楽を参考にしました。
――バンジョーという楽器自体、もともとアフリカで使っていた楽器の特徴を取り入れてアメリカで生み出されたものなので、異なるジャンルの融合というテーマにふさわしい楽器だと思います。
西寺 : 人種や地域を越えて混ざり合うのが音楽の醍醐味。だとすれば、日本人がヒップホップをやるのも良いよね、という考えにも繋がると思います。そういえば、今回バンジョーを弾いてくれた富田謙さんが「バンジョーは、ただ単に楽しい楽器ではなくて、歴史の中にタフな深い重みや悲しみがあるんだ」というようなことをおっしゃっていました。
――「ローリング・ストーン」という言葉の裏にも悲しみがあるんでしょうか。
西寺 : 「ローリング・ストーン」、「転石苔むさず」に関して言えば、イギリスでは「コロコロ立場を変えてはいけない」というネガティブな意味で使われるのに、アメリカでは「古いものにとらわれるより転がって形を変えていったほうがいい」という逆のポジティブな使われ方をするらしいんですよね。それがすごく面白いなと思って。音楽の歴史においても、マディ・ウォーターズやボブ・ディラン、テンプテーションズなど、いろんな場所でいろんな人々に使われてきた言葉ですよね。
どうせみんないつかいなくなるんだから、一生懸命やって楽しんだ方が良い
ノーナ・リーヴス『未来』MV
――最後に歌詞について聞きたいのですが、『未来』には「誰も彼もの若さを夕立がため息ごと奪ってく」というフレーズがあります。すごく強い言葉で、とてもポエティックな表現だと思いました。
西寺 : 誰もが自分たちは若いと思っているけど、人生はあっという間に過ぎていく、と言いますか。
――西寺さんの歌詞はポップだけど、時に文学性を帯びる瞬間があります。どんなふうに作詞されているんでしょうか。
西寺 : うーん、『未来』の場合は、「Oh Tell me why」という音から「自由な時代」「夕立が」という言葉の韻を連想して書き継いでいきました。
――前向きな曲ではあるけど、ただの楽観主義ではなく、現状は厳しいという認識があるような気がします。
西寺 : 実家がお寺だからか、「儚さ」、「どうせいつかいなくなるんだから、だいたいのことはどうでも良い」とどこかで思ってるような気がします。「どうでも良いんだから、一生懸命やって楽しんだ方が良いだろう」と、そんな感じですね。
――なるほど。西寺さんは文章においてアメリカ史研究者の猿谷要さんに影響を受けているそうですが、作詞においては誰に影響を受けていると思いますか?
西寺 : もし影響を受けているとしたら、Electric Glass Balloonの杉浦英治さんですね。SUGIURUMNというDJになった方です。二十歳過ぎの頃に知って、本当に衝撃を受けました。アメリカ文学的な歌詞は見たことがなかったし、小沢健二さんよりもドライに乾いていて。天才だと思いましたね。最近は田中秀征さんの『自民党本流と保守本流 保守二党ふたたび』という本を面白く読みました。若い人にぜひ読んでほしいですね。
NONA REEVES 16th Album
2019.03.13
『未来』
WPCL-13008 ¥3,000+税
[収録曲]
1. 未来
2. ガリレオ・ガール
3. 今夜はローリング・ストーン feat. RHYMESTER
4. Physical
5. Sad Day
6. プレジデント・トゥナイト
7. Go Home
8. Sorry JoJo
9. Aretha
10. Disco Masquerade
11. 遠い昔のラヴ・アフェア
SHARE
Written by