インターネットが生んだ天使、ナナヲアカリ
ニコニコ動画で曲を発表し、有名になる――。それがいまのユース世代にとっては夢の第一歩なのかもしれない。3月5日に渋谷のWWWで東名阪ツアーのファイナル公演を迎えたナナヲアカリも、そんな経路を辿ったひとり。2016年に『ハッピーになりたい』をニコ動で発表してから、2年足らずの期間で急速に知名度を高めてきました。
ナナヲアカリ – 『ハッピーになりたい』
現在、動画投稿サイトにアップしたMVの総再生回数が900万回を突破したナナヲアカリ。
有名になっていく過程を知っている身からすると、まさしく彼女はシンデレラ。もちろん、本人にしか分からない苦悩や葛藤はあるのでしょうが、夢を着実に実現してゆく様には、観ているこちら側が勇気をもらえます。会場を埋め尽くす観客を相手にしたこの日のライブも、その勢いを証明するような内容でした。
『ドッペルアリー』、『んなわけないけど』、『ハッピーになりたい』を立て続けに披露し、のっけからフロアの温度を上げてゆきます。いずれもロックやエレクトロを下敷きにしたアッパーな曲調ですが、彼女本人からは落ち着きや余裕が感じられました。ツアー最終日ということも大いに関係しているのでしょうが、それ以上にナナヲアカリ自身が実力をつけているのだと思います。MCの口調も軽やかで、高まる熱狂に応えながら、ステージは進んでいきました。
日本の音楽シーンを揶揄する意味で「ガラパゴス(=独自の生態形を持つ音楽)」という言葉が使われますが、個人的にはこの日のライブを観て少し違和感を覚えるようになりました。断絶などしていないと強く感じたのです。
ナナヲアカリ – 『眠らない街、眠りたい僕 Live ver.』
ひとことでナナヲアカリの音楽性を表現するならば、「RADWIMPSと大森靖子とボカロカルチャー」というところでしょうか。野田洋次郎の言葉のリズム(押韻の仕方など)、大森靖子の向こう見ずな破天荒さと、様々なジャンルを吸収しながら独自の音楽性へと昇華していったボカロカルチャーの音楽をバックボーンに感じます。『眠らない街、眠りたい僕』のようなミディアムテンポな曲もあるけれど、『一生奇跡に縋ってろ』しかり、『ハノ』しかり、テンポが速く、疾走感のある曲には特に、ネットを通じて進化してきた「ボカロカルチャー」も感じられ、様々な音楽性を取り入れて再構築した独自のスタイルを感じました。
個人的にはナナヲアカリの音楽には大いなる広がりを感じています。それは先ほど上に挙げた三者のアーティストよりも、ずっと多くの要素で構成されていると感じるからでしょう。先に書いたように、ニコニコ動画での音楽カルチャーにはかなりの多様性があります。ロックもあればエレクトロもあるし、メタルだって存在する。それらがジャンル分けされず、「ボカロPの〇〇が作った楽曲」として提示されるから、「ガラパゴス(=独自の生態形を持つ音楽)」に見えるのでは。実際、ナナヲアカリの音楽は豊かで様々な音楽へのリスペクト、繋がりを感じます。胸を張ってそう言えます。
「バンドみたいなソロ・アーティスト」の意味
これまでも「バンドみたいなソロ・アーティスト」を標榜してきたナナヲアカリ。以前までは「バックバンドとの親和性を高め、自分がミュージシャンとしての技術を磨く」という意味かと思っておりました。けれども、実際は全然違うニュアンスだったのかもしれません。彼女はMCでこんなことを言っていました。
「わたし、『ナナヲアカリって何だろう?』ってずっと考えてたの。わたしは大阪出身で、今は東京に住んでて、ひとりしかいない。でも『ナナヲアカリ』には、ひとりではなれないんだよね。バンドがいて、動画があって、ライブに来てくれるみんながいないと、音楽ができない。それでわたし思ったんだけど、皆(会場内の人間全員)でナナヲアカリなんだよ。だから明日から『自分、ナナヲアカリっす』って名乗ってくれて全然オッケーなんで」
ナナヲアカリの楽曲は、そもそも彼女が独りでつくっているわけではありません。この日のライブでも動画が使われていましたが、そこには曲ごとによって作詞作曲者のクレジットのほか、動画の作成者やイラストレーターの名前が明記されていました。さながらアベンジャーズのように人が集結し、ひとつの楽曲をつくるわけです。彼女の言う「バンド」とはつまり、「ナナヲアカリというプロジェクトとして一緒に進んでくれるファンやクリエイター、自分と関わる全ての人々」、そういう意味だったのではないかと思うのです。
ナナヲアカリ – 『ディスコミュ星人』
「陰キャラ(=教室の隅っこで目立たないキャラ)」を自称する女の子が、教室に入るMAX人数の何倍もの数を相手にする。この状況って、ものすごく感動的じゃないでしょうか?
デスクトップの前からメジャーデビューへ
『インスタントヘヴン feat.Eve』を終え、アンコールが披露される直前のこと。突如としてナナヲアカリが8月にソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズからメジャーデビューすることが発表されました。これには場内も騒然。私の隣で見ていた女の子も泣き出します(かわいかった)。歓声が予想以上だったのか、ナナヲアカリ本人も少し驚いた様子。「思ってた反応と違う」と言いつつ、目には光るものがありました。そしてこの後に続く『メルヘル小惑星』ではついに込み上げる想いに堪え切れず、涙を浮かべ、声を詰まらせてしまいます。それでも、熱い声を送るファンに応えて、絞り出すように歌い始め、最後は会場が一体となる大合唱。私の隣の女の子も、涙をたたえながら熱い視線をステージに向け続けていました。
ナナヲアカリ – 『メルヘル小惑星』
数年前までは、デスクトップの前でDECO*27(デコ・ニーナ)がつくる楽曲を聴く、数多いるリスナーのひとりに過ぎなかったナナヲアカリ。この数年間でどれだけの夢を叶えたのかは想像もつかないけれど、メジャーデビューは間違いなく分岐点になることでしょう。インディーのままメインストリームで活躍するアーティストも多いなか、なぜ彼女は「メジャー」を選択したのか。その答えは、どこまでもナナヲアカリらしいものでした。
「先のことはまだ分からないけど、もっとみんなと楽しいことができる機会が増えると思う。支えてくれた人を裏切るようなことはしない。『ナナヲアカリ』っていうプロジェクトをみんなと一緒に進められたらいいな」
インターネットの海から誕生した「ダメ天使」の物語は、いままさに始まったばかり。ディスコミュニケーションな彼女だけれど、その行き先には少しも「ビビっちゃいない」
■ナナヲアカリ「ナナヲアカリはじめてのとうめいはん『♡(いいね)』収穫ツアー」
日時: 2018年3月5日
開催地: 渋谷WWW
ナナヲアカリ公式Twitter
https://twitter.com/nanawoakari
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