「同期のサクラ」で再注目、森山直太朗の「さくら(ニ〇一九)」
初回平均視聴率8.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)から右肩上がりに数字が上昇、最終話は13.7%と最高視聴率で有終の美を飾ったドラマ『同期のサクラ』。その主題歌として起用された森山直太朗の「さくら(二〇一九)」がゆっくりと、確実に注目度を高めている。
ドラマ『同期のサクラ』の主人公は、小さな離島から単身上京、大手ゼネコンに入社した北野サクラ(高畑充希)。入社式で“夢は故郷と本土を結ぶ橋を架けること”と宣言し、その夢に向かって邁進するサクラだが、社内で理不尽な扱いを受けてしまう。どんな状況にもめげず、真っ直ぐに突き進むサクラと仲間たちを描いたこのドラマは、ストーリーが進むにつれて大きな反響を集めた。このドラマの物語を彩り、深みを与えていたのが、森山直太朗が歌う「さくら(二〇一九)」。2003年にリリースされた「さくら(独唱)」のセルフカバーだ。
メジャーデビュー作「乾いた唄は魚の餌にちょうどいい」から、ピアノの独唱バージョンとしてシングルカットされた「さくら(独唱)」。郷愁を誘うメロディ、別れと出会いが交差する季節を映し出した歌詞、そして、叙情性に溢れたボーカルがひとつになったこの曲は、言うまでもなく、森山直太朗の代表曲だ。
SMAPの代表曲「世界で一つだけの花」と同じ2003年3月5日に発売。初週のチャートは80位だったが、地方のラジオ局、レコードショップを回る地道なプロモーションによって徐々に浸透し、9週目でチャート1位を獲得。見事にミリオンセールスを記録した。コンサートでも大切に歌われてきた「さくら(独唱)」は、リリースから15年以上が経った現在、日本のポップス史に刻まれる楽曲として認知されている。流行に左右されない、エバーグリーンな名曲と言っていいだろう。
森山直太朗、セルフカバーの裏側
ドラマ「同期のサクラ」の主題歌として「さくら(独唱)」をセルフカバーしてほしい、というオファーが森山に届いたのは、2019年の夏。全国ツアー「森山直太朗コンサートツアー2018〜2019『人間の森』」が6月に終わり、次の活動を探る時期だったようだ。当初は「自分の手から離れ、たくさんの方に認知してもらっている曲だし、“セルフカバーって、どうなんだろう?”」と思ったという彼だが、さらに打ち合わせを重ねるなかで、いま現在の「さくら」を聴いてもらえるチャンスかもしれないという考えに至り、「さくら(二〇一九)」の制作がスタートした。アレンジを担当したのは、世武裕子。映画、ドラマなどの劇伴を手がけるほか、シンガーソングライターとしても活動、さらにMr.Childrenのツアーに帯同するなど、幅広いジャンルで才能を示す彼女は、森山直太朗の楽曲「人間の森」にもピアニストとして参加している。原曲の雰囲気を残しながら、クラシカルなピアノ、重厚なストリングスなどを加えることで、さらにスケール感を増したサウンドを構築。何よりも、リリースから17年が経ち、深みを増した森山のボーカルを堪能できることが、「さくら(二〇一九)」の最大の成果だろう。
深みを増していく、森山直太朗の音楽
キャリアを重ねるごとに、豊かさと奥行きを増している森山直太朗の音楽。「さくら(二〇一九)」と並び、現在の彼の表現を体感できるのが、12月13日から劇場公開されているドキュメンタリー映画『森山直太朗 人間の森をぬけて』だ。
2018年秋から2019年6月にかけて行われた全国ツアー「森山直太朗コンサートツアー2018〜2019『人間の森』」を追ったこの作品には、自らの歌の世界を追求し、葛藤と自問を繰り返す姿が生々しく映し出されている。監督、撮影は、「人間の森」のMVを手がけた番場秀一。リハーサル、楽屋、打ち上げの様子や、森山、御徒町凧(森山の楽曲の共同制作者であり、ツアーの演出も担当)、バンドメンバーへのインタビューで構成される本作が示しているのは、音楽、歌の本質とは何か?というテーマと向き合い、試行錯誤を繰り返す姿勢だ。なかには「え、ここまでシリアスな話をするの?」とう場面もあり、その内容は驚くほどに赤裸々。森山直太朗のファンはもちろん、“表現”に興味がある人が観れば、必ず何かを得られる作品だと思う。
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