ロックバンド・ミオヤマザキ主催の対バンライブツアー『ミオフェス』セミファイナルが7月3日、東京・恵比寿リキッドルームにて開催された。本ツアーは、5月12日に行われたBiS、オメでたい頭でなによりとの3マン@仙台からスタート。その後、ゆるめるモ!、WHITE JAM、BiSH、SuG、恵比寿マスカッツなど全10組のバラエティに富んだアーティストをゲストに迎え、全国8箇所を回ってきた。本記事では、セミファイナルとなったR指定とのメンヘラ対決の様子をレポートします。
Text_Sotaro Yamada
Edit_司馬ゆいか
ミオヤマザキとは?
ミオヤマザキとは、mio(Vo.)、taka(Gt.)、Shunkichi(Ba.)、Hang-Chang(Dr.)からなる4人組ロックバンド。
ヴォーカルのmioによる、男女関係の本質や女性の本音を描いた歌詞が特徴で、熱狂的なファンは「ミオラー」と呼ばれる。楽曲をテーマに制作されたゲームアプリ『マヂヤミ彼女』がApp Storeのランキングで1位を獲得し、現在までに累計400万ダウンロードを突破するなど、プロモーションの方法も独特。2014年クリスマスイブに、石田純一をジャケットに使用したシングル『民法第709条』でソニーミュージックのエピックレコードからメジャーデビュー。ライブのことをスレと呼ぶ。2017年4月には日比谷野外音楽堂にてワンマンライブを完売させるなど、主に10代、20代の女性を中心にカルト的な人気を集めている。
ミオヤマザキ『民法第709条』
R指定とは?
セミファイナルとなったこの日の対バン相手はR指定。と言ってもラッパーの方ではなく、ヴィジュアル系バンドのR指定のこと。
R指定は、マモ(Vo.)、Z(Gt.)、楓(Gt.)、七星(Ba.)、宏崇(Dr.)からなるヴィジュアル系ロックバンド。これまでに22枚のシングル、3枚のミニアルバム、4枚のフルアルバムをリリースしており、幕張メッセでのワンマン公演や、日本最大のヴィジュアル音楽フェス『VISUAL JAPAN SUMMIT 2016』への出演もあるなど、現在のヴィジュアル系シーン最前線で活躍するバンドである。
TBSのラジオ番組『荻上チキ・Session-22』にゴールデンボンバーの鬼龍院翔と歌広場淳がゲスト出演した際、二人が選んだ「V系最強ソング」にR指定の『病ンデル彼女』が選ばれるなど、同業者からの支持も厚い。
(※ちなみに、鬼龍院翔と歌広場淳が選んだ他の「V系最強ソング」は、X JAPAN『Rusty Nail』、SHAZNA『Melty Love』、Dir En Grey『残-ZAN-』、LAREINE『薔薇は美しく散る』、MALICE MIZER『月下の夜想曲』。すべて90年代に爆発的な人気を誇った伝説的V系バンドで、いずれも今は解散しているか、V系ではなくなっている。そういった意味で、R指定は現役V系バンドの中で頂点にいると言えるのかもしれない)
R指定『病ンデル彼女』 MV
メンヘラバンドの現場
ライブはほぼ定刻にスタート。まずは暗闇の中、ミオヤマザキの『メンヘラ』がBGMとして流れ出す。普通、こうした対バンライブではゲスト側が先に演奏するので、「おや?」と思った人が多いだろう。しかし音楽は流れ続ける。明かりがつくと、反射的にオーディエンスの歓声が沸くが、ステージには誰もいない。多くのオーディエンスの頭を「???」という疑問符が覆い、疑問は次第に不安へと変わり、歓声が萎んでいく。すると、頃合いを見計らったようにR指定のZ、楓、七星、宏崇が登場。歓声があがる中で4人はそれぞれスタンバイ。そして、やや間を置いてからマモが登場すると、オーディエンスの手がいっせいにあがり、悲鳴とも絶叫ともつかぬ女性たちの黄色い声があがった。
「ミオフェス始めようかトーキョー!」
そう叫んで歌い始めたのは、ミオヤマザキ『メンヘラ』のカバー。
ミオフェス、オープニング。
あれ?始めR指定じゃないの?様子がおかしいぞ?ん? pic.twitter.com/kJM7lXw7QX— マモ (@mam0_0fficialt) 2017年7月3日
この一発で指定女子・指定男子(R指定のファンのことをそう呼ぶ)だけでなくミオラーをも虜にしたのは言うまでもない。
続く『ぼくらのアブノーマル』や『國立少年-ナショナルキッド-』ではバンドの重低音とマモのデスボイスが響き、分厚い演奏を披露する。オーディエンスは総ヘドバン状態。指定女子には髪の長いオーディエンスが多いようで、前後左右そして八の字に揺らされた長い髪がフロアを波のようにうねる。フロアが女の子たちの髪で波打つこの状態、R指定のライブではいつもの光景なのかもしれないが、初見の筆者は圧倒された。何か、普通のライブとは違う異様な熱気がある。
ちなみに、R指定のライブにはセーラー服の女の子たちも多く集まっていたが、その一部を「ピンゴキ」と呼ぶらしい。ピンク色のセーラー服を着て、ツインテールで、暗い所(ライブハウス)でカサカサ動く(ヘドバン)ことから、「ピンクのゴキブリ」の略なんだとか……。ふ、深い……。
V系とは何か
R指定の楽曲は、ラウドロックからの影響を感じさせるようなポップなメロディと重厚な演奏が印象的で、ロックフェスに出ても勝てるような、身体を動かしたくなる曲が多かった。このバンド、パッと見は従来のV系のイメージを引き継いでいるが、音楽的には前述したSHAZNAやMALICE MIZERとはかなり違うようだ。
「V系」という言葉は、いまや、それを好きだと公言することを一瞬ためらわせるような妙なニュアンスを持つ言葉になってしまった。その言葉があるだけで一歩引く人もいるのではないか。少なくとも、「シティーカルチャー」と一般的に呼ばれる類のものに、現時点でV系の枠はない。ない、と断言できる数少ないジャンルだ。だから、ミーティアの読者の中で普段からV系に接している人は少ないように思う。
しかし、V系という言葉の起源を辿れば、(諸説あるが)かつてXのhideが「VISUAL SHOCK」という言葉を使い、ヘヴィメタルを独自に解釈してヴィジュアル系のパイオニアとなった時、V系はまぎれもなくシティーから生まれた新しいカルチャーのひとつだった。そのムーヴメントからは時代を代表する数々のアーティストが生まれた。X JAPAN、LUNA SEA、GLAY、LArc-en-Ciel、黒夢、などなど、90年代のヒットチャートの大部分をV系出身のアーティストが占めたのだった(にもかかわらず、90年代について語られる時、なぜか彼らが無視されて渋谷系周辺についてだけ言及される傾向にあるということについては、もう少し具体的な分析が必要だと思う。そういえば先日東京で15本の対バンツアーを行ったMIYAVIもかつてはV系だったのだ)。
V系とは、単に髪を伸ばしてメイクをすることではない。V系とはむしろ、パンクやヒップホップと同じように、精神やアティテュードを含意する言葉なのだ。
だから、アーティストが真にV系を引き継いでいるとすれば、その楽曲は、音楽的にはかつてのV系的なものから逸脱することもありえる。Xが海外のヘヴィメタルのコピーではなかったように。
R指定の曲を、いったんそのビジュアル抜きに聴いてみると、かなり多様なジャンルの音楽を取り入れていることがわかる。メタルでもあるし、メロコアのようでもあるし、ポップでもあるしストレートなロックでもあるし、民族音楽や般若心経を取り入れた曲まである。つまり、R指定は、言葉の本来の意味におけるアヴァンギャルドなのだ。
R指定のライブを見ていて、このバンドは、実は色々な需要に応えることのできるバンドなのだなと思った。フェスで暴れたい人、重低音を身体に響かせたい人、美しくてポップなメロディにノリたい人、複雑な構成の音楽に聴き入りたい人。そしてもちろん、美しい男に見惚れたい人、ヘドバンしたい人、イケメンに指を舐められたい人……(ファンの指を口に入れて舐めるパフォーマンスがある。ふ、深い……)。
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