【M3準備会副代表・永尾大地氏メールインタビュー】
――そもそも同人音楽とは何でしょうか? メジャーやインディーズと同人の明確な違いはあるのでしょうか?
自主制作の音楽活動、および、その作品を収録したメディアの事です。
M3準備会としてメジャーやインディーズと同人を区別や定義分けをしているわけではありませんが、一般的には、レコード店流通に乗らないCDなどが、同人音楽CDと呼ばれる事が多いようです。
なお、M3では音楽に限らず、音に関する自主制作作品を総じて「音系」と呼称しております。
――M3は初開催が1998年ですので、二十年近く続いている一大イベントです。二十年もイベントを続けるのは並大抵のことではありません。M3準備会の方々にとって、これほど長くイベントを続けるモチベーションは何でしょうか?
音系で活動されているサークル参加者さん、そして、音系同人作品を求める一般参加者さんがM3という場を求め続けてくださっている事が、我々の一番のモチベーションとなっています。
※M3では出展者を「サークル参加者」、一般来場者を「一般参加者」と呼称しております。
――M3準備会の方々から見て、この二十年間で出展者・一般来場者の層に変化はありましたか? あったとしたら、どのような変化でしょう?
変化というよりは、参加者が増える度に裾野が広がっていった、という感があります。
――上の質問に関連して、同人音楽の流行りと一般的な音楽の流行りに、関連性を感じますか?
ゆるやかには関連していると思います。
――YouTubeやニコニコ動画、各種ネットレーベル、iTunesなどの配信サービスといったように、同人アーティストが自身の作品をリリースする場合にアウトプット先は無数にあります。同人アーティストにとって、M3のような即売会はどのような意味を持っているのでしょうか?
オーディエンスに対して、直接自分の手で作品を手渡し、交流が持てる機会となっていると思います。
特に、ライブ活動やDJ活動などに重きを置いていない、録音制作を主にしているクリエイターの方々には、M3をはじめとする同人イベントで作品を頒布するという行為が、ステージアクトと同等の場として求められているのではないかと思います。
――上の質問に関連して、M3には数々のプロのアーティストが参加し、また、M3を土台にプロになっていくアーティストもたくさんいます。同人音楽は、プロへの登竜門なのでしょうか? それとも、まったく異なるマーケットなのでしょうか?
Yesでもあり、Noでもあります。
プロ活動への足掛かりとして音系同人活動をされている方もいらっしゃれば、趣味の一環として音系同人活動をされている方も多くいらっしゃいます。
また、仕事以外で自由に作った作品を発表する場としてM3に参加されるプロのクリエイターもいらっしゃいます。
――M3には、100人ものスタッフが関わっているそうですね。どういった方々がスタッフとして参加しているのでしょうか?
はい。元サークル参加者の者も、現役でサークル参加とスタッフを兼務している者もおります。
また一般参加者からスタッフになった者や、他のイベントでスタッフをしている方がM3スタッフも兼務している者など、スタッフ参加のスタイルは多種多様です。
――率直で不躾な質問かもしれませんが、M3準備会事務局の方々は、普段はどんな活動をされているのでしょうか?
音楽業界の者も数人はおりますが、ほとんどは無関係な学生や社会人などです。
――2008年には大阪でも開催されましたが、それ以降は東京のみの開催です。これはなぜでしょうか? また、今後、全国でイベントを展開していく考えなどありますでしょうか?
2008年の「M3大阪」イベントは、M3の10周年記念イベントとして特別開催されました。M3のスタッフは全員ボランティアで、その多くは首都圏に在住している関係上、大阪での定期開催は難しいと考えております。
なお、「M3大阪」開催の際にお手伝いいただいた現地スタッフ有志の方々が、その後「MUSIC COMMUNICATION」というイベントを定期開催しております。
http://m-comi.birdzberth.com/
――M3が始まったのは、もともとコミケに「音系」ジャンルがなかったことがきっかけだそうですね。コミケやコミティアといった同人イベントとのコラボはありえますか?
お誘いがあれば、いつでも!
実際、昨年幕張メッセで開催された「コミケットスペシャル6」内のOTAKU SUMMITにはM3準備会も参加させていただきました。
また過去には、コミッククリエイションという同人イベントと共催させて頂いた事もあります。
――M3の特徴には、二次創作作品の出展を広く受け付けていることが挙げられると思います。同人文化にとって、二次創作とは欠かせない要素であると考えていますか? そうであるとしたら、二次創作の魅力とはどのようなものでしょうか?
これはM3に限らず、同人文化において二次創作は大きなウエイトを占めるジャンルだと思います。
二次創作の魅力は、M3準備会が語るよりも、ぜひM3に足を運んでいただき、実際に作品を手に取って感じて頂きたいです。
――M3は、ボーカロイドをはじめとするテクノロジーの進化に伴って発展してきた側面があると思います。最近でもGarageBandやTENORI-ONなどが登場し、より手軽で、より直感的な音楽制作を可能にするテクノロジーは進化し続けています。こういった背景がある中、M3の意義・役割はどのように変わっていくと考えますか? また、これからのM3に何を期待しますか?
M3の意義・役割は変わらないと考えております。M3は、サークル参加者が作品頒布をする為の「場」であり「器」です。M3準備会が、M3というイベントの方向性を決めるのではなく、参加者の皆さんが求める場の提供を今後も続けていきたいと思っております。
ただ今後、CDという媒体の衰退は、M3にとっても避けられない大波として影響があると思います。これについてはM3というイベントをどうすべきか、参加者の皆さんと共に模索していきたいと考えております。
――「音系」という言葉は、一般の人には馴染みの薄い言葉だと思います。この言葉に込められた思いを教えてください。
音を使った表現は、多種多様です。音楽しかり。環境音しかり。音響劇や朗読しかり。さらにいうなら、映像作品も音を扱いますし、音響機材や楽器の製作、音楽などの評論本などももひっくるめて、音に関する表現媒体すべてを「音系」と称しております。
――先日、ミュージシャンのボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞しました。ジャンルというものについて考えさせられる出来事だったと思います。この件について、「あらゆるものを包括する」ことを謳っているM3準備会として、何か感想があればお聞きしたいです。
受賞者がノーコメントなので、我々からもノーコメントです。
――上の質問に関連して、M3では、たとえば詞集を販売することも可能なのでしょうか? あるいは、音に関した(あるいは音をテーマにした)文学作品を販売することも、広義の意味で「音系」に当てはまるのでしょうか?
先の音系に関する質問の通り、もちろん可能です。そして大歓迎です!
――カルチャーにアンテナを張っている人々の間では、同人音楽に対する注目は日々高まっててきていると思います。その一方で、同人音楽ファンの方に取材した時に感じたのですが(https://meetia.net/column/dojinmusic/)、同人音楽を伝えようとする人はまだまだ少ないようです。M3準備会として、今後メディアに何か期待することはありますか?
音系同人を俯瞰して編纂している媒体は、商業でも同人評論でもまだまだ少ないので、是非ともお力添えを! また、もし願わくば、流行しているサークルさんだけではなく、様々なジャンルにスポットライトを当てて欲しいです。例えば、M3のカタログからランダムに10サークル選んで作品を聴いてみるとか……。
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