【終了間際のウィー・アー・ザ・ワールド】
撤去作業に時間がかかるためか、M3の終了時間は15時とかなり早い。
終了間際には、演奏コーナーにてバグパイプ奏者として有名な五社義明(http://goshajr.wixsite.com/goshajrofficial)とゲーム音楽系プロジェクトSweez(Meine Meinigという名義での活動が有名http://meimei-music.com)、木管合奏サークルおたクインテット(http://otaquintet.net)のメンバーを中心に付近の出展者が集まり、『蛍の光』を演奏。
バグパイプ、アコースティックギター、ウッドベースに、ボンゴ、三味線、尺八、オカリナやヴォーカルまで混ざるフリーセッションに周囲の一般来場者もわらわらと集まり、誰からともなく手拍子と合唱が始まって、謎の一体感が生まれた。
いつの間にかM3会場はウィー・アー・ザ・ワールド状態で、なんとも多幸感に溢れた幕引きとなった。
※後で知ったことだが、終了間際の『蛍の光』演奏はM3では恒例行事らしい。M3でフリースペースができた時、あだむ@タマ(https://twitter.com/adamat)が終了間際に周りを巻き込んでセッションしたのが始まりだそうだ。
【音楽と真摯に向き合うリスナーたち】
音楽ジャーナリストの宇野維正は、その著書『1998年の宇多田ヒカル』で、次のように記している。
「2015年夏、Apple Music、LINE MUSIC、AWAといった各社の定額制ストリーミング・サービス(中略)が本格的にスタートしたことで、90年代末以降ぜうっとCD不況に苦しんできた日本の音楽業界は、「もうどう足掻いても今後CDは音楽産業の柱にはなり得ない」という「悟り」の領域に達しつつあります(p9)」
「CDから配信へ、配信から定額制ストリーミング・サービスへ。そして、何よりも「音楽は水や空気のようにタダのもの」という認識を持ったインターネット普及以降のリスナー層の増大によって、音楽を取り巻く環境は目まぐるしいスピードで現在も変化し続けている(p22)」
確かに、一般的には上のような傾向があるし、その認識はもはや常識化してきていると言っていい。
しかし、私がM3で見た光景は、上記引用部とはまったく別の何かだった。
それは何だったろう?
一部のマニアックな人々による特殊で例外的な現象? ゲーム音楽やボカロといった一部のジャンル特有のもの?
その可能性はあるが、CDを買いに列をなす人々や、何十枚も一気にCDを買う人々、自分で作ったオリジナルでクオリティの高いCDを売る人々を目の前に見てしまったら、あれを例外だと簡単に片付けることはできない。
私には、彼ら(来場者と出展者)は、音楽に対して今もっとも真摯に向き合っているリスナーのように見えた。
宇野がその価値ある著書で記したように、「音楽を取りまく環境は目まぐるしいスピードで変化し続けている」という、まさにその次の変化が、M3にはあったのかもしれない。
少なくとも、「『もうどう足掻いても今後CDは音楽産業の柱にはなり得ない』という『悟り』」を開くことは、いったん留保すべきではないだろうか。
でなければ、私たちは、音楽を取り巻く環境の変化を見誤るだろう。
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