夏の始まりと、ケツメイシのワンマンライブ
海の匂いがした。いや、安い比喩表現ではなく、本当に海の匂いがしたのです。原宿駅を出て代々木第一体育館へ向かう途中、誰かが身にまとう香水の香りが漂ってきました。ケツメイシのディスコグラフィーには夏をテーマにした曲が多いので、なんだかこの時点でウキウキしてしまいます。
そんな夏の訪れを感じた7月1日、ケツメイシのワンマンツアー『幻の六本木大サーカス団『ハッキリ言ってパーティーです!!』」に行ってきました。あらゆる意味でアツかった。
ケツメイシの曲は全てSpotifyで聴くことができますから、ぜひこの記事はコチラのプレイリストを片手にご覧ください。
Text_Kawasaki Yuki
Edit_司馬ゆいか
徹底した「サーカス」ぶり
コンセプチュアルな表現として「サーカス」という言葉を使ったのではなく、今回彼らが目指したのは正真正銘のサーカスでした。ステージの装飾や演出はもちろん、運営スタッフまで一様にサーカス団員になりきっていたのです。ノリは軽く、けれども内容は細部まで徹底しているのがケツメイシ。昨年メジャーデビュー15周年を迎えましたが、(もちろん良い意味で)一向に落ち着く気配を見せませんね。常に挑戦者。音楽においてもそれは言えて、彼らの出発点であるレゲエ調ヒップホップから、その時代によって次々と音像を変えてゆきました。試行錯誤しながら突き進むその姿は、いつまで経っても瑞々しい。すっかり貫禄ある見た目になりましたが、その心はまるで部活少年のよう。
オープニングはパレードで
暗転後、サーカス開幕を告げたのはパレードでした。客席の後方から「本物」のサーカス団員が次々になだれ込みます。ピエロやブラスバンド、ダンサーなど、色とりどりのパフォーマーたち。賑やかに行進しながら、客席の間を縫ってステージ上へ向かいます。「掴み」と呼ぶにはあまりに完成度が高く、このパフォーマンスだけでもライブが成立しそうなほどでした。
Ryo
そうして、ステージ上のスクリーンにビビッドな色彩の映像が映し出され、『パッション!!!!』へ。映像と音楽がリンクする仕方は、彼らがEDM以降の音楽シーンを横目で見ていた結果でしょう。
そこから『痔持ち一代』、『ヤシの木のように』とアッパーチューンが続き、会場の熱気はぐんぐん上昇。
ケツメイシ – 『ヤシの木のように』
ケツメイシの圧倒的MC力
Ryoji
ライブが音楽産業の根幹を担う今、現場で発揮できる武器を持つアーティストは強いです。その一つがトーク力だとすれば、ケツメイシは屈指の実力者だと思いますね。特にMC担当のRYO。下ネタ、自虐、皮肉…。オールマイティーにトークをこなします。この日もキレキレでした。CD不況の現在にあって、「我々も新規顧客の獲得、客単価アップをテーマに掲げております!」と万人規模のファンを前に言えてしまう潔さ。下ネタに至っては、その際どさゆえここには載せられませんが、いつになく攻めていたとだけ伝えておきます。
一本の物語のようなセットリスト
DJ KOHNO
後々明らかにしてゆきますが、この日のセットリストには一本の物語のような流れがあったように思います。先述のアッパーなEDM的展開のあとに披露されたのは、『カリフォルニー』、『いい感じ』、『ボサノBAR』。夏の夕暮れのようなチルアウトは、火照った体にダイレクトに届きます。このパートに限らず、曲と曲の繋がりには何かしらの意味があって、筆者にはセットリストそのものがケツメイシのメッセージになっているように思えたのです。
ケツメイシ – 『カリフォルニー』
ますます本格化する劇団ケツメイシ
大蔵
ツアーでは恒例となっていて、ファンが歌やラップ、MCと並び毎回楽しみにしているものがあります。
それはコント。監修を務めているのはアンタッチャブルの柴田英嗣氏。2011年のツアーからセットリストに加えられたのですが(初披露は大阪)、回数を重ねるごとにクオリティを上げてゆき、今ではさながらミュージカル並みの規模にまで達しているほどです。もちろん、ここでもライブのテーマは関係しています。
今回はサーカス。とある理由で危機的状況に追い込まれたサーカス団を、ケツメイシのメンバーが救います。結論から言って、このたびのコントも仕上がっておりました。脚本も演技もセットも、全部本気。間の取り方もツッコミのテンポも、付け焼き刃のそれではありません。これを楽しみに来ているファンもいるのでは。
けれども、彼らの本業はミュージシャン。これだけのパフォーマンスを見せておきながら、そこは決して譲りません。このコント中に披露された新曲、『人生劇場』。音楽そっちのけで練習に励んだと思われる超絶ミュージカルは、実はこの曲のためにありました。「俺らいつでもイカれたミュージシャン」と歌い、「時には躊躇なくコメディアン」と言い放つ。ここに、これまで様々な紆余曲折を経てきたケツメイシの生き様を見たような気がします。
ケツメイシが体を張って僕らに訴えかけたモノ
コント終了後に『テイクオフ』や『エターナリー』などのメッセージソングが披露されましたが、実はここまで含めてミュージカルだったのではと思います。
自分たちの本域ではないミュージカルに果敢に挑戦したケツメイシ。その姿を僕らに見せることで、自分たちが歌っていることを信じてもらいたかったのでは。『テイクオフ』の曲間、MCの大蔵はこう語っていました。「今から何かを始めようとしている人、何かに挑戦しようとしている人、僕らは全ての人の背中を押します」。
さとり世代ど真ん中の筆者ですが、少なからずこみ上げてくるものがありました。
ほんのり昔を思い出して、鼻の奥がツンとして、最後は無理やり元気付けられた。
『ディスコ☆部長』や『君にBUMP』など、ケツメイシらしい80’sパーティー・チューンも楽しいけれど、アンコールで披露された『手紙メドレー(過去〜現在〜未来)』は何よりもクリティカルに心に響きます。
大蔵がイントロで「みんな覚えてる?」と言いました。筆者の勝手な解釈かもしれませんが、この言葉には二つの意味があると思います。「みんな(あの頃を)覚えてる?」と、「みんな(この曲を)覚えてる?」の二つ。ライブ中は一際雄弁であった大蔵が、このときだけあえて余白を残したような気がするのです。
『手紙(過去〜)』のビートが流れたとき、少しだけ昔を思い出しました。中古で『ケツノポリス2』を買った中一の頃、『トモダチ』だけを一曲リピートで聴いてたっけ。当時はすっ飛ばしてた『手紙』。この曲が何を歌っているのか、今なら痛いほど分かります。
最後は『RHYTHM OF THE SUN』で仕上げ。なんてズルいセットリストでしょうか。ミュージカルで自ら体を張り、その勢いで僕らを励まし、右も左も分からなかったあの頃を暴き、挙句ラテンノリ全開で締めくくる。こんなの、元気にならないわけがない。ジェット・コースターみたいに目まぐるしい展開でしたが、そこにはしっかり愛がありました。
「自分たちは実力派アーティストではない」と彼らは言うけれど、いつだって僕らを勇気付けてくれるのはケツメイシの音楽です。あの頃もあの曲も、僕らはちゃんと覚えている。
ケツメイシ – 『RHYTHM OF THE SUN』
■KTM TOUR 2017 幻の六本木サーカス団「ハッキリ行ってパーティです!!」 セットリスト
01. パッション!!!!
02. 痔持ち一代
03. ヤシの木のように
04. カリフォルニー
05. いい感じ
06. ボサノBAR
07. きみがすき
08. 君とワンピース
09. 人生劇場
10. 人間交差点
11. テイクオフ
12. エターナリー
13. さらば涙
14. 僕らのために…
15. 僕らの暮らしっく
16. ディスコ☆部長
17. 君にBUMP
18. 闘え!サラリーマン
en. 手紙メドレー(過去〜現在〜未来)
en. 友よ〜この先もずっと・・・
en. RHYTHM OF THE SUN
■KTM TOUR 2017 幻の六本木サーカス団「ハッキリ行ってパーティです!!」
日時: 2017年7月1日
会場: 代々木第一体育館
<ケツメイシ公式サイト>
http://www.ketsume.com/index.php
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