King Gnu Live Tour 2019 AW ファイナルをレポート!
Photo_Ayumu Kosugi
Text_Taishi Iwami
2019年に国内のポップシーンで起こった、もっとも大きな出来事のひとつといえば、King Gnuの大躍進だろう。そしてその功績の本質は、彼らがただマジョリティに切り込んで“売れた”だけではないことだと思う。
人それぞれに、育った環境のなかで培われた趣味嗜好や価値観がある限り、社会には避けられない分断や対立が生まれてしまう。例えば、ポップミュージックにおける“洋楽”と“邦楽”。彼らは、曲構成の自由度が高い前者がルーツにありながらも、国内で活動する以上、Aメロ~Bメロ~サビの展開が重要視される後者を意識していると公言しているが、そのアティチュードは、単に両者を対立関係においてカウンターを打つか擦り寄るかの、二択に迫られた結果ではないように感じる。もし彼らが何かと対峙しているとすれば、それは分断という概念そのものではないだろうか。差別のような絶対的悪は排除すべきだが、人道的に問題のない範疇においても、相まみえない価値観があることは仕方がない。それらは決してわかり合うことはなかったとしても、互いの存在を認めることの大切さを、さまざまな音楽や文化、精世界の折衷センスと学びをもって語りかけ、快楽を求める本能によって叩きつける、ロジックと衝動の化学反応によって生まれた、まったく新しいポップの形。それがKing Gnuなのではないかと感じたステージだった。
場内を見渡すと、実に客層と年齢層の幅が広い。わかりやすく目で見てとれて言語化しやすいところだと、先述した”邦楽“と”洋楽“の話にもニュアンスが近いが、国内のロックバンドを中心にしたフェスでよく見受けられるような、フィジカルな機能性を重視した服装の若者から、こういう日こそドレスアップすることを信条としてるような、エッジィなモードやストリートファッションの人々など、一括りにできない個性が偏ることなく一つのフロアにいる状況が腑に落ちる。
常田大希のときにシャープでときにノイジーなギターと色気たっぷりの低音ボイス、井口理の唯一であり普遍的でもある美しいハイトーンボイスと少しシニカルで茶目っ気のあるパフォーマンスやMC、勢喜遊の目を見張るパワフルなプレイとモダンなミニマリズムがめくるめく展開をみせるドラム、じっくりと低音を響かせたかと思えば手数やフレージングの妙で魅せ、縦横自在にグルーブを操る新井和輝のベースなど、ツアーやさまざまなフェス/イベントなどを通して鍛え抜かれた個の能力と、それらのアンサンブルやダイナミクスの豊かな表情は見事だ。
覚醒作用と牽引力に満ちたドラムのキックが轟き、空間を完全に支配した「飛行艇」、そのドラムとベースとシンセの低音が、ライブならではの爆音で疾走する「Sorrows」、ストレンジにシンセが揺れる「あなたは蜃気楼」、洒落たコード感とオルタナティブなエネルギーが入り混ざる「It’s a small world」では井口がハンドマイクでステージ前方に。空間的なアンビエンスが場内を包む「NIGHT POOL」から大ヒット曲「白日」冒頭で井口の声にスポットが当たる流れは得も言われぬカタルシス。「まだまだいけるか!」とお馴染みの拡声器を持った常田と新井もステージ前方に乗り出した「Slumberland」、クラシカルなピアノと現代的な低音の絨毯とのマッチングが新鮮な「The hole」、続くアコースティックコーナーでは勢喜がカホンを、新井がウッドベースを演奏。
「McDonald」で観客の合唱も合わせて曲が完成していく。それぞれがもとの持ち場に戻り始まった「Tokyo Rendez-Vous」の低音シンセリフが鳴り響くと、再びアッパーな熱量がぐんぐん上昇。「Prayer X」のうっとりするような歌メロで巻き起こった歓喜の渦を、根こそぎフィジカルな高揚感へと引っ張った「Flash」、今日という日を謳歌したことを祝福するかのように、パンキッシュな「Teenager Forever」で本編は締め。アンコールは新曲の「傘」をしっとりと響かせての「サマーレイン・ダイバーで」でシンガロング。ギターをフロアに投げ込むほどに気持ちが高まった常田の姿が象徴する、完全燃焼の全22曲。振り返ってみると、ウッドストックから90年代のオルタナティブ、最新のインディーロックやソウル/R&B、エレクトロニックやダンスミュージック、そしてガラパゴスなJ-POPまでも飲み込み、どの角度から入った人にも、身を任せればただ楽しく、掘り下げればさまざまなレイヤーが用意されている、例を見ないレベルでの”コアで大衆的なポップミュージック“の世界ができあがっていた。
そんなオリジナルで多面的かつポップな演奏だからこそ、彼らは急速に多くの人々から愛されたのだろう。肩を組んで揺れたりサビで手を掲げて前後に振ったりと、彼らの音楽を皆でシェアする人々の波もあれば、思い思いに踊ったり、ステージを凝視しながら音に聴き入ったりと、とことんパーソナルに没頭する人々の姿も。そして、そんな多種多様な人々が、何事にも縛られることなく楽しむ流れのなかで、サビや曲間で放った声が重なってひとつになり、ステージを吹っ飛ばすほどの爆音が生まれる瞬間は、筆者個人の感覚ではあるが、人間ひとりひとり違って当然だと、皆が互いの存在を認め合う叫びのよう。King Gnuの面々は、そのバンド名のごとく自分たちも含めた観客やファンを“ヌーの群れ”と言うが、分断や衝突の繰り返しやあるまじき圧力にまみれ、どんどん居場所が狭くなる人間社会とはまったく別次元の、エモーショナルでファンタジックな新しい世界がそこにあった。
King Gnuは2020年1月15日にニューアルバム『CEREMONY』を発売、それにともない2月末からは初のアリーナツアーに出る。10年代という激動のディケイドの向こう側のど真ん中で、彼らの音楽がどんなふうに鳴り響きシーンと時代が動くのか、楽しみで仕方がない。
King Gnu公式ウェブサイト
King Gnu公式Twitterアカウント
King Gnu公式Facebookページ
King Gnu公式Instagramアカウント
King Gnu公式YouTubeチャンネル
SHARE
Written by